株式レポート
2012年10月18日 マネックス証券

じわりと広がる安全資産への売り〜その底流にある変化〜 - 村上尚己「エコノミックレポート」

昨日(10月17日)のダウ平均株価は小幅高だったが、米10年金利は1.81%と大きく上昇した(グラフ参照)。先日レポートで、景気の先行きに依然慎重な債券市場の投資家の思惑が揺れ始めた可能性を紹介した。昨日発表された住宅着工統計の改善をうけて、その思惑が更に揺らぎ、米金利の上昇をもたらした格好である。10月16日レポートで紹介した「QE3の効果が剥げ落ちた」との思惑から、「QE3で米国経済復調が支えられる」へと見方が変わり始めている。


米国の長期金利が上昇する一方、昨日欧州ではスペイン10年国債金利が大きく低下した。この結果、対ドイツ国債との利回り格差は、4月上旬以来の水準まで縮小した(グラフ参照)。


7月後半まで安全資産である米国債などに資金がシフトしたのは、スペイン国債などが「完全なリスク資産」と変わり、そこからの資金逃避が広範囲に起きていたためだ。その後、ECBの対応でスペイン国債への売りが止まり、そして米国やドイツなどの国債に向かったマネーが、スペイン国債にも戻り始めている。世界経済の先行きを考える上で、欧州債務問題への対処が滞る政治リスクは無視できないが、そのリスクをテイクする動きが、市場で広がっているということである。

先のグラフで示したが、5月にギリシャユーロ離脱懸念が高まった後、欧州の混乱が収束に向かった経緯は、(1)7月末にドラギECB総裁が「あらゆる手段をとる」と言及、(2)9月にECBが「国債の無制限購入」を表明、である( 7月24日9月7日レポート)。ECBがこの対応を実現するまでに、様々な政治的な障害があったことが報道で伝えられている。それを乗り越えて、経済を安定させる適切な政策を中央銀行が実行することが、非常に重要であることを示すケーススタディとなるだろう。

そして、欧州で経済安定を重視する政策が実現しているのは、金融政策だけではない。厳しい財政緊縮策が南欧諸国に課せられていたが、それが現実的な対応に修正されている。そして、財政規律を他国に厳しく求めていたドイツ自身が、減税による景気刺激策に動き始めると海外メディアで報道されている。

財政健全化は必要だが、経済の低迷が続く中で増税と歳出削減を急ぎすぎると、財政赤字は減らず失業者の急増などの弊害に苦しむだけである。南欧諸国が苦しむこうした弊害に、ドイツ自身も意識せざるを得なくなった。ようやく、欧州問題の混乱の元凶になっていたドイツの姿勢に変化をもたらしたということだろうか。

こうした中で先週、東京で行われたIMF総会では、「金融緩和策強化の重要性」に加えて「財政政策の有り方」などをテーマに議論された。こうした議論が冷静に行われる様になり、妥当な経済政策が実現し、世界経済が安定を取り戻すシナリオがみえてきたわけである。こうした変化が、足元で「安全資産への売り」が広がっている底流にある。




(チーフ・エコノミスト 村上尚己)