毎年「社長指名」を実施
ユニークなガバナンス

 ガバナンスも進化されていますね。「社長指名諮問委員会」というユニークな取り組みがありますが、社長には後継指名権がなく、候補者リストは常に更新されているとか。

 私は5代目の社長ですが、社長指名諮問委員会で初めて指名された社長です。オムロンは「少しずつ進化」する会社ですから、社長指名の仕組みについても、形から一気に入るのではなく、1999年にアドバイザリーボードをつくり、2001年から社外取締役制を導入、2006年には人事諮問委員会、報酬諮問委員会、社長指名諮問委員会の3委員会を設置といった具合に、ガバナンスも20年くらいかけて進化させてきました。特徴的なのは、社長である私はどの委員会にも入っていないということです。
 実はオムロンは、社長交代はなくとも、毎年「社長指名」をしている会社です。もちろん交代していないので世間に発表していませんが、毎年11月末頃、私は社長指名諮問委員会から呼び出され、3つの質問を受けます。
  1つ目は「来期も続投する意思があるかどうか」、2つ目は「あなたにもしものことがあった場合、緊急時の引き継ぎ手は誰か」、3つ目は「後継者の育成はどのように行っているか。リストがあれば出してください」と。3番目については、「こういうタフ・アサインメントを後継の可能性がある人には与えています。リストはこれです」と委員会に提出します。
 これらの質問に答えた後、私は部屋から退出し、社外取締役と執行役員を兼務していない社内取締役の計5人で議論をして、結論をまとめます。そして、「来期も山田さんの続投を諮問します」といった形で取締役会に提出、そこで決議されて初めて、私の続投が決まるのです。取締役会では私も1票を持っているのですが、諮問される段階までは、私はそのプロセスにいっさい入っていません。
 これは客観的に見ても、とてもよい仕組みだと思います。毎年やるので交代時にもめることがありませんし、経営チームメンバーも私に後継指名の権限がないことがわかっているので、よい距離感を保てます。この仕組みも2006年からですから、10年以上の歴史があります。

 

 毎年指名されると緊張感が違うのでは。

 緊張感があります。やっぱり考えます。「自分が来期もやるべきなのか」と。「意思がありますか」と問われ、「あります」と答えるには、自分がやるべきだとみずから腹落ちしないと言えませんから。

 

 最後に伺いますが、創業者・立石一真さんの経営から一番学んだことは何ですか。

 たくさんありますが、一番は「企業の公器性」です。会社は何のために存在するのかを経営の原点に置いたのが創業者ですが、私が社長になった時にもそれを自問自答しました。その結果、やはり「企業理念経営しかない」と確信しました。社員みんなが、企業理念の実践を通じて世の中のためになっていると実感できること。現場の一人ひとりからお客様にもそれが伝わって、オムロンのファンになってもらうこと。それが何よりも大切です。
 社内でよく言うんです。「仕事をする時、誰かに説得されるより、納得してやりたいよな。でも、納得より、共感してやれたらもっといい」と。オムロンが目指すのはさらにその先、「共鳴するマネジメント」です。
 もちろんその軸は「企業理念」であり、その実践を懸命にやることで共感・共鳴してもらえる。それは社員同士でも、お客様との関係でも同じ。これが、オムロンが未来にわたって価値を生み出し続ける“サステナビリティな存在”になるための原点なのです。【完】


●聞き手|森 健二
●構成・まとめ|森 健二、宮田和美 ●撮影|佐藤元一