あえて日本発で
グローバルに打って出る

 初めからグローバルを目指していたにもかかわらず、なぜアメリカではなく、日本で起業したのですか。
 ソフトウェアの世界で戦う以上、日本だけを見ていては長期的にはじり貧になるので、初めからグローバルを意識していたのは確かです。
 ソフトウェアは一度つくってしまえばコピーするのは無料なので、製造業と違って製造コストはタダ同然ですが、日本だけで売っている会社と世界を相手にしている会社とでは、利益がおよそ20倍は違ってきます。しかも後者は、優秀なエンジニアを集め、新しいソフトウェアを次々と開発し、競争力をますます強化することができる。しかし前者は、後者のような好循環をつくれないので、早晩尻すぼんでいく。
 にもかかわらず、なぜ日本を選んだのか。正直、アメリカで始めるか、日本で始めるか、相当悩みました。実は、アメリカにも会社をつくったんです。ですが、その時に「起業家には、何らかの『アンフェア・アドバンテージ』(自分たちに都合のよい優位性)がないと戦えないのではないか」と思ったのです。これが決め手になりました。
 私も含めた創業チームは、メンバー全員が日本人です。そして、私や安川のように、日本でクラウド事業の立ち上げを経験した人間がいる。日本市場のことはわかっているし、協力してくれる会社、お客様になってくれそうな会社もある。これこそがアンフェア・アドバンテージであり、海外のライバルにはない強力な武器だ、と。もしアメリカでビジネスを始めたら、アンフェア・アドバンテージがなくなってしまう。そう考えたのです。
 最終的に、この判断は正解でした。サービスを提供し始めてまだ2年半ですが、すでに9000以上のユーザーとのお付き合いがあります。また、欧米市場への進出も2016年から本格化させています。おかげさまで、2000のユーザーを超え、日本ほどのスピードではないですが、順調に伸びています。

 資金調達の面はどうでしょう。日本のベンチャーキャピタルは比較的シビアだといわれています。
 アメリカの投資規模は日本の数十倍で、日本とは比べものになりません。ただし日本の場合、まだ起業家の絶対数が少ないこともあり、人気のあるベンチャーや、誰が見ても将来有望なベンチャーに資金が集中しやすい、という傾向があります。私たちの場合、それが有利に働きました。
 まったく苦労がなかったわけではありませんが、「マネジメントチームには経験と実績のある人間が揃っており、ターゲットの市場規模も大きく、しっかりした技術も持っている」という評価をもらえたことで、2015年春に7億円強、2016年夏には30億円といった具合に調達することができました。

 2017年8月には、創業して2年半足らずにもかかわらず、KDDIによる買収が決まりました。日本でも、大企業のコーポレート・ベンチャー・キャピタルが増えていくことが期待されていますが、どのようなボトルネックがあると思われますか。
 昔と比べると、日本の起業環境もかなり改善されていると感じます。実際、日本の大企業もかなりベンチャー企業への出資や協業に前向きですし、ご指摘のコーポレート・ベンチャー・キャピタルも増加傾向にあります。
しかし統計的には、大企業に買収されるケースはまだまだ少ない。繰り返しになりますが、ベンチャー企業の数そのものが少ないという原因もあるでしょう。

 『会社はだれのものか』(平凡社)の著者、岩井克人氏は、学生ベンチャーを否定するわけではないが、会社勤めを経験してきた人のほうが起業の成功率は高く、彼らの数が増えていくことが、日本経済の復活には不可欠であると述べています。
 その通りだと思う面と、気をつけたほうがいいと思う面と、両方あります。大企業の中で新規事業を立ち上げたり、子会社を経営したりといった経験の持ち主が起業するのであれば、岩井先生のおっしゃる通りです。しかし、どんなに有名企業に籍を置いていたとしても、リスクを取った経験もなく、敷かれたレールの上で働いていた人が起業したとしても、まずうまくいかないでしょう。
 ちなみに、シリコンバレーの起業家の多くは40歳前後で、IT企業で新規事業を経験した人たちです。また、経営陣との折り合いが悪くて、もっと魅力的なチャンスを探してといった理由から、外に飛び出る人も少なくありません。
 つまり、飼い慣らされていないとか、好奇心が旺盛であるとか、リスクを承知しているといった人材であることが何より重要です。その点を履き違えてはいけないと思います。