アメーバ経営に不可欠な
「利他の心」

 谷本さんご自身が実感された「アメーバ経営」の利点は何でしょうか。
 アメーバ経営自体は一種の経営手法ですから、そんなに難しい理屈があるわけではありません。ただし、とにかく相当細かく見ないと、計画通りにはいかないのです。「経営を細かく見る」──これで当社は機能しているのだと思います(コラム「アメーバ経営──その経営管理システム」を参照)。
 たとえば、一つの製品において、前工程と後工程でアメーバ組織をつくるとします。最終の売り値は受注金額をベースに決まりますが、前工程と後工程がそれぞれいくらでやり取りするか、つまり、アメーバ間の売り値と買い値を決めなければなりません。アメーバは互いに独立採算型ですから、どうしても自分の利益を多くしたいというエゴが出てきます。そのエゴがぶつかると、なかなかうまくいきません。手法だけ採用しても、ダメなのです。
 そこで大事になってくるのが、稲盛がよく言う「利他の心」。つまり「京セラフィロソフィ」の大切な教えの一つです。アメーバ経営は、それがないと成り立たない仕組みになっています。

「利他の心」といっても、それを持てない人もいるのでは。
 現実は、アメーバのリーダー同士が侃々諤々と意見をぶつけて互いに説得し合うのですが、そうすることで最後は「相手のことも考えよう」となり、いいあんばいで落ち着くことになります。
 もちろん、それができずにエゴを押し通そうという人は、責任者として上に上がっていくことができません。

 アメーバ経営のよさはわかっても、実際導入するに当たってはいくつかの課題があるといわれています。先ほど谷本さんがおっしゃった通り、まず挙げられるのは「利他の心をはじめとするフィロソフィの浸透が不可欠であること」です。
 先ほど申し上げた通り、アメーバ経営は、利他の心がなければ成り立たない仕組みです。もともと京セラのフィロソフィは、「人間として何が正しいか」という考え方ですから、周囲を見渡したうえで自分を見つめ直し、常に自分に厳しくあることが求められます。その意味で、人間形成につながるといえるでしょう。

 もちろん、そうした「フィロソフィの浸透」は、京セラ本体ならば徹底できるでしょう。しかし、M&Aで傘下入りした海外グループ会社など、組織風土が異なる企業に徹底することは簡単ではありません。それをどう克服されていますか。
 まずいえるのは、企業風土が合わない会社は買収しないということです。企業風土が近い会社を選ぶ、それが大原則としてあります。
 そうは言っても、実際には多少違っていたということはあるでしょう。そういう場合に備え、新たな会社にアメーバ経営を入れる際には、京セラフィロソフィの教育を徹底的に行うのです。
 当社には、経営管理部というアメーバ経営の統括部門があって、アメーバ経営導入に際しては、そこのスタッフが必ず送り込まれることになっています。アメーバ経営の基本となる「時間当り採算表」のつくり方はもちろん、それを徹底する意味をきちんと理解してもらいます。半年ないし1年で、アメーバ経営を移植していきます。
 その一方で、京セラフィロソフィの教育は継続的に実施します。「フィロソフィ手帳」を買収先の従業員一人ひとりに配布するために、中国、英語、ベトナムなど各国語版も用意しています。
 ちなみに会長の山口は、いまも京セラフィロソフィ教育のために、国内だけでなく、海外のグループ会社へ定期的に出かけ、講話をしていますね。

 稲盛さんがつくり上げた「京セラフィロソフィ」は、海外のグループ会社でも受け入れられていますか。
 特に中国では、教えてほしいという要望がとても強いです。もしかすると稲盛は、日本より中国のほうが、人気があるかもしれません(笑)。
 中国では一時期、お金さえ儲かればいいという風潮がありましたが、やっぱりそれではダメだという認識が広がってきているようです。我々が掲げる「利他の心」とか、「人間としての正しさ」といった考えが、現地の人たちの間でも実感をもって受け止められるようになってきました。

それはアメリカでも同様です。日本と同じように、世界各地で京セラフィロソフィは受け入れられています。