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不正を誘発する
行動にも注意すべき

 次に、不正を誘発する行動について過去の事例から考察したい。
 大きくは2つ挙げられる。一つは「重要な不正リスクのプロファイリング上の問題」だ。会計不正をはじめとした不祥事が頻発しているにもかかわらず、なぜ繰り返し起こるのか。
 それは、その他の会社で起きた事象が自社グループにも関連性が高い、あるいは重要なリスク事象と認識されていないことが大きい。この結果、重要な不正リスクの原因や結果を誘発する行動が自社グループのどこに潜在しているのか調査・分析も行われないし、リスクマネジメント方針やKRI(Key Risk Indi­cator:重要リスク指標)の設定・モニタリングも行われない。
 これらの解決には、RCSA(Risk and Control Self-Assessment:リスクと統制の自己評価)が有効だ。これはビジネスやリスクマネジメントに精通した人材を内外から集め、専門家の視点からビジネスに潜在するリスクを識別し、それを制御するための手法を文書化、さらに評価するプロセスである。
 もう一つは「重要な不正リスクへの対応上の問題」だ。会計不正のような発生頻度の低いリスクは通常の内部統制システムでは検知しにくい。この解決策としては不正の抑止力としてデジタル技術を利用した発見的コントロールの活用が有効だ。
 具体的手法としては、CAAT(コンピュータ利用監査技法)を活用した内部監査が挙げられる。これは企業の業務データを、一部抽出ではなく、すべてを入手・分析し、データの揺らぎや異常値を検知するものだ。グループ・グローバルベースの内部通報システムの構築や、リスクコミュニティの設置による社内コミュニケーション体制の見直しなども重要だ。
 不正リスクの原因と誘発する行動、その解決方法は明らかになった。だが、コストを費やし立派な仕組みを導入したとしても、リスクをゼロにすることはできない。不正発生時に起こる経済的・社会的損失を最小限に食い止めるには初期対応が重要になるが、ここでもいくつか問題がある。
 たとえば、経営トップや監査役に報告が上がらない、監査法人とのコミュニケーションが適時に行われない、不正事案の経験が少ない専門家に相談する、経営陣が不正調査委員会に対して事実を隠蔽するといったことが挙げられる。対応策は、自社グループ内でできることとできないことを明確に分けて、できないことは外部の専門家に関与してもらい、プロジェクトマネジメントを任せることだ。

発生頻度は低いが
損失額は大きい

丸山琢永 TAKUEI MARUYAMA
1991年青山監査法人に入所以降、金融機関の監査およびアドバイザリー業務に従事。1999年から2001年まで金融監督庁(現金融庁)に出向し、バーゼル銀行監督委員会会計タスクフォースメンバー、保険検査マニュアル検討委員などを歴任し、金融検査マニュアルの内部監査に関する規定の抜本的な改訂プロジェクトに携わった。2006年あらた監査法人(現PwCあらた有限責任監査法人)に加入以降、リスク・アシュアランス(監査)事業のリーダーとして、重要な事業リスクに対し総合的な解決策を提示することで、経営者に安心を提供する活動に取り組んでいる。最近では、マネーロンダリング、不正・贈収賄、有価証券報告書の虚偽記載、海外事業進出・海外拠点運営などにかかるガバナンス・リスク管理・コンプライアンス体制の構築・強化を支援している。

 不正会計リスクのように発生頻度は低いが、発生した際の損失額が大きいリスクを「非期待損失」と呼んでいる。これを高度にコントロールしていくことで、発生頻度、損失額ともに引き下げていくというのが、非期待損失のマネジメントの要諦になる。
 典型的な打ち手は4つある。1つは社員教育。「何がよいことなのか」というコモングッド(共通善)の価値基準を設定し、社員一人ひとりが最善の判断を適時に行うこと。2つ目は、前述した、リスクと内部統制システムの自己評価を行うRCSAの実行だ。3つ目は、組織横断型のリスクコミュニティの構築を通じて、不正リスクに関するKRIやコントロール手法を外部専門家とともに共同開発していくこと。そして4つ目が、不正の抑止力や発見的コントロールとしてのCAATを活用した内部監査の実施だ。
 非期待損失は、不正会計のほかにも自然災害やシステムダウン、サプライチェーンの断絶などさまざまであるが、これらのリスクマネジメントについても、基本的なフレームワークは不正会計と同じだ。まずはリスクの要因を「見える化」し、リスクを誘発する行動やKRIに着目してモニタリングを続けること。そして異常値が検出された場合に、適時、現場を調査しにいくような仕組みが不正リスクの早期発見や抑止力に、ひいては発生頻度や損失額の低下につながるのである。【完】

 

 


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