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オムロンならではの強み
主力のFA事業

 

 事業ドメインで最も注力されているのがFAですが、IoTとAI化で競争も激しい。オムロンはこの時代にどう闘いますか。

 FAは製造現場が直面している難しい課題を自動化によって解消することですが、オムロンはあくまで人間中心のオートメーションを考えていて、無人工場を目指しているわけではありません。
我々はイノベーティブなオートメーションの実現を目指し、「i‐Automation」というコンセプトを掲げています。この頭文字の「i」は、カギとなる次の3つのイベーションを表しています。

 ❶integrated=制御進化
 ❷intelligent=知能化
 ❸interactive=人と機械の新しい協調

 まず、❶の「制御進化」については、機能の頭文字を組み合わせた「ILOR+S」という特徴があります。工場のラインで説明しましょう。「I」(input)は機械や製造の状況をセンシングするセンサー類、「O」(output)はモーター類などラインを動かすもの、それに手足となる「R」(robot)、ライン全体の安全監視をする「S」(safety)です。そして、これらすべてを制御するソフトを搭載したコントローラーが「L」(logic)で、完璧にラインをすり合わせて高速・高精度な制御を実現します。この「ILOR+S」すべての技術を唯一持っているのがオムロンの特徴であり、他社にはない強みです。工場ラインのすべてをつないだ統合的なソリューション・パッケージを提案できます。
 もちろん、最初からこれらがすべて揃っていたわけではなく、2015年から2017年にかけて、モーションコントローラー(米デルタタウ社)、産業用ロボット(米アデプト社)、産業用カメラ(日センテック社)、産業用コードリーダー(米マイクロスキャン社)など、欠けていた機能をM&Aでグループに取り込み、統合的な「ILOR+S」を実現できるようになりました。
  続いて、❷の「知能化」についてです。オムロンは20万機種くらいの制御のコンポーネントを持っており、その約半数をIoT対応して、情報が取り出せるようにしています。
 今春には世界で初めてAI搭載のコントローラーを発売。機械の状態をセンサーが感知し、振動やトルク、温度、音などの情報を全部吸い上げ、熟練工が匠の技で判断していた生産ラインの状態を、コントローラーが情報を収集・判断・制御する「学習するモノづくり」を実現します。熟練技能者の暗黙知を形式知化して、予兆管理ができるわけです。不良品をつくりそうになった時のサインを見逃さず、自動的に機械自身がフィードバックして制御します。「止まらない設備」「不良品をつくらない設備」「性能を最大限発揮する設備」を目指しています。
 そして、❸の「人と機械の新しい協調」について。これまでロボットは、人から隔離されて動いていました。しかしいま、それが人間のいるラインに入り、人と一緒に動くようになってきています。ロボットが人をサポートすることで人の能力を引き出せれば、人と機械が協調する職場を実現できるのです。
 これら❶〜❸、3つのイノベーションを軸にしたコンセプトが「i‐Automation」であり、これをソリューション・パッケージ化しています。これまでは新しい生産ラインの立ち上げに3カ月かかっていたのが、オムロンの「i‐Automation」なら、お客様が常数をインプットしてセットすれば、たとえば数日で可能になる。そんな利便性をお客様に提供しているのです。

「地上11メートル以下」に
オムロンの商機あり

 もう一つ興味深いのは、「地上10メートルのモノづくり革新」というコンセプトです。自社の闘う場を「高度」で表現し、とてもわかりやすい。

 

 オムロンの立ち位置は、やはり製造現場です。FAでは、グローバルで11万社の製造業者との取引があり、これが最大の資産です。そして我々は、それぞれのお客様の困り事にソリューション・パッケージを届ける。工場のデジタル化において、ソフト分野では、グーグルやアマゾンなどのメガプラットフォーマーやITベンダーがいますが、彼らには製造現場のアプリケーションはわかりません。よって、IoT対応にはどうしてもパートナーが必要となります。その場合に、オムロンにしっかりと声がかかるように、お客様への提案力を日々磨いています。
 また、設備の自動化に必要なデバイスもどんどん進化しています。しかし、デバイスを揃えるだけではモノづくりを革新するソリューションはつくれません。ソリューションを実現するには、デバイス同士をつなぎ、高度な制御を実現するソフトウェアとパッケージ化して提供することが重要です。これは、製造ラインを実現するILOR+Sのすべてのデバイスを持つとともに、製造現場のノウハウを蓄積してきたオムロンにしかできない部分です。この取り組みを進化させ続けることでオムロンに声がかかるように、その領域をきっちりやっているわけです。
 そして、このソリューション・パッケージは、工場ではだいたい10メートル以下の空間に位置しています。そこで我々は、この空間にフォーカスする「地上10メートルのモノづくり革新」という戦略を取っているのです。
さらにもう一つ。我々が「脊髄反射」と呼んでいるものがあります。これは、いわゆる現場でのエッジ制御に当たり、ここに徹底的にこだわっています。生産現場のリアルタイム処理は、クラウドのような地上100メートルにある「大脳」経由では間に合いません。その間に不良品ができたり、事故が発生したりしますので、現場のコントローラーで処理する「脊髄反射」がカギになってきます。
 そこで、我々が得意とする「センシング&コントロール」をリアルタイムに行い、さらにはAIコントローラーで制御するというAI化を支える、現場でデータ活用するサービス「i‐BELT」というサービスも新たに始めました。これは、データを使った保守・メンテや生産ラインの進化を、お客様と一緒にやっていくものです。我々はこの部分を「地上11メートルの+Think層」と表現しています。ここにAIコントローラーという「脊髄」機能があり、これは「大脳」ともやり取りしますが、リアルタイムで詳細な現場データはここで処理・蓄積して、ラインを進化させていく。そこにオムロンの存在意義を置こうというわけです。
 なぜなら、地上10メートル以下の現場データが爆発的に増えているからです。それらをすべて大脳に送っても処理し切れません。であれば、現場側にフィルターをかけてデータを取捨選択し、必要なものだけを大脳に上げる。反対に、脊髄反射で済むものなら、その場で現場にフィードバック処理する。この「地上10メートル+1メートル」の11メートル以下の現場に、我々の商機があるのです(図表2「『地上11メートル以下』 オムロンのモノづくり主戦場」を参照)。

 

 戦略をわかりやすく表現することは、社員一人ひとりのアクションにつながりますね。

 どこで価値を生み出すかをみんなが理解し、そこで頑張ること。それが大事だと考えています。戦略も企業理念も、現場の中に浸み込んで初めて、意味がありますから。だからこそ、そこに対する労力は惜しみません。お客様とのコミュニケーションという意味でも、オムロンがどこで価値貢献をしたいのか、それがはっきりと伝わるようにしています。

 

 それを実践していくためのカギは、顧客との密着度だと思いますが、具体的にはどのように展開されていますか。

 「フィールド・アプリケーション・エンジニア」という現場に精通したエンジニアを、グローバルで約1100人体制で設けています。彼らは現場に精通した技術者であり、世界各地に17カ所ある「オートメーションセンター」(実機でアプリを体験できる施設)で、お客様とパートナーシップを組んで生産ラインの革新を進めています。オートメーションセンターは今年度中に35カ所にまで増やします。
 当然、そのノウハウが蓄積されるので、それをパッケージ化して他社にも販売するというビジネスモデルが展開できるのです。

 

 アマゾンは完全無人化を実現したコンビニ型のリアル店舗を出店しましたが、進化したAI時代には工場も完全無人化が実現し、10メートル以下の現場に人がいなくなることはないのでしょうか。

 人間がまったくいらないモノづくりが出てくるとは、私は思っていません。機械に置き換えられる部分はあるかもしれませんが、設備自体を進化させたり、データから読み取って新しい価値を付加したりするといった、人間の創造性が最も重要視される分野が生産現場ですから。オムロンのオートメーションのコンセプトも「人と機械の融和」であり、お互いの能力を引き出すことを重視しています。
  オムロンの創業者・立石一真の言葉に「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむべきだ」というものがありますが、まさにそういう時代になってきたと思います。

 これまで主力のFA事業についてお聞きしてきましたが、4つの注力ドメインの一つであるヘルスケア事業についてもお聞きします。人間を見続けてきたオムロンとしては、ヘルスケア事業を持っていることは大きな戦略的利点ではないかと。どう位置付けていますか。

 もともとは、「センシング&コントロール」という技術を人にも役立てることができるのではないか、人間が幸せに生きるには健康が第一であり、事業としてもやる価値がある、と考えた創業者が1970年代にスタートさせました。苦労の歴史はありますが、いまでは1000億円を超え、柱の事業に育ってきました。世界シェア50%の家庭用血圧計や体温計、喘息の治療器などをグローバルに展開しています。
  「人と機械の融和」がテーマとなったいま、機械のセンシング&コントロールと、それをオペレーションする人間のセンシング&コントロール(動作、体調、気分などのバイタルサインをセンシングする技術)が、工場ラインの品質や加工にも重要になってきています。FA事業だけでなく、ヘルスケア事業を持っているオムロンのユニークさは、お客様にとって価値ある存在になると考えています。

 

 グローバル化の際にも、ヘルスケアは「上陸パッケージ」として役に立っているとか。

 オムロンは、FAなどのB2B事業が主だったため、残念ながら新興国ではブランド認知度がほとんどありませんでした。しかし、中国、インド、南米諸国などでは、B2C事業のヘルスケアを通じて、オムロンブランドに接してもらう機会が多くなってきました。その結果、ハイテックでハイタッチなブランドイメージを持っていただくことができます。これは、その後に展開をしていく電子部品やFAなどの事業にとっても、大きなプラスになっています。

変化を「創造」する存在で
あるために

 山田さんのこの7年の手応えですが、『統合レポート2017』には「自走的成長構造の確立は道半ば」と書かれています。ですが、ある程度の自信も持っていらっしゃるように感じます。また、ポスト「VG2020」となる2030年へ向けて、どのように進化させたいと考えていますか。

 そうですね、やはり道半ばというのが正直な気持ちです。手応えも感じている一方で、この会社ならもっとできるという思いがあります。そろそろ、次の10年ビジョンもスタートさせなければなりません。この時に、創業者が考案した「SINIC理論(注4)」はまさに〝コンパス〟となります。2030年には、それまでの「最適化社会」から「自律社会」へ向かうと予測されていますが、その中で我々は、あくまでも「センシング&コントロール+Think」というコア技術を軸に何ができるかを追い求めていく。つまり、「人と機械の融和」を掲げて、人間を科学し、オートメーションをより進化させていくことを目指します。
 変化が激しい時代なので、変化に対応しようとすれば後手となって遅れてしまう。未来のイメージを持ったうえで、バックキャストでどう変えていくか、何が課題か、といった具合にやっていくことが重要です。もちろんまだ全部できてはいませんが、変化への「対応」ではなく、変化を「創造」をする。そういう存在でありたいのです。

(注4)「SINIC理論」は、創業者の立石一真氏が約半世紀前の1970年に構築し、国際未来学会で発表した未来予測。技術と社会と科学が相互に影響し合う中で「人間と機械との関係」がどのように進化するか、そのうねりを見通したもの。

 

 そのためには、変化を創造する人財をどう育成するかが重要です。特にグローバル人財の育成をどうされていますか。

  「コアポジション」「コア人財戦略」というのをやっていまして、グローバルでビジネスを進めるために必要となる主要なコアポジションを200ほど指定し、基本的には社長に人事権を集めて、一元的に管理する仕組みをつくっています。候補者は各ポジションに対して2人ずつ選び、400人くらいの候補者をリスト化しています。
 そこから抜擢した優秀な人材に対し、「グローバル・アカデミー」という場で、次の経営者層へと育てるための研修を続けています。彼らが、自国以外の、他事業の次世代リーダーたちとネットワークを持つことも狙いです。多くの執行役員がアカデミーの卒業生であり、そのうちの1人は中国人女性で、現地法人のトップを務めています。

毎年「社長指名」を実施
ユニークなガバナンス

 ガバナンスも進化されていますね。「社長指名諮問委員会」というユニークな取り組みがありますが、社長には後継指名権がなく、候補者リストは常に更新されているとか。

 私は5代目の社長ですが、社長指名諮問委員会で初めて指名された社長です。オムロンは「少しずつ進化」する会社ですから、社長指名の仕組みについても、形から一気に入るのではなく、1999年にアドバイザリーボードをつくり、2001年から社外取締役制を導入、2006年には人事諮問委員会、報酬諮問委員会、社長指名諮問委員会の3委員会を設置といった具合に、ガバナンスも20年くらいかけて進化させてきました。特徴的なのは、社長である私はどの委員会にも入っていないということです。
 実はオムロンは、社長交代はなくとも、毎年「社長指名」をしている会社です。もちろん交代していないので世間に発表していませんが、毎年11月末頃、私は社長指名諮問委員会から呼び出され、3つの質問を受けます。
  1つ目は「来期も続投する意思があるかどうか」、2つ目は「あなたにもしものことがあった場合、緊急時の引き継ぎ手は誰か」、3つ目は「後継者の育成はどのように行っているか。リストがあれば出してください」と。3番目については、「こういうタフ・アサインメントを後継の可能性がある人には与えています。リストはこれです」と委員会に提出します。
 これらの質問に答えた後、私は部屋から退出し、社外取締役と執行役員を兼務していない社内取締役の計5人で議論をして、結論をまとめます。そして、「来期も山田さんの続投を諮問します」といった形で取締役会に提出、そこで決議されて初めて、私の続投が決まるのです。取締役会では私も1票を持っているのですが、諮問される段階までは、私はそのプロセスにいっさい入っていません。
 これは客観的に見ても、とてもよい仕組みだと思います。毎年やるので交代時にもめることがありませんし、経営チームメンバーも私に後継指名の権限がないことがわかっているので、よい距離感を保てます。この仕組みも2006年からですから、10年以上の歴史があります。

 

 毎年指名されると緊張感が違うのでは。

 緊張感があります。やっぱり考えます。「自分が来期もやるべきなのか」と。「意思がありますか」と問われ、「あります」と答えるには、自分がやるべきだとみずから腹落ちしないと言えませんから。

 

 最後に伺いますが、創業者・立石一真さんの経営から一番学んだことは何ですか。

 たくさんありますが、一番は「企業の公器性」です。会社は何のために存在するのかを経営の原点に置いたのが創業者ですが、私が社長になった時にもそれを自問自答しました。その結果、やはり「企業理念経営しかない」と確信しました。社員みんなが、企業理念の実践を通じて世の中のためになっていると実感できること。現場の一人ひとりからお客様にもそれが伝わって、オムロンのファンになってもらうこと。それが何よりも大切です。
 社内でよく言うんです。「仕事をする時、誰かに説得されるより、納得してやりたいよな。でも、納得より、共感してやれたらもっといい」と。オムロンが目指すのはさらにその先、「共鳴するマネジメント」です。
 もちろんその軸は「企業理念」であり、その実践を懸命にやることで共感・共鳴してもらえる。それは社員同士でも、お客様との関係でも同じ。これが、オムロンが未来にわたって価値を生み出し続ける“サステナビリティな存在”になるための原点なのです。【完】


●聞き手|森 健二
●構成・まとめ|森 健二、宮田和美 ●撮影|佐藤元一