企業の中では、過去の勝ち方を知っている人が意思決定権を持っています。彼らが過去の成功体験を捨てるのは難しいと思われますが、具体的にどのようなプロセスでビジョンを描けばいいのでしょうか。
西村:まずは役員全員が危機感を確認、共有するところからスタートします。そのうえで未来をどう描くか。我々の場合は、先ほどの〝志〟を一度ひも解くことを行いますが、外部環境が大きく変化しているいま、創業の志はDNAとして残しつつ、新たな環境の中でどう変容すべきなのかを読み解くことが重要です。
 その時のフレームワークとして、「経済的価値」だけでなく、「社会的価値」や「文化的価値」といった3つの視点から、自分たちの未来像を描いていきます。
 企業活動のグローバル化が進み、自分たちが世の中に与える影響が大きくなればなるほど社会的責任は高まっていきます。たとえばそれは、健康によい食品をつくることであったり、より格差のない労働環境をつくっていくことであったり、より環境負荷の少ない形で事業活動を行うことであったりします。世の中に対して与えているマイナスの影響をいかにゼロに持っていくかというのが社会的価値の視点です。
 一方の文化的価値はゼロをプラスにする部分、つまり暮らしをいかに豊かにするかという視点です。社会的価値と文化的価値の両方から自分たちの付加価値を考えながら、同時にビジネスとして収益を上げること、つまり経済的価値を考えていく。
 これら3つがセットになって、新しい自社の姿が浮かび上がってくるのではないかと考えています。
栗原:プロジェクトの最初にヒアリングを行うのですが、その時に私がいつも聞いているのが、「御社がある20年後の未来と、ない未来とでは何が変わるのですか」という質問です。たとえば、ある業界でいまの大手メーカーが20年後に一つや二つなくなったとしても、その製品自体は存在するはずです。それは、新興国のメーカーがもっと安くつくっているかもしれない。だとすると、存在意義はあまりないですし、このままでは価格競争にさらされるということになりますよね。
 ただ、その裏に秘めている想いがあるはずなんです。次に聞くのは、「御社らしさとは何ですか」。質問を重ねていくと、普段は表面化していないような、想いや“志”が見えてきます。世の中をどうしたいのか。なぜこの仕事を生業としてやっているのか。それは、未来においてどう役に立つのか。そういう想いを見える化して、共有できるような形にしていきます。
 いいビジョンができた時というのは、未来に向かって自分たちがやるべき事業も一緒に浮かび上がってくることが多いものです。

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