*連載【第一回】「非期待損失」をいかにマネジメントするか〈前編〉はこちら

 企業経営を取り巻く環境が急速に変化する中で、危機的状況を事前に回避することはもちろん、事業戦略の策定と実行にかかる不確実性に対処するには、全社的リスクマネジメントの強化が不可欠だ。企業価値創造の不確実性をオポチュニティに変え、リターンを得るために、CEOは何を考え、行動すべきか。

 グローバル企業の経営を取り巻く環境は不確実性を増す一方で、皮肉なことに、多くのステークホルダーからは新たな企業価値の創造に確実性を求められるようになっている。
 持続的な成長の実現に向け、M&Aや海外投資を行ったものの、その後、短期間のうちに多額の減損を強いられたり、新たに買収した企業において発覚した不祥事で本業が大きな影響を受けるケースが後を絶たない。加えて、海外法令の域外適用などもなされる中で、法令違反が起こった際の課徴金や罰金などが、企業にとって大きな負担となっている。
 こうした事案の顕在化や不確実性の高まりに対処するには、何が必要か。答えの一つがERM(Enterprise Risk Management:全社的リスクマネジメント)である。ここで言うリスクとは、もはや会計不正や品質問題などの危機的状況だけを指すのではなく、事業戦略の策定と実行に関わる不確実要素も含まれる。経営トップには、ERMを強化し、不確実性を小さくする手腕が問われているわけだ。
 本稿では、ERMの強化に必要な考え方や取り組みについて、グローバル税務、データ活用、危機対応の3つのテーマに分けて解説する。リスクマネジメントはCEOや取締役会が取り組むべき重要課題であると認識するところから、ERMの第一歩を踏み出してもらいたい。

【SECTION1】日系グローバル企業の「攻め」の税務ガバナンス

*【SECTION2】社内外のデータを活用し経営管理とリスクマネジメントを強化こちら
*【SECTION3】危機発生時のダメージを最小化する3つのアクションこちら

「守り」だけでなく「攻め」も
リスクマネジメントの対象に

左│高島 淳 右│久禮由敬

  リスクマネジメントの枠組みとして世界で最も広く認識され、適用されているのが、米国COSO(トレッドウェイ委員会支援組織委員会)のERM(全社的リスクマネジメント)フレームワークであるが、その改訂版が2017年9月に公表された。
 今回の改訂版で最も注目すべきは、リスクの位置付けが大きく変わったことだ。従来は、リスクは目的達成を阻害する影響を及ぼす事象が生じる可能性であると定義されており、マイナスの影響を与える事象を「リスク」、プラスの影響を与える事象を「オポチュニティ」(事業機会)と整理していた。一方、改訂版では、「リスク」と「オポチュニティ」を区別するのではなく、両者を合わせて「リスク」として整理し直している。

 この変更により、リスクマネジメントに関して、従来はマイナスの事象に備える「守り」のイメージや、さらには管理部門の仕事であると誤解される向きがあったが、事業戦略やビジネス目標に関わる「攻め」の部分もリスクマネジメントの対象であること、すなわち経営者の仕事そのものであることが明確になったと考えられる。
  リスクが会計不正や品質問題、各種法令違反などに起因する危機的状況だけを指すのではなく、「不確実性」そのものを表すとすれば、認識すべきリスクは膨大かつ多岐にわたり、その管理はCRO(最高リスク管理責任者)任せにすべきものではない。ERMはCEOを筆頭とした“ボード・イシュー”であり、グループワイドにリスク・レーダーを活用し、自社グループにとって何が重要なリスクなのか、これを見える化することが、その第一歩となる。

 
 
 

グローバル税務を
“ボード・イシュー”にするには

 リスクはリターンの源泉であり、企業収益にとってはプラスにもマイナスにも作用する。リスクマネジメント力を強化し、その不確実性を引き下げることは「稼ぐ力」を社内外にアピールすることにもつながる。
  では、日系グローバル企業にとって、リスクマネジメント力を強化することで、最も大きな収益向上のオポチュニティとなりえるのはどこか。それは、グローバル税務リスク対応と税務ガバナンスの強化である。
 M&Aを通じて海外進出した際に、買収した先が日本本社よりも優れた税務ガバナンスの仕組みを持ち、実効税率を引き下げるために全体最適を図っているケースは珍しくない。一方、日系企業には、税金は「社会貢献」として支払うものという意識が強く、税金をコストとして適正化するという意識は希薄だ。
 なぜ税務はリスクであり、オポチュニティとなるのか。多くの日系企業は、国内コンプライアンス業務が中心であり、国際税務に関するリスクマネジメントに手が回っておらず、最近の報道でも、海外子会社の絡む移転価格、タックスヘイブン税制等の更正事例が後を絶たない。税制は各国によって制度が異なるため、本社として海外子会社をモニタリングできていないと、ある日突然、税務調査により多額の現金を支払うことになり、「税金を差し引いたら、結局、儲かっていなかった」ということにもなりかねないのである。
 グローバル税務の対応を従来の税務実務を得意とする社内専門家に一任していないだろうか。グローバル税務管理は企業価値の毀損とレピュテーションリスクを伴うものとして、CEOや取締役会が取り組むべき課題と再認識すべきだ。
 では、グローバル税務を“ボード・イシュー”にするにはどうすればいいか。まずはCEOが税務を「経営課題」としてとらえて、経営指標としてのKPIを営業利益だけではなく、税金を必然的に意識すべく「純利益」にも置くことが必要である。
 欧米グローバル企業では、税務に関するトップマネジメントの関与とKPIへのコミットが明確であり、企業価値を維持向上するための「税務ガバナンス」がしっかり構築されている。税務部門の役割としても、事業の意思決定に貢献する部門として、マネジメント、事業部、内部監査部門等との連携も強固だ。税務人材としてコミュニケーションや事業の理解に優れた経営企画の感覚を持った人材の育成、外部採用にも積極的だ。
 また、グループ税務リスクを適切に管理するためには、本社が海外グループ子会社の税務情報をタイムリーに把握し、適切な判断を下せる仕組みが必要となる。そのためには、グループ税務リスクを「可視化」するためのプラットフォームとして税務リスク管理システムの活用が必須となる。税務リスクを見える化し、適正にコントロールすることが可能となれば、純利益の不確実性は小さくなり、コーポレートガバナンス・コードにおけるROE向上の即効薬にもなるだろう。
 ガバナンスが効いた状態でグローバルに税務を管理しながら、なおかつ、持続的な企業価値創造を実現することは、昨今、世界的な関心の高まりを見せるESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点からも大きな意味を持つ。

JUN TAKASHIMA 
ロンドン、バンコクにおいて日系企業の海外展開、買収、統合、地域統括会社の設立等を支援。現在、日系企業の税務ガバナンス構築を支援する専門チームを組成し、日系企業の税務機能強化サポートを中心に従事。

YOSHIYUKI KURE
財務諸表監査、内部統制監査、コーポレートガバナンスの強化支援、グローバル内部監査支援、CAATによるデータ監査支援、不正調査支援、BCP/BCM高度化支援、IFRS対応支援、統合報告をはじめとするコーポレートリポーティングに関する調査・助言などに幅広く従事。

【SECTION2】社内外のデータを活用し経営管理とリスクマネジメントを強化こちらです

 


  1. ●企画・制作:ダイヤモンド クォータリー編集部