株式レポート
2012年5月8日 マネックス証券

第15回 日本時間の為替市場はローカル市場 - 広木隆の「投資の潮流」

前回は「材料株」というものを取り上げた。材料株の値動きは合理的な根拠がなく、そういう材料株を売買するのは投機以外の何ものでもないと述べた。その伝でいけば、ユーロもまさに材料株の投機みたいなものである。相場の世界では「Buy on rumor, sell on fact (噂で買って、事実で売る)」と言われるくらい、材料が株価に織り込まれるのは速い、と前回のコラムでも述べたのだが、先日の欧州の選挙を受けた後のユーロの動向を見ると、果たして為替市場がどこまで材料を織り込んでいたのか首をひねりたくなる展開だった。

6日に行われたフランスの大統領選挙では現職のサルコジ大統領をオランド・前社会党第1書記が退けて勝ち、17年ぶりの社会党政権が誕生することになった。同日、ギリシャで行われた総選挙では欧州連合(EU)などが求める緊縮財政に反対する極左・極右勢力が躍進し二大政党による連立与党が過半数割れとなった。こうした結果を受けて、欧州各国が取り組んできた緊縮財政路線が阻まれる、そしてそれは欧州債務危機の解決に向けた障害になるという見方から、選挙の大勢が判明した翌7日の東京の外国為替市場ではユーロが大きく売られる展開となったのだ。

レポートなどでも指摘しているが、オランド政権の誕生やギリシャの連立与党の退潮で欧州の緊縮財政路線の見直しは不可避としても、それが欧州債務不安を再び加速させることに即つながるものではない。その理由をここで述べるのは紙幅に余裕がないが、仮に百歩譲ってそうだとしても - すなわち、今回の選挙結果が欧州債務不安再燃につながるとしたら、もっと前からユーロ安が進んでいなければおかしい。なぜなら今回の選挙結果は事前に観測されていた通り、予想通りであってまったくサプライズではなかったからだ。オランド氏がトップの得票率となった4月22日のフランス大統領選挙の第1回目の投票直後から5月4日の米国雇用統計下ぶれでリスクオフが強まるその直前までユーロは終始堅調だった。その間にオランド氏優勢を伝える世論調査の結果などが市場に流れていたにもかかわらず、である。つまりユーロは「Buy on rumor, sell on fact (噂で買って、事実で売る)」を地で行ったことになる。そうだとしたら、オランド氏の当選はユーロにとって買い材料ということではないか!

まったくもって混乱する。欧州の選挙結果を受けてのユーロ安をどう解釈すればよいのだろうか?ひとつの回答は、日本時間に起きていてユーロを取引する参加者が - 日本人の投資家とは言ってない - その程度のレベルであるということだ。事前にさんざん報道されていた(しかも、たいして悪材料とも思えない)材料が出たのを確認してから売っても、日本時間のユーロ相場はまだ下値をつけにいくくらいに材料を織り込んでいなかったということだ。これでは洗練されたマーケットとはお世辞にも言えない。事実、その後ヨーロッパの投資家が起き出してきてからは、ユーロは買い戻されている。そのままニューヨーク時間に入ってもユーロの買戻しは続き、前週末の終値手前まで戻った。そうした一連のユーロの動向を主要海外メディアはただ一言「ユーロ下落」と報じた。欧州不安再燃でユーロが前週末の終値対比下落したというのだ。日本時間の大幅安からは値を戻していることには一切ふれず、ニューヨーク市場の前営業日の終値と比べている。為替は実質24時間、グローバルに取引されているのに、日本時間帯の値動きは無視されている。これはまさに日本時間のマーケットが「ローカル」扱いされていることを示す一例だが、だからと言って「ローカル扱いするな!」とクレームをいう気にはなれないところが、また悲しい。

チーフ・ストラテジスト 広木隆