「地上11メートル以下」に
オムロンの商機あり

 もう一つ興味深いのは、「地上10メートルのモノづくり革新」というコンセプトです。自社の闘う場を「高度」で表現し、とてもわかりやすい。

 

 オムロンの立ち位置は、やはり製造現場です。FAでは、グローバルで11万社の製造業者との取引があり、これが最大の資産です。そして我々は、それぞれのお客様の困り事にソリューション・パッケージを届ける。工場のデジタル化において、ソフト分野では、グーグルやアマゾンなどのメガプラットフォーマーやITベンダーがいますが、彼らには製造現場のアプリケーションはわかりません。よって、IoT対応にはどうしてもパートナーが必要となります。その場合に、オムロンにしっかりと声がかかるように、お客様への提案力を日々磨いています。
 また、設備の自動化に必要なデバイスもどんどん進化しています。しかし、デバイスを揃えるだけではモノづくりを革新するソリューションはつくれません。ソリューションを実現するには、デバイス同士をつなぎ、高度な制御を実現するソフトウェアとパッケージ化して提供することが重要です。これは、製造ラインを実現するILOR+Sのすべてのデバイスを持つとともに、製造現場のノウハウを蓄積してきたオムロンにしかできない部分です。この取り組みを進化させ続けることでオムロンに声がかかるように、その領域をきっちりやっているわけです。
 そして、このソリューション・パッケージは、工場ではだいたい10メートル以下の空間に位置しています。そこで我々は、この空間にフォーカスする「地上10メートルのモノづくり革新」という戦略を取っているのです。
さらにもう一つ。我々が「脊髄反射」と呼んでいるものがあります。これは、いわゆる現場でのエッジ制御に当たり、ここに徹底的にこだわっています。生産現場のリアルタイム処理は、クラウドのような地上100メートルにある「大脳」経由では間に合いません。その間に不良品ができたり、事故が発生したりしますので、現場のコントローラーで処理する「脊髄反射」がカギになってきます。
 そこで、我々が得意とする「センシング&コントロール」をリアルタイムに行い、さらにはAIコントローラーで制御するというAI化を支える、現場でデータ活用するサービス「i‐BELT」というサービスも新たに始めました。これは、データを使った保守・メンテや生産ラインの進化を、お客様と一緒にやっていくものです。我々はこの部分を「地上11メートルの+Think層」と表現しています。ここにAIコントローラーという「脊髄」機能があり、これは「大脳」ともやり取りしますが、リアルタイムで詳細な現場データはここで処理・蓄積して、ラインを進化させていく。そこにオムロンの存在意義を置こうというわけです。
 なぜなら、地上10メートル以下の現場データが爆発的に増えているからです。それらをすべて大脳に送っても処理し切れません。であれば、現場側にフィルターをかけてデータを取捨選択し、必要なものだけを大脳に上げる。反対に、脊髄反射で済むものなら、その場で現場にフィードバック処理する。この「地上10メートル+1メートル」の11メートル以下の現場に、我々の商機があるのです(図表2「『地上11メートル以下』 オムロンのモノづくり主戦場」を参照)。

 

 戦略をわかりやすく表現することは、社員一人ひとりのアクションにつながりますね。

 どこで価値を生み出すかをみんなが理解し、そこで頑張ること。それが大事だと考えています。戦略も企業理念も、現場の中に浸み込んで初めて、意味がありますから。だからこそ、そこに対する労力は惜しみません。お客様とのコミュニケーションという意味でも、オムロンがどこで価値貢献をしたいのか、それがはっきりと伝わるようにしています。

 

 それを実践していくためのカギは、顧客との密着度だと思いますが、具体的にはどのように展開されていますか。

 「フィールド・アプリケーション・エンジニア」という現場に精通したエンジニアを、グローバルで約1100人体制で設けています。彼らは現場に精通した技術者であり、世界各地に17カ所ある「オートメーションセンター」(実機でアプリを体験できる施設)で、お客様とパートナーシップを組んで生産ラインの革新を進めています。オートメーションセンターは今年度中に35カ所にまで増やします。
 当然、そのノウハウが蓄積されるので、それをパッケージ化して他社にも販売するというビジネスモデルが展開できるのです。

 

 アマゾンは完全無人化を実現したコンビニ型のリアル店舗を出店しましたが、進化したAI時代には工場も完全無人化が実現し、10メートル以下の現場に人がいなくなることはないのでしょうか。

 人間がまったくいらないモノづくりが出てくるとは、私は思っていません。機械に置き換えられる部分はあるかもしれませんが、設備自体を進化させたり、データから読み取って新しい価値を付加したりするといった、人間の創造性が最も重要視される分野が生産現場ですから。オムロンのオートメーションのコンセプトも「人と機械の融和」であり、お互いの能力を引き出すことを重視しています。
  オムロンの創業者・立石一真の言葉に「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむべきだ」というものがありますが、まさにそういう時代になってきたと思います。