イノベーションが
次々に生まれてくる社会へ

 ピーター・ドラッカーは1985年、The Entrepreneurial Society(邦訳『イノベーションと企業家精神』ダイヤモンド社)を発表しました。いわく、起業家が大量に輩出されることで、イノベーションが活発化し、より豊かで民主的な経済が生まれる――。こうした起業家社会に向けて、GATEとムゲンラボの結合には、その牽引役が大いに期待されます。
山根:先ほど申し上げたように、DXに取り組む企業が急増しています。その際、スピードが重要です。ですから、DXへの関心に比例して、アジャイル開発への関心も右肩上がりに高まっています。GATEを開設して1カ月ほどの間に、100社以上から問い合わせがありました。
 実際、我々の経験からも、アジャイル開発は極めて効果的なのですが、困ったことに、日本の労働市場には、デジタル人材が絶対的に不足しており、やりたくてもできないという現実があります。
 一企業の力だけでは、この現実を一気に変えることはできませんが、KDDIでは「アジャイル開発センター」という専門組織を設けており、そこで実践を重ねた経験豊富なメンバーがGATEのメンバーとしてお客さまのアジャイル開発導入を支援しています。
 我々のゴールは、単に成果物をつくることではなく、お客さまの成功です。言うまでもなく、DXの推進、新規事業の開発、イノベーション、スタートアップとの交流などを支援しているのは、まさしくそのためです。
中馬:ムゲンラボには、2018年10月現在で、36社の事業共創パートナーがいます。スタートアップを支援するにも、KDDI単独では限界がありますから、これらパートナー企業のアセットを活用しながらスタートアップとの共創に取り組んでいます。
 面白いことに、セブン&アイ・ホールディングスさんとイオンさんがパートナー企業として参画されているのですが、競合でありながらも一緒になってスタートアップを支援してくれています。現実の競争ではおよそ考えにくいことですが、ムゲンラボでは当たり前のことだったりします。
 ムゲンラボでは、独自のビジネスアイデアの持ち主が集まり、パートナー企業が彼らをさまざまな形で支援し、アイデアの実現を図る、という仕組みができあがりつつあります。理想論に聞こえるかもしれませんが、企業規模や業種を問わず、企業各社の閉ざされたアセットがオープンになり、同時に大企業とスタートアップが自由に対話し、結び付くことができれば、まさに起業家社会といえるのではないでしょうか。

  日本のDXを加速し、起業やイノベーションの活発化を促すには、アジャイル開発に代表される「スピード」、異業種や競合も含めた「水平的な協働」、そして知識や経験、さらには知財などを共有できる「オープンネス」の3つが不可欠のようです。最後に、お2人が思い描く未来への構想や展望について教えてください。
中馬:日本経済の問題は、結局のところ、大企業の問題です。日本のスタートアップも活性化していますが、いかんせん日本経済に及ぼす影響はわずかです。大企業に集中しているアセットが社会全体に解放されれば、日本経済は再び輝きを取り戻すのではないでしょうか。コーポレート・ベンチャーキャピタルやオープンイノベーションは、その一助として大いに貢献するはずです。
 GATEとムゲンラボが一緒につくり出す場が、大企業とスタートアップの共創を支援し、新規事業やイノベーションを創発させるだけでなく、将来的には、起業家や大企業の人たちが一人でふらっと立ち寄って、いろいろな人たちと語り合える場所になれば、とても嬉しいです。
山根:最近では、社長直轄のイノベーション担当部門が増えています。しかも、そのリーダーに、スタートアップの立ち上げを経験した外部人材を起用しているケースが散見されます。こうした大胆な登用は、人材の流動性が高まっている証左でもありますが、むしろDXやイノベーションへの本気度を感じさせるものです。
 大組織の中に、経験に乏しくともみずからの熱い思いと強い意志で行動できる自律的な個人、あるいは明確な目的の下に臨機応変に行動できるチームが増えていけば、それこそ「社内起業家」という言葉があるように、大組織の中であっても独創的なビジネスモデルやイノベーションが生まれてくるのではないでしょうか。
 当社の社是は「心を高める〜動機善なりや、私心なかりしか〜(注)」です。翻せば、世のため人のために事業を行うことです。イノベーションや新しい事業が次々に生まれてくる経済への転換は、まさしく社会ニーズであり課題です。その解決こそ、GATEとムゲンラボの針路であり、ミッションなのです。

注)http://www.kddi.com/corporate/kddi/philosophy/を参照。


  1. ●企画・制作:ダイヤモンド クォータリー編集部