社員への信頼によって
組織を成長させる

 「もしも働き方改革によって、リスクヘッジをベースにした業務システムから、信頼を前提とした業務システムへのシフトが実現すれば、そこで生まれる生産性は計り知れない」──。前回の最後に私はそう書いた。マネジメント2.0という考え方のベースにあるのは、まさしく社員への信頼である。そして、信頼をエンジンとして組織を成長させていくというビジョンである。

 私は、多くの組織にはびこる「失敗したくない」「変わるのが怖い」「他人からの評価が気になる」といったマインドセットは、まさに信頼を得られないことによる不安によって生まれると考えている。売り上げ、コスト、利益率、納期が個人レベルで徹底され、その結果によってのみ評価される環境では、挑戦は限定的になり、社員の飛躍的なパフォーマンス向上は見込めないのは当然だ。

 こうしたマインドセットを、信頼を与えることによってひっくり返すことはできないだろうか。つまり、社員の中に、失敗を学びとし、変化やフィードバックを楽しみとするマインドセットが生み出せれば、組織に活力が生まれ、生産性は大きく向上するはずだ。

 働き方改革を生産性の問題として捉えるべく、これまで多くの企業の実践や識者の言説に接してたどり着いた私の考えは、まさしくハメルが提案するコンセプトと軌を一にしている。一人一人の社員が成し遂げたい目標を掲げ、それぞれの価値観に基づいた方法によってその達成を目指す。信頼がこうした行動を自然に促し、組織全体としての生産性につながるということこそが、働き方改革をマネジメント改革だとする私の考えである。

大きな裁量が
言葉に熱量をもたらす

 では、信頼をベースとするマネジメントとはどのようなものだろうか。まず、これまでの官僚型のマネジメントにおける組織構造や業務プロセスといったものが、大きく変わることは間違いない。

 官僚型組織ではトップからのメッセージが過不足なく現場に伝わるために、上意下達の階層が生まれる。階層が深くなる弊害はすでに多くの人が語っているが、私は経営トップのメッセージが組織の活力につながらない点を指摘したい。これは組織の階層が深くなることで、経営者が100の熱量を持って発したメッセージが、伝達の過程でどんどん薄められ、現場に届く頃には50くらいまで目減りしてしまうということだ。

 信頼をベースとしたマネジメントでは、トップが100の熱量を持って発したメッセージが、120や150となって組織全体に広がることが追求される。

 そのためには、現場の受け止め方に主体性がなければならない。つまり、メッセージを自由に解釈し現場の業務に反映する権限を、現場の社員一人一人に与えることが重要になってくるのである。

 現場の主体性を生み出すためには、トップが示した方向に「No」を突き付けることも許容しなければならない。マネジメント2.0で注目されるブラジルのメーカー・セムコでは、トップのメッセージに対して、現場の誰もが苦情を申し立てられる「チケット」を与えられているという。

 トップは方向のみを示し、ビジネスや業務をつくるのは現場——これが信頼をベースにしたマネジメントの基本である。