SOCIAL MEDIA Marketing ソーシャルメディア・マーケティング

「活用する」ではなく「参加する」という意識から始めるべき  取材・文/山下 隆(エディ・ワン) 撮影/大塚 俊 企画協力/ターゲットメディア

ツイッターやフェイスブックなど、日本におけるソーシャルメディアの利用者は延べ7000万人以上に達し、マーケティングに活用しようとする企業の参入も盛んだ。しかし、従来の手法が通用しないことを知らずに安易に参入すると、手痛い失敗をしかねない。ソーシャルメディア時代のマーケティングのあり方とは?

 「ソーシャルメディアに対する認識の甘い企業が、まだまだ多い」。そう指摘するのは、慶応大学政策・メディア研究科、特別招聘教授の夏野剛氏だ。夏野氏はまず、「1990年代後半から始まったIT革命における三つの大きな"波"を押さえておくのが大前提」と話す(図)。

図 IT革命の総仕上げとなる「ソーシャル革命」
eコマース革命(第一波)、個人の情報収集革命(第二波)を経て、IT革命の総仕上げとなるのが、ソーシャル革命(第三波)だ。この15年間で世の中の仕組みは大きく進化したことを認識すべき。旧態依然としたマーケティング手法、虚飾のブランディング戦略は通用しない時代になった。

消費者のコントロールが不可能な時代に

 第一の波は、BtoCビジネスにおける顧客接点の拡大。eコマースの浸透で、顧客と対面しなくても物が売れるようになったことだと夏野氏は指摘する。

 「地方の小さなワイン酒屋では店頭よりも楽天市場の売り上げが大きくなり、航空会社は国内線のチケットの7割がウェブから購入されるなど、ビジネスモデル自体が変わりました」

 第二の波は、ウェブコンテンツの充実に加え、グーグルなど精度の高い検索エンジンの登場によって、個人の情報収集力が飛躍的に上がったこと。

 「チームで3日間かけて集めていた情報量が、今は一人が1時間程度で探し出せるようになったのです」

 そして第三の波が、ソーシャルメディアによる個人の情報発信力の拡大・向上。これをIT革命の総仕上げと、夏野氏は位置付ける。

夏野  剛 慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授
なつの・たけし:1965年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。ペンシルバニア大学経営大学院ウォートンスクールでMBA取得。NTTドコモで「iモードプロジェクト」の立ち上げに携わり、2005年に執行役員に。08年に同社退社。同年5月より現職。ドワンゴ、セガサミーホールディングス、SBIホールディングス、ぴあ、トランスコスモス、GREEの取締役を兼任。

 「リアルの場で、一般の人が1000人を相手に自分の意見を述べるような機会は、なかなかありません。しかし、ツイッターで1000人のフォロワーがいればそれが可能。フォロワーが1万人だったら武道館、5万人だったら東京ドームを貸し切って意見を発しているのと同じ。個人の意見がこれほど大きく力を持つことは、人類史上でもまれに見る状況だと思います」

 チュニジア、エジプト、リビアで長期政権を崩壊にまで追い込んだアラブの春。デモや抗議活動の呼び掛けに活用されたのがフェイスブックなどのソーシャルメディアだ。

 「個人が発した言葉が共感を呼び、ソーシャルメディアを介して共振していく。それは、政権を倒すほどに大きな力となったのです。十数年間で世の中の仕組みは大きく変わってしまったのだということを、私たちは認識しなければいけないのです」

 夏野氏がここで強調するのは「共振」というキーワードだ。共振を生むのは、デモの呼びかけのような意図あるメッセージに限らない。消費者が、「この商品は素晴らしい」と何げなく発した言葉さえ、時として共振を生むのだ。同時に、「この商品はひどかった」と誰かが発言し、共感する人が多ければ、瞬く間に広がる危険性もある。

 ソーシャルメディアで生まれる共振によって、よい商品はさらに売れるようになり、粗悪な品はこれまで以上に売れなくなる。これが共振のよさでもあり怖さでもある。マーケティングやブランディング戦略の名の下に、実態以上に美しく着飾って見せて売っていた時代は終わり、企業はもはや消費者をコントロールすることが不可能な時代となったのだ。

消費者のうわさに耳を傾ける

 そんなソーシャルメディア時代のマーケティングの要諦は、商品・サービスの力に見合ったありのままの姿で勝負することと、商品開発は妥協せず、消費者の期待以上のものを世に送り出すことだと夏野氏は言う。

 ただ、ここで注意すべき重要な点がある。消費者のニーズに応えるという姿勢が、時にクレーマーのみの意見に傾いてしまうことだ。「カスタマーサティスファクションであるべきなのに、日本企業は"クレーマーサティスファクション"に陥りがちです」と夏野氏は指摘する。

 「ネットだからといって、過剰に反応する必要はありません。ソーシャルメディアは、いわば実社会の鏡。普通に暮らす人々が、そのままソーシャルメディア上で発信しているにすぎないのです」

 経営者やマーケティングの責任者がソーシャルメディアに触れていないばかりか、社内での閲覧を禁止している企業も少なくない。しかし、いくら目や耳をふさいでも、消費者は日々、その企業の商品やサービスについてうわさしているものだ。消費者の声に耳を傾けること。ソーシャルメディアは「活用するもの」ではなく「参加するもの」という意識がマーケティングの第一歩となる。

 そして、"ソーシャル"に振り回されないためにも、企業の競争力や強み、価値を見つめ直し、明確な戦略やポリシーを持ってブレないことが大事なのだ。

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「週刊ダイヤモンド」2012年3月24日号も併せてご参照ください
この特集の情報は2012年3月19日現在のものです
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