「製品と製品を組み合わせる」というのは、他社の製品も入っているのですか。

「事業シナジー」を実現するには、我々の製品だけでは困難でしょうから、可能性として十分あります。営業本部の戦略事業開発室や開発本部でも社外との関係を含めて検討を進めています。アメリカのIIC(インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(注3))にテストベッドで出したシステムも、当社のe-F@ctoryと日立製作所、インテルの製品・システムの組み合わせなんです。

注3)ゼネラル・エレクトリック、AT&Tなど大手5社によって設 立された、IoTの産業実装と標準化を目的とする国際団体。

 クラウドは日立さんにお任せして、当社は工場内のIoT「エッジコンピューティング」で勝負する。各社それぞれが強みを持つ製品やシステムを連携させる。それには高度な調整が求められますので、我々の得意とする領域で強みを磨いていきたい。この基本姿勢はずっと変わっていません。

現場の自発的行動を引き出す
「三菱電機版ROIC」とは

 柵山さんが理想とする「事業シナジー」を山に例えると何合目くらいまで来ていますか。

 登山口に入ったばかりで、まだ1合目でしょうね。目に見える成果はありませんが、他社の事業を視野に入れて事業シナジーを模索するという、積極的なムードが社内で盛り上がってきています。2020年度までにはある程度の成果を出して、5合目くらいには行きたいですね。

 その時に事業をどう評価するかが重要なポイントですが、御社は「三菱電機版ROIC」(投下資本利益率)を採用されています。ROICは、一般的には営業利益を投下資本(運転資本+負債)で割って算出しますが、御社は分母の投下資本のうち、負債ではなく資産をベースにしていますね。

 社外にはROE(株主資本利益率=当期純利益/自己資本)10%以上と公表していますが、ROEをよくしろと言ったって、現場の人には実感できない。その向上のために何をすればいいのか、工場長でさえ実感的にはわかりませんよ。

 株主資本を工場ごとに割り振ることはできませんが、資産は配分できます。先ほどの「床面積当たり」と同じで、いかに現場にわかりやすく提示するかが肝心で、現場の定量目標に馴染まない株主資本より、工場ごとに把握できる資産ベースの指標のほうが受け入れやすいと考えました。資本と資産はある意味で裏表の関係ですから、それと利益の関係性を各工場が意識するように、資産ベースのROICを導入したわけです。そして、工場それぞれが、「三菱電機版ROIC」を向上させることで、おのずと全社的なROE向上に結び付くだろうと考えています。

 評価指標は、できるだけ明快かつ公平でなければならない。何も新しいことをやれと言っているわけじゃない。原価低減、在庫の削減、回転率の向上という目標は同じですが、経営側が現場第一に考えているというメッセージです。

 情報通信やデバイスといった間接的に他の事業に貢献する分野については、どう評価されるのですか。

 ROICは資産を分母にするので、資産が軽く収益を上げやすいFAなどは、割と高い数値が出ます。一方、重電のように工場などの保有資産が多い事業は数値が上がりにくい。ですから、単純に数値の高低ではなく、経年的に右肩上がりに改善していくかどうかで判断すると言っています。

 今後は、各事業単独よりも他の事業への貢献度をより注視していく必要があるでしょう。通信などはまさにそうです。

 シナジーへの貢献度をどう評価するかについては、いま模索しているところです。たとえば、デバイス事業は社内貢献が15%ほどありますが、売上げのほとんどは外から稼いでいます。各事業の特質を適正に評価し、お客様への貢献と社内貢献のバランスを取ることも大切です。

 一連の取り組みと並行して進められている、「グローバル環境先進企業」という目標は、社会ニーズを満たすと同時に、各事業本部の共通目標にもなる。そこで開発された技術がまた共通の根っ子になるわけですね。

 パワー半導体やモーターといった強い技術を組み合わせて事業展開を図るうえで、各事業本部の共通の目的が「グローバル環境先進企業」という旗印へ向かえば、さらに組み合わせの展開が拡大していく。先ほど出た自動運転は、自動車機器をやっている部門の技術と宇宙システム関係をやっている部門の技術の組み合わせです。組み合わせによって、さらに高い価値をお客様に提供する。ビル事業でも複数の強い事業を組み合わせて、省エネルギーをとことん追求したZEBを実現できると考えています。

 2016年にはCDP(国際NGOのカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)で、地球温暖化対策に熱心な企業として、気候変動と水の2つの部門で最優秀の「Aリスト」企業に選定されました。それまでは入っていなかったのですが、急速にシフトされたのですか。

 いえいえ、やっていることはこれまでと変わらないのですが、せっかくやっているんだから、ちゃんと評価してもらえるようにしようということで、CDPの質問に時間をかけてていねいな回答をまとめ上げ、提出したのです。そういう努力が評価されたと考えています。

 「グローバル環境先進企業」というのは、社会からそう評価されてなるものです。今回、CDPのAリストに入ったのは、社会から評価された第一歩なので、その意味で嬉しいです。こうした努力をコツコツと重ね、社会から「グローバル環境先進企業」と認められる企業になって初めて、2020年度までの売上高5兆円、営業利益率8%という目標が現実味を帯びてくるでしょう。

*つづき(第2回)はこちらです

 


●聞き手|森 健二

●構成・まとめ|森 健二 ●撮影|中川道夫