新築マンションで気になる「音」のトラブル!
壁や床の遮音性は、厚さと工法を確認しよう

2021年6月1日公開(2021年6月30日更新)
ダイヤモンド不動産研究所
監修者 碓井民朗:碓井建築オフィス代表 一級建築士、建築家

マンションのクレームでもっとも多いのは、昔も今も「音」の問題だ。これは住戸と住戸が壁(左右)や床(上下)で接しているマンションという建物の構造上、避けがたい面がある。しかし、設計上の配慮などによってある程度防ぐことも可能だ。遮音性に関わる具体的な原因と対策のポイントを探る。

隣戸からの音漏れは「戸境壁」の厚さによって変わる

 同じ住戸の中で、部屋と部屋、部屋と廊下などを仕切る壁を「間仕切り壁」という。それに対し、住戸と住戸を隔てる壁は「戸境壁(こざかいかべ)」と呼ばれる。「間仕切り壁」も一定の遮音性が求められるが、同じ住戸内に暮らしているのは家族どうし。多少、音が伝わってもさほど気にするわけではないだろう。

 しかし、「戸境壁」は赤の他人が住む隣の住戸との間を隔てる壁であり、「間仕切り壁」よりはるかに高い遮音性が求められる。そのため、戸境壁はタワーマンションを除けば、鉄筋コンクリートでつくるのが原則だ。鉄筋コンクリートは非常に重く、空気の振動である音の伝わりを遮る性能が高いからだ。

 「ただ、鉄筋コンクリートの戸境壁であっても、厚さによって遮音性は変わってきます。戸境壁の鉄筋コンクリートの厚さは最低でも18㎝が目安ですが、これは戸境壁を挟んだ隣の住戸のリビングとこちらの住戸のリビング、居室と居室、水回りと水回りというように同じ用途のスペースの場合です。居室の向こうが隣の住戸の浴室やキッチン、トイレなどにあたる場合は、戸境壁の厚さは20㎝以上欲しいところです。18㎝だと静かな夜中や早朝などには水音が聞こえる可能性があります。さらに、寝室の向こうがエレベーターシャフトの場合、戸境壁の厚さは25㎝以上ないと、エレベーターが上下する音やドアの開閉音などが聞こえてくるかもしれません」

 こうアドバイスするのは、長年分譲マンションの設計に携わり、現在はデベロッパー向けの設計監修、購入者向けの購入相談などを手掛けている一級建築士の碓井民朗氏だ。

 戸境壁に求められる厚さはこのように、隣の間取りなどとも関係する。新築マンションを選ぶ場合、検討している住戸の間取りだけでなく、上下左右にくる住戸の間取りとの関係をチェックすることが「音」のトラブルを避けることにつながる。

表面の仕上げは、クロス直貼りのほうが遮音性が高い

 「戸境壁」の遮音性はその厚さだけでなく、表面の仕上げも重要だ。

 結論から言えば、コンクリートにクロスを直接貼る仕上げ(直貼り)が遮音性の点で優れるとされる。

 戸境壁の表面の仕上げにはもうひとつ、石膏ボードを使った二重構造にする方法がある。これは、戸境壁のコンクリートの両側(隣り合う住戸の室内側)に軽量鉄骨の間柱を2~3㎝ほど離して立て、そこに石膏ボードを貼ってクロスで仕上げるものだ。こうしてしまうと、戸境壁の両側に石膏ボードで密閉された空間ができる。この空間で特定の周波数の音が共鳴し(太鼓現象)、遮音性が落ちるのだ。

 「このことに関してはかつて、大手ゼネコン10社ほどの技術研究所や技術部が実験を行い、報告書を不動産業界に配布したことがあります。それ以来、ほとんどのデベロッパーやゼネコンは、戸境壁についてはクロスの直貼りを原則としています。ところが、大手ゼネコンの一部ではいまだに、マンションの戸境壁を二重構造にしているケースがあります」(碓井氏)

二重構造の戸境壁は要注意

 なぜ戸境壁を二重構造にするかといえば、コスト対策からか未熟な職人を使っているため、コンクリートの仕上がり精度が悪いからだという。

 コンクリートの戸境壁は、鉄筋を組んでから型枠で囲い、そこにコンクリートを流し込んで4週間ほど乾燥させる。型枠をきれいに組み、また型枠にコンクリートを流し込んだ後、コンクリートの重さで型枠が歪まないように鋼管のサポートで固定する作業をどれだけ正確にきちんと行えるかで、できあがる戸境壁の仕上がり精度が変わってくる。コンクリートの傾きが大きかったり表面に凹凸があったりすると、そこにクロスを直貼りすればすぐにバレてしまい、クレームにつながる。

 そこで戸境壁の仕上がり精度が悪い場合、間柱を立て、石膏ボードを貼ってクロスで仕上げるのだ。固まってしまったコンクリートを修正するのは大ごとだが、間柱や石膏ボードは施工時に調整すればかなり垂直に近く、きれいに仕上げられる。

 「パンフレットの中で、戸境壁について『コンクリートにクロス直貼り』となっていればいいのですが、『コンクリートにクロス直貼り(一部除く)』といった表示があったら要注意です。『(一部除く)』というのが何を意味するのか、またそれはどこの部分なのか、必ず確認してください」(碓井氏)

 なお、戸境壁ではなく、直接、外に面しているバルコニー、共用廊下の外壁であれば、コンクリートの厚さが18㎝ないし15㎝あれば、室内側が二重構造になっていても大丈夫だという。壁の向こうは屋外であり、隣戸の生活音が聞こえる心配はないからだ。

床の遮音性は「梁間面積」が深く関係

 次に、床の遮音性について考えてみよう。マンションの「音」の問題は、実際には隣同士よりも上下階の間のほうが深刻になりがちだ。隣同士では、生活音の空気振動が戸境壁を通してどれだけ伝わるかであり、戸境壁が二重構造だと太鼓現象が起こってしまうのは先ほど説明したとおりだ。

 それに対して上下階の間では、上の階で人が飛び跳ねたり、椅子を引いたり、モノを落としたりすると、コンクリートの床スラブが直接、振動して音が下の階に伝わる。「重量衝撃音」や「軽量衝撃音」といわれるもので、人や物などがコンクリートの床スラブを直接、振動させるので音が伝わりやすい。

 逆にいうと、コンクリートの床スラブが振動しにくければ遮音性は高くなる。床スラブが振動しにくいかどうかは、床スラブの厚さと床スラブの梁間面積との関係で決まる。床スラブが厚くなればなるほど、振動しにくいのは戸境壁と同じだ。

 梁間面積とは、四方を梁で固定された床スラブのひと区切りの広さのことだ。梁間面積が狭くなればなるほど、やはり床スラブは振動しにくい。

 ちなみに、重量衝撃音に対する遮音性はLH●(●は数字)で表示する。LHの後に来る数字が小さいほど遮音性が高く、上階で子どもが飛び跳ねる音が聞こえても意識することはあまりないレベルがLH45と言われる。

床スラブの厚さは20cm程度が一般的

 「30年ほど前まで、マンションの床スラブの厚さは15㎝とか18㎝しかなく、LHは55(聞こえる)とか60(よく聞こえる)くらいしかなかったのではないでしょうか。現在は20㎝程度が一般的になりましたが、これくらいの厚さでも、梁間面積がある程度広くなると、振動を十分抑えることができません。構造設計者に聞くと、床スラブの厚さが20㎝の場合、梁間面積が30㎡以上になると、上の階の重量衝撃音がかなり聞こえる(LH55)といいます」(碓井氏)

 そこで、床スラブの梁間面積を小さく分割することが大事になる。床スラブの梁間面積を小さく分割するには、大梁(柱と柱をつなぐ太い梁)の間に小梁と呼ばれる小さめの梁を渡す。

 専有面積が70㎡で床スラブの厚さが20㎝なら、小梁が2本ないとLH50にならない。床スラブの厚さが23㎝あっても、梁間面積を35㎡弱にしないとLH50にならず、専有面積70㎡なら小梁はやはり最低1本は必要だという。

小梁を設けない工法は、工事費削減が主目的

 これに対し、「アンボンドスラブ工法」や「ボイドスラブ工法」といって、70㎡程度までなら小梁を設けない工法がある。こういう工法を採用したマンションでは、小梁がないので天井が平らになり、リフォームしやすいといった説明をしているが、碓井氏によればむしろ工事費の削減が主目的だ。

 「アンボンドスラブ工法」は、建物の妻側の両端から強く引っ張った鋼線をスラブの中に通し、スラブのたわみを抑えるもの。確かにたわみはある程度抑えられるが、スラブの梁間面積は広いままなので、振動までは十分とめられない。また、火災などで鋼線が伸びると、スラブ全体がたわんでしまう。

 「ボイドスラブ工法」は、スラブの中に樹脂フォームなどを入れて空洞をつくり、スラブを軽量化しつつ強度を上げ、振動を防ぐもの。スラブの厚さは27㎝くらいになり、こちらも理論上、小梁は不要になる。しかし、実際には十分には振動を抑えられない。

 「私も以前、構造設計者の勧めでボイドスラブを採用したことがあります。専有面積が75㎡ほどのマンションで小梁なしにしたのですが、周辺が夜間、静かなところだったので、上階の重量衝撃音がよく聞こえるというクレームがたくさん出て、困ったことがあります」(碓井氏)

 しかも、マンションの天井にはキッチンや浴室からの排気ダクトが必ず通る。「アンボンドスラブ工法」や「ボイドスラブ工法」でも、天井が完全にフラットになることはない。

 床の遮音性についていえば、通常の鉄筋コンクリートのスラブで、厚さが20㎝以上あり、小梁を適切に入れて梁間面積が30㎡程度に分割されているのが、もっとも安心できるだろう。

タワーマンションの床や戸境壁は、軽量化のため遮音性が低い

 ただし、タワーマンションの場合は話が違ってくる。日本では、地盤面からの高さが60m(約18階建て)を超える建物を「超高層建築物」としている。「超高層建築物」になると、構造設計の考え方が高さ60m未満の場合とは大きく変わる。

 簡単に言うと、高さ60m未満の建物は柱や梁をがっちりとつなぎ、地震の揺れに耐えることを基本とする。対して60mを超える建物は、建物全体が柳のようにしなって地震の揺れをやり過ごすことを基本にしている。そのためには建物全体を軽くつくることが不可欠なのだ。

 そのため、タワーマンションは床のスラブや住戸間の戸境壁も、通常のマンションとはつくりが違う。

 「タワーマンションの床スラブに、軽量化を目的に用いられるのがハーフPC版(工場で床版の厚さ半分程度をあらかじめ製作し、現場でその上に鉄筋を配置・コンクリートを打設して残りの厚さ分を完成させるもの)です。柱と梁をつくったら床の部分にハーフPC版を敷き、その上に鉄筋を組んでコンクリートを10㎝~15㎝ほど流し込みます。こうするといちいち床をつくるために型枠を組む必要がなく、小梁も不要で作業効率がアップするのです」(碓井氏)

 しかし、ハーフPC版はコンクリートの現場打ちスラブと比べて軽いため、振動しやすく、子供が飛び跳ねたときなどの重量衝撃音の遮音性(LH+数字で表示。数値が低いほど衝撃音が伝わりにくい)があまり良くない。RC造のマンションで小梁を使ったコンクリートの床スラブであればLH50くらいのところ、タワーマンションの床スラブはLH55程度が多いという。

 また、前述したように、タワーマンションの戸境壁にはコンクリートが使用できない。軽量化目的で使われるのが、乾式工法の戸境壁だ。乾式工法の戸境壁といっても実際のつくり方には何種類かある。

 最も遮音性が低いのは、鉄骨の間柱を立て、その両側に石膏ボード(厚さは12.5㎜以上必要)を二重に張り、クロスを貼って仕上げるもの(画像A)。石膏ボードの間にグラスウールを吸音材として入れたとしても、一方の石膏ボードの振動が鉄骨の間柱を通して反対側に伝わるため遮音性はあまり期待できない。クロスの表面に耳を当てれば、隣の住戸の室内の様子がかなりはっきり分かるだろう。

 これより多少レベルアップしたのが、間柱をチドリ状に立て、間にグラスウールを波型に充填した戸境壁(画像B)だ。両側の石膏ボードが間柱を介して接しているわけではないので、遮音性は高まる。しかし、間の空気層が振動することで、やはり多少の音は伝わる。

 「少なくとも、二重張りにする両側の石膏ボードにシート状の鉛をはさんでいれば、壁の重量が重くなり及第点をつけていいでしょう(画像C)。さらに最近は、間柱の代わりに繊維入りの押し出し石膏形成板を使ったもの(画像D)も登場しています。両側の石膏ボードはやはり鉛入りで、吸音材も入っています。これくらいになると遮音性はRC造に引けを取りません。タワーマンションを選ぶなら、これくらいの戸境壁のものなら安心できるでしょう」(碓井氏)

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