アデコ 代表取締役社長
川崎健一郎
Kenichiro Kawasaki

「ヒエラルキー型組織の3つの弊害」
に直面する大企業

 生産年齢人口が減少し続ける中、先進国の中でも低いとされる労働生産性をどう向上させていくか。加速度的に進化するテクノロジーは、従来の職種や職務内容をどう変えていくのか。加えて、「人生100年時代」といわれる長寿化に対し、雇用制度や人生設計をどう見直していくのか。そんな先の見えないいまの時代、労働市場環境もまた変革期にあり、企業では「みずから考え、行動し、律することのできる主体性ある人財」が強く求められています。

 企業の内部環境に目を向ければ、大企業ほど「ヒエラルキー型組織の3つの弊害」に直面しています。1つ目は「情報の劣化」。ビジョンを策定し戦略を立てても、現場に伝わるのはKPIだけという状態です。次いで「事実の歪み」です。現場では「黒」だったものが、上層にエスカレーションする過程でグレーとなり「白」に近い色に変わり、事なかれ主義に陥ってしまう。そして3つ目、「部門間の断絶」。部門間で情報が共有されないがゆえ、競争優位を生むために不可欠なバリューチェーンの調整が行われない。原因は「情報へのアクセス制限」と「上位役職者への権限集中」にあります。

 自律型人財を育成するには、こうした環境を改めなければなりません。つまり、情報を可視化し、権限委譲をする。信頼をベースとした経営にシフトをし、現場に近い社員たちが自分で考え、行動するような組織に変えていくのです。たとえば弊社では、経営会議の議事録を全社員に公開するとともに、タウンミーティングを開催しています。またヒエラルキー組織の改善のため、上位役職者がお客様に最も近い現場を支える支援型リーダーシップも実践しています。

 さらに、社内外でも活躍できる自律型人財を育成するうえでの土台として「キャリアマップ」の作成をお勧めします。職種別に求められる能力・スキル・経験を特定し、レベルごとに、スキルアップに必要な支援メニューを定義しています。このマップを使えば、社員たちは自分の現在のポジションを知り、今後のキャリアプランやスキルアップについて考えることができます。

 人間の成長に関する「7:2:1の法則」によれば、座学によって成長できる余地は10%に過ぎず、他者からの教えは20%、最も成長機会が大きいものが70%で「経験」によるものです。もちろん研修は、学ぶ機会をつくる重要な施策ですが、やはり実際に経験し、失敗や試行錯誤から学んでいくことで、人は大きく成長するのです。その意味でも、社員を信頼して情報を提供し、権限を委譲して任せることが、自律型人財の育成には不可欠なのです。


  1. ●構成・まとめ|金田俢宏  ●撮影|阪巻正志
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