《ビジネスアングル》クアルコム×シャープ/company クアルコムとシャープの連携 日米の共同開発による画期的ディスプレー

難航した開発を支えた技術者としての信頼と確信

 全てのイノベーションがそうであるように、MEMS―IGZOディスプレーの開発にも紆余曲折があった。しかし2年足らずで商品化の最終プロセスにまでこぎ着けた。

 IGZOの開発者でもあるシャープディスプレイデバイス開発本部新規事業開発センター第2開発室室長の錦博彦は、「ピクストロニクスとシャープの技術者たちが、徹底的に問題点を共有し、互いの知見を最高レベルで使い合ったことが大きかった。ピクストロニクスの技術者は非常に論理的かつ紳士的に開発に向き合い、納得感を持ってプロジェクトを遂行できた」と説明する。

 互いを信頼し、新技術の誕生を確信していたことを端的に物語るエピソードがある。月に1度、クアルコムとピクストロニクス、そしてシャープの幹部も交えた開発会議が鳥取・米子で開かれてきたが、終了後は米子駅前の居酒屋での打ち上げが恒例となった。酔いが回ると日米の技術者たちはカラオケのマイクを握り、互いに歌を披露するが、最後は技術談議に戻る。

 ピクストロニクス社長でクアルコム技術ライセンシング部門担当上級副社長のグレッグ・ハインジンガーは、「液晶とIGZOに関するシャープの深い専門知識を活用し、同時にピクストロニクスのディスプレーチームが持つMEMSと色処理のノウハウを組み合わせることで、この技術の商品化が大きく進展した。それを報告できるのは大きな喜びである」と語る。

 常にし烈な競争を繰り広げているIT業界にあって、日米企業による共同開発で、これほど「リスペクト」に満ちたプロジェクトになったことは新鮮に映る。ハインジンガーは次のようにも語っている。

「共同開発が大きく進展したのは、チーム同士とエンジニア同士に敬意が芽生えたからに他ならない。誰もがデータをオープンに共有し、共通の目標のために隔たりなく働き、一つのチームとして機能する。共同開発プロジェクトでこうしたことが実現するのはまれで、信頼と互いの敬意に基づいた連携関係を築けたことを誇りに思っている」

 日米のエンジニアは互いの最先端の技術とノウハウを持ち寄り、新製品を開発した。この取り組みは、オープンイノベーションのモデルを具現している。そしてこれは、画期的な技術開発のために、クアルコムが用いてきた方法だったのだ。

国境を超えた再編、協業のベンチマークモデルだ 荒井勝喜 経済産業省 大臣官房政策審議室長(2012年当時、情報通信機器課長)

 シャープとのコラボレーションを決断する際に、クアルコムからシャープの将来性について相談を受けた。それは当然の懸念であるし、同時に、ぜひ実現したいプロジェクトだと期待が膨らんだ。

 MEMSディスプレーは、優れた知財を持つ企業と、最先端の技術開発力を備える企業が、優れたポテンシャルを持つ革新的な製品を開発する新しいモデルになるのではないか。こうした国境を超えた協業モデルが生まれないと、国際競争力の確保も経済の発展もない。2年足らずで量産化にこぎ着けたことが、このプロジェクトがいかに前向きで信頼に満ちていたかを物語っている。他の日本メーカーにとっても重要なベンチマークになる共同開発だと考えている。

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週刊ダイヤモンド2014年9月20日号と同時掲載
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