株式レポート
2012年6月1日 マネックス証券

低下する米欧の長期金利〜短期と長期の視点〜 - 村上尚己「エコノミックレポート」

・昨日(5月31日)発表された、米国の5月分 の経済指標は総じて事前予想を下回った。米ADP社が発表した民間雇用者数は+13.3万人と前月(+11.3万人)からやや改善したが、3月までの+20万人前後の伸びを下回った(グラフ参照)。更に、先週まで横ばいで推移していた、週次の新規失業保険申請件数もやや増加(=悪化)した。


・また本日(6月1日)発表された中国製造業の5月分PMIも50.4(前月53.3)と、年初以来の水準まで低下した(グラフ参照)。これまで、中国大企業を中心とした同サーベイは改善していたが、トレンドが変わった可能性がある。米ADP雇用統計では、2ヶ月連続で製造業の雇用はほとんど増えておらず、これらを踏まえると世界的に製造業の生産活動が減速しているとみられる。


・最終的には、今晩発表される同月分のISM製造業景気指数と雇用統計の数字が重要だが、先の経済指標から判断すると、大きな改善は期待できないだろう。雇用統計の非農業部門雇用者数は市場予想+15万人だが、これを若干下回る程度の数値に着地するとみられる(5月の雇用統計直前予想)。

・今晩の雇用統計などが改善しなければ、足元の米国の経済指標は、2010、11年の夏場に起きた景気減速と様相がかなり似てくる(グラフ参照)。


・もちろん、既に米国株式市場は、欧州債務問題をきっかけに5月初旬から大きく調整しており、経済指標の減速は、ある程度織り込んだ可能性もある。

・ただ、2010、11年の夏場に起きた米国株の調整を振り返ると、いずれも年初を下回る水準まで調整を経てから、年末にかけて反転している。過去2年同様、景気減速が株式市場で織り込まれるなら、年初の水準を維持している米国株については、下落リスクに警戒すべきかもしれない。また、昨日も紹介したが、債券市場では既に米国10年金利は過去最低水準を下回るなど、年初の水準より下にある。株式市場の景況感が、債券市場の想定に近づくリスクがある(グラフ参照)。


・一方、昨日レポートでも紹介したが、欧州問題再燃をきっかけとした安全資産への資金逃避で、主要先進国の金利低下が続いている。イタリア、スペインなどの国債の投げ売りで、主要先進国の国債への資金シフトが起き、これがもっとも顕著に現れているドイツ国債市場では10年金利が1.2%台まで低下、米10年国債金利の1.5%台と同様に歴史的な低金利となっている。短期的にみれば、こうした資金シフトに加えて、債券市場が先に説明した景気減速を想定していたことが、大幅な金利低下をもたらしている。

・ただ長期の視点で、この金利水準を冷静に考えるとどうか。現在の1%台の米欧の長期金利は、1990年代後半の金融危機後に、デフレと低成長の罠に陥った日本のような「特殊な状況」でなければ、説明することは難しい。

・つまり、10年以上の長期にわたり、名目経済がほとんど増えない経済状況である。米欧主要国の債券市場で、米欧経済の将来の「日本化」が起こる前提で価格形成されているといえる。なお、米国の名目経済成長率(GDP)をみると、依然として4%前後を保つなど、1990年代後半以降の日本とは全く異なっている(グラフ参照)。


・リーマンショック後2009年以降の回復局面で、米国や欧州の「日本化」が度々懸念されたが、米欧主要国がデフレに陥ることはなかった。長期的な経済ファンダメンタルズが無視され、欧州の政治情勢で翻弄される欧州債務問題への不確実性に、金融市場が支配される領域に入りつつある。

・欧州当局による危機対応の足並みが揃うまで、状況は変わらず、目先は警戒が必要かもしれない。ただ、長期的な目でみれば欧米の債券市場では、持続不可能な価格形成が起き始めている。「こうした異常な状況は長続きしない」という冷静な認識を持つことも重要だろう。


(チーフ・エコノミスト 村上尚己)