客観的な視点と積み上げた知見で
海外不正防止に貢献する

 経営者側の意向はどうでしょうか。担当役員に任せて、社長は最小限のインタビューに応じればいい、という考え方もあります。
 会計監査の目的は、財務諸表に重要な虚偽表示がないかどうかの合理的な保証を得たうえで、財務諸表の適正性について意見表明して公共の利益を擁護することです。しかし、だからと言って、経営者に付加価値を提供してはいけないということはまったくありません。実際、長年にわたって監査に携わり、多くの企業、経営者、現場を見てきた監査人であれば、多忙な経営者が時間を割くにふさわしい価値を提供することができます。
 たとえば多くの日本企業が頭を悩ませている、海外子会社やノンコアビジネスにおける不正防止や発見に対する有効なアドバイスができます。不正の背景には、業績に対する過度のプレッシャーや人材不足などのさまざまな要因がありますが、顕在化するものには、ある一定のパターンが存在します。特定の人に権限が集中していたり、買収後も現地マネジメントに任せ切りで親会社のガバナンスが効いていない、といったようなものが典型例です。
 我々はそうしたケースを数多く見てきているため、どこに不正の芽があるのか、どうすれば問題が起こる前にその芽を摘めるのかを、知見に基づいてアドバイスができます。
 経営者がなかなか知りえない情報を、外部の第三者である我々がいち早く把握することも珍しくありません。日本の親会社の監査チームがイニシアティブを執って、親会社や海外子会社、海外子会社の監査人との情報共有を密にすることで、不正につながりかねない情報を早い段階から入手できるからです。外部の視点をもって情報を精査し、必要なものだけをマネジメントに報告する。これも監査人が経営者とのコミュニケーションにおいて提供できる価値の一つといえるでしょう。

 海外子会社について客観的な情報を得る機会はそれほど多くないので、それはたしかに貴重です。海外子会社のリスクマネジメントで苦労していない日本企業はないでしょうし、海外における不正は国内の場合と比べて損害額が大きくなる傾向があるとされます。
 それぞれの国に独自のビジネススタイルや文化があり、会計慣行があるので、必ず日本国内とは違うリスクはあります。重要なのは問題が起きてから対処するのではなく、不正の端緒をいち早くつかんで手を打つことです。
 ただ、海外子会社だけで数百社もあると、そのすべての取引に目を配ることは現実的には不可能で、それは親会社だけでなく、我々監査チームも同じです。一方で、重要な誤謬や不正がどこで起きているかを見ると、小規模な子会社やノンコアビジネスの子会社で発生していることが珍しくありません。これが、海外子会社のリスクマネジメントを難しくしている一つの要因です。

国によって
「信頼の形」は違う

 重要性が低いと判断されているがゆえに目が行き届かず、不正の芽の発見が遅れて、対応が後手に回るということでしょう。しかし、人的対応だけでは限界があります。
 その通りです。ですから、機械学習の技術や統計的手法を用いてさまざまなデータを分析することにより、おかしな点がないかどうかを発見します。財務データはもちろん、生産量や人員数などの非財務データを入手し、それを一定の分析シナリオの下で可視化すると、ほかとは異なる特徴を持つ子会社や異常な項目が浮かび上がってきます。
 たとえば利益率が飛び抜けて高い子会社がある場合、売上債権や棚卸資産回転率といった別のデータについて分析を加えることで、利益のかさ上げの疑いが生じることがあります。販売量が増えていないのに在庫が増加していれば、担当者が多めに発注することで業者からキックバックを受けていることが疑われます。さらに、その国の人口増加率や為替変動、経済成長率などの外部データを用いることもあります。このようなデータ分析を行うことで、異常な取引や不正の可能性がある子会社の特定が可能になるのです。