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【SECTION3】危機発生時のダメージを最小化する3つのアクション

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*【SECTION2】社内外のデータを活用し経営管理とリスクマネジメントを強化
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危機発生時には適切な
ビジネスジャッジが下せない

左│大塚 豪 右│小堺亜木奈

 ある日系グローバル企業の話。東南アジアで現地企業を買収し、取締役として日本人も派遣した。ところが、現地の経営陣による不正が発覚し、取引先から訴えられて、刑事事件にまで発展した。日本の本社では、どうやって日本人取締役を安全に日本に連れ戻すかが一大プロジェクトになった。
 人事部門は、とにかく日本人従業員の身の安全を確保するために、「現地の裁判などどうでもいいから、連れて帰ってこい」と言う。一方、法務部門は「現地の司法制度をきちんと理解して、状況を把握し対応することが重要だ」と言う。人事部門と法務部門、2つの対立する意見がマネジメント層に上げられた時に、経営トップは誰の判断に従い、どう判断すべきか。
 会計不正や品質問題、各種法令違反などに起因して、突如として危機的状況に直面する事案が増えている。コンプライアンスや内部統制の強化を推進している上場企業においても発生しており、危機対応は経営の重要課題となっている。何らかの問題事案が発生した時に、経営者の仕事は、「ダメージをコントロールし、いかに最小化するか」であり、これこそが危機対応そのものである。
 しかし、実際には、対応のまずさから不必要に大きなダメージを受けてしまうケースが多く見られる。その要因はいくつかある。1つは、危機の発生頻度は非常に低く、多くの企業や経営者にとって初めて経験することであり、実際に危機が発生した場合の対応について正しく理解できている企業はほとんどないこと。2つ目は、リソースや有事対応体制の不足だ。ひとたび危機が発生すると、経営・法務・財務などに関連する膨大な作業が発生するが、そのリソースを有している会社など存在しない。
 そして3つ目が、冒頭のようなケースである。危機対応は、短い期間の中で事業継続を左右する高度なビジネスジャッジの連続であり、さまざまな価値の相克に直面する。まさに事業経営・財務・法務などすべての観点を踏まえた意思決定が求められるが、時にリーガルオピニオンを重視するあまり、適切な判断が下せなくなってしまうことがあるのだ。

専門家を使いこなす
専門家が必要

 危機発生時に必要以上のダメージを受けないためには、初動が肝心なことは言うまでもないが、3つのアクションが必要になる。1つは、問題収束アクションだ。まず何が起こったのかという事案調査を行い、根本的な原因の解明や類似事例の可能性の精査を行う。場合によっては調査委員会を立ち上げる必要もあるだろう。さらに再発防止策の策定に当たっては、問題の本質を見極め、原因や動機までを徹底的に調査・分析する必要がある。
 2つ目は、経営安定化アクション。問題事案の発生によって、どのような経営ダメージを受けるのかを整理することが必要になる。ビジネス上の信用を失い、場合によっては製品の出荷停止に追い込まれることも考えられるだろう。賠償費用などが発生した際に、経営上の損益、資金や資本に対するインパクトをきちんとシミュレーションし、資金不足が予想されるのであれば、保有する資産を売却したり、場合によっては金融機関に資金調達を相談することも必要だろう。
 3つ目が、社内外のコミュニケーションだ。取引先をはじめ、マスコミ、株主、監督官庁、金融機関、監査法人、内外の司法当局、従業員など、さまざまなステークホルダーが存在する。誰もが「最新の情報」を要求してくる中で、誰に、どういう順番で、どのような情報を流すのか、細心の注意が必要だ。
 これら3つのアクションは、混然一体となって同時並行で行わなければならない。その結果、危機対応に当たっては、経営・法務・財務の3つの領域で膨大なタスクが発生するが、短期間で柔軟かつ連携しながら進めていく必要がある。繰り返しになるが、これに対処できるリソースを有している企業はないので、必然的に外部の専門家を起用することになる。
 経営・法務・財務の専門家を束ね、最終的な意思決定を行うのは経営トップの仕事だ。その役割は、さしずめ「オーケストラの指揮者」といったところだろうか。バイオリンだけがいい音を出していても、演奏が成り立たないように、あらゆるパートに目を配りながら、全体としての調和を図り、目指すところに向かう必要がある。経営トップがその役割を果たすことが難しい場合は、“専門家を使いこなす専門家”を外部から探してくることも考えないといけない。【完】

AKINA KOZAKAI
専門は、企業の事業構造改革、事業再構築、不振事業のターンアラウンド、危機対応。またM&A、資金調達、法的手続きなどの財務ストラクチャーについても経験多数。近年は、日系企業の海外現地法人の再構築に多く関与している。

GO OTSUKA
専門は、危機対応、不祥事対応、フォレンジック。ビジネスコンサルティングの経験に加え、総合商社の社内弁護士としてさまざまな事業分野における事業投資案件や危機対応、不祥事対応などの実務経験を有する。近年は品質不祥事、会計不祥事への対応に多く関与している。


  1. ●企画・制作:ダイヤモンド クォータリー編集部