インダストリー4・0に
学ぶべきこと

 あなたの祖国であるドイツでは、「インダストリー4・0」を掲げ、国を挙げてDXに取り組んでいます。
 労働組合の影響力、中小企業の存在感、ものづくりを大切にする文化など、日本とドイツは類似しているところが少なくありません。そしてもう一つ、クラウド産業が弱いことも共通しています。実は、このことがDXを進めるうえで不利に働いています。
 世界でシェアを獲得しているクラウドプロバイダーは、アメリカや中国の企業です。クラウドはDXに不可欠です。そして正直に申し上げれば、経済全体をクラウドに移行すべきなのです。しかし、日本やドイツがこれをやろうとしても、もはや遅すぎます。
 ならば、どうするか。ドイツは、日本同様、伝統的に自動車、エレクトロニクス、機械に強い。また、製造プロセスの生産性を高める能力にも長けている。そこでインダストリー4・0の下、エンジニアリングや生産プロセスに焦点を当てて、製造業全体のDXを推進しています。
 具体的には、いままで培ってきた知見や経験を活かしつつ、新しい技術と組み合わせ、サプライチェーンの最適化を図る。その結果として、この分野に関してドイツがリーダーになりうる可能性があります。ですから、ドイツの主要企業が先頭に立って推進しているわけです。
 ただし、DXはある意味、終わりのない旅(ジャーニー)です。インダストリー4・0は有益な取り組みですが、それも一時的なものにすぎないのも、また事実なのです。
 もう一つ、日独の共通点として、製造業が優れていたからこそ経済的繁栄を享受できたことが挙げられます。多くのビジネスリーダーが認識しているように、今後の課題は、製品やサービスを中心としたビジネスモデルをプラットフォーム型に転換させることです。もちろん、言うほどに簡単ではありません。ですが、どうすればプラットフォーマーになれるのかを頭に置きながら、DXに取り組んでいくことが大切です。

 日本もドイツも、中小企業が産業全体の99%を占めており、大企業のサプライチェーンを支えています。インダストリー4・0では、中小企業もDXに取り組んでいますか。
 2~3年前ならば、DXを成功できるのは巨大な多国籍企業で、中小企業はうまくいかないだろうと考えられていました。いまやドイツでは、DXは中小企業でも着々と進んでおり、部分的には、大企業を凌駕しています。やはり、中小の場合、大胆な意思決定をスピーディに下せるのが大きい。また、起業家精神あふれるスタートアップは存在そのものがDXです。

 これまでは大企業を支えることが主たる役割でしたが、いまやみずから海外展開に打って出ています。
 中小企業もDXに取り組むことで、サプライチェーンもより効率化し、ひいては社会全体の生産性が向上します。インダストリー4・0の究極の目標は、こうした好循環が形成されることにほかなりません。
 積極的かつスピード感を持ってDXに取り組んでいくことの重要性は、これ以上お話しする必要はないでしょう。ただし一言申し上げると、その際、サイバーセキュリティと顧客データ保護をけっしてなおざりにしてはいけません。
 DXが必須の時代にあって、デジタル関連のリスクマネジメントは、経営者の重要な仕事の一つになっています。なぜなら、SNSや仮想通貨の例が示しているように、サイバー攻撃がもたらすダメージは、データの流出のみならず、顧客の離反、社会的信用の失墜、集団訴訟など、従来とは比較にならないからです。
 データのプライバシーやサイバーセキュリティは、技術的な問題であること以上に、国ごとの法制度や社会的慣習に関わる問題であり、また世界のどこから攻撃を受けるかわからないなど、極めてやっかいな問題なのです。

 DXに成功しているアメリカ企業は、こうしたデジタル技術のキャッチアップ、さらにはそのリーダーシップを握るため、アメリカのみならず、インドや東欧など、優秀なデジタル人材が育っている国や地域にも目を配り、彼らに大胆な投資を傾けています。これは、第2の「ウォー・フォー・タレント」(人材獲得競争)の始まりでしょうか。
 ウォー・フォー・タレントは、第1次とか第2次といったものはなく、以前からずっと続いています。私はプロフェッショナルの世界に身を置いて30年ほどになりますが、この業界では、優秀な人材の採用について常に頭を悩ませています。
 ご承知の通り、最近の若い人たちの価値観や仕事観は、我々の時代とは大きく変わっています。たとえば、お金のため、あるいは組織のために働くといったことはありません。また、社会課題への関心も高く、世のため人のために働きたいという気持ちを持っている。旧世代の人たちとはまったく違うのです。
 才能ある有意な人材を獲得するには、彼らに選ばれる魅力的で刺激的な会社になることです。そのためにも、DXを加速していく必要があるわけです。そして、そのリーダーはCEOでなければなりません。


  1. ●聞き手|岩崎卓也(ダイヤモンドクォータリー編集部) ●構成・まとめ|奥田由意、岩崎卓也 
  2. ●撮影|朝倉祐三子