株式レポート
2012年8月15日 マネックス証券

悪循環から抜け出せるか?〜ヨーロッパが嵌った罠〜 - 村上尚己「エコノミックレポート」

・レポートについて次のようなフィードバックを頂戴した。「ユーロ危機関連の情報も頻繁に取り上げて欲しい」。最近は、欧州情勢に動きがなくテーマとして採り上げていなかった。ただ、予想することは非常に難しいが、今後のシナリオを左右する大きな要因であることに変わりない。

・このテーマについて、大きな動きがあった直後、7月27日8月3日のレポートで採り上げているのでご参照頂きたい。まずは、7月26日にECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が「ユーロを守るためにあらゆる措置を取る」「(スペインなどの)高利回りの問題はECBの責務の範囲内にある」という発言で潮目が変わった。

・実際にはその後のECB理事会では、スペイン国債の買い入れなど具体策は発動されず、梯子を外した格好になった。ただ、いずれはこうした対応が実現するという思惑が残り、小康状態を保っている状況にある。

・金融市場の値動きをみると、スペイン国債金利(対ドイツ金利との格差、スペイン国債の不履行リスクを反映)は、7月末のドラギ総裁の発言前がピークで、政策発動への期待から低下しているが、5%と大きな利回り格差が残っている(グラフ参照)。為替市場においての、ユーロドルもスペイン金利とほぼ同じ動きを辿っている。今後のECBを含めた、具体的な政策対応が実現するかどうか次第ということだろう。


・各種報道で伝えられているが、4―6月ユーロ圏のGDP成長率は前期比-0.2%と再びマイナス成長となった。この統計発表をうけて、ドイツの成長率が予想を上回ったことが、市場ではやや好感されたようだ。ただ、イタリアやスペインなどで、金利上昇そして緊縮財政の押し下げで、2011年末から欧州経済は景気後退局面に入ったが、この状況は一向に変わっていない。プラス成長を保ったドイツも成長率は減速傾向にあり、これはイタリアなど南欧諸国の落ち込みが波及しているためである(グラフ参照)。


・今年6月にはギリシャ総選挙で最悪シナリオが回避され、緊縮財政の行き過ぎもやや是正された。そして、ECBを含めて市場安定化策に動く中で、政治や政策への思惑で市場は揺れ動いている。今は政策対応への期待で、市場は落ち着いているという状況である。

・ただ、2010年から振り返ると、欧州では、経済全体を安定させる十分な政策対応は実現せず、経済悪化が長期化している。そして、経済の停滞によって、財政問題の解決が更に難しくなるという、悪循環に陥ったままである。もちろん、現在のような悪循環から抜け出す対応はあるし、これに市場が期待しているのは事実である。

・問題は市場が期待している政策が実現するかである。長期的な欧州財政統合への合意に向かいつつあるとしても、ドイツ首脳の思惑や政治事情が影響する中で予想は難しい。目先は、ECBによる、スペイン国債の買い取りが実現するかどうかである。中央銀行が財政政策の範疇に踏み出す政策で、筆者はさすがに実現するのではないかと考えているが、正直予想はつかない(この状況を改善させるのに、必要な政策だから行うべきだと考えている)。紆余曲折がある可能性も十分ある。

・2011年後半に欧州債務問題が深刻化したのは、必要な政策対応が実現しないまま、ギリシャなどの南欧諸国の景気悪化が深刻になり、ギリシャやイタリアの政治混乱に波及したためである。こうした2011年後半の経緯は、2012年後半の欧州情勢を展望する材料になるが、この点について別の機会に採り上げたい。


(チーフ・エコノミスト 村上尚己)