「従業員を大切にする」
その本質を極める

 グローバル展開についてもお聞きします。「2020年度までに、M&Aで売上げ2500億円を上積みする」という計画もありますが、それは海外中心になりますか。
 結果的には、海外が多くなるでしょうね。2017年度も5社で売上げ約1000億円に相当するM&Aをやりましたが、うち4社が海外でした。
 先ほど、そうしたM&A企業へアメーバ経営を移植するために経営管理部という統括部門のスタッフを派遣しているという話をしましたが、その絶対人数が増えない中で、派遣先となる会社はどんどん増えているのが実情です。人繰りが相当大変になってきています。その意味でも、間接部門の生産性向上は不可欠なのです。

 「京セラフィロソフィに合わない会社は買収しない」とおっしゃっていましたが、「どうしてもこの技術がほしい」という会社もあるのでは。
 そういう場合はM&Aではなく、共同開発という形で行っています。M&Aで京セラグループとなってもらうには、やはり企業文化が合うかどうかが重要です。それは、経営者に会って少し話をすれば、だいたいわかります。ポイントは、「従業員を大切にしているかどうか」です。
 京セラに限らず、日本的経営のよさの一つは、「全社に一体感がある」ことだと思います。個々の能力が傑出しているわけではないかもしれませんが、やはり日本的経営の特徴はチームワークです。それには、経営者がちゃんと従業員のことを思っていなければ、一体感など出てきません。
 我々がアメリカ型の経営を真似したところで、うまくいくはずがありません。ちなみに当社でも、「グローバル社員」と「ローカル社員」と制度を分けて、転勤のない工場勤務の人はローカル社員として待遇も少し変えていた時期がありましたが、結局うまくいかなかったです。
 その後、当社は、相当数の日本の子会社を京セラの中に取り込みました。なぜなら、いくら子会社の社員に「京セラフィロソフィを実践しよう」とか、「アメーバメンバーの一人ひとりの力が大切だ」などと唱えても、親会社と子会社で待遇が違えば、結局それは伝わらないのです。ですから、みんな一緒のルールと待遇にしましょう、と。地方の工場も子会社も全部、京セラ本体と同じ待遇に揃えました。

 最後にお聞きします。先の見えない時代に問われているのは、これからの経営のあり方です。デジタル革命に遅れ気味の日本企業に欠けていたものは、いったい何だったとお考えですか。
 えらそうなことは言えませんが、やはり日本の大企業の多くは、自前意識が強すぎたのではないでしょうか。アナログの時代は囲い込んでもよかったのですが、デジタルになると、とにかくスピードが速い。一から十まで自分のところだけではできなくなりました。ですから、外部との協業が不可欠です。何でもゼロから自前でやろうと思っていたら、とても間に合いません。
 そこで当社では、横浜に「みなとみらいリサーチセンター」(仮称)という、IoT、自動運転、エネルギー、AI、ロボティクスなどをテーマにしたソフトウェアとシステムの一大研究拠点を開設します。2019年5月に600人規模で稼働させる予定です。もちろんそこには、オープンイノベーションのスペースも設け、外部企業との共創プロジェクトもどんどん進めていきます。
 というのも、我々のコア事業である部品事業は今後、飛躍的に伸びる分野ではありませんが、少なくとも着実に伸ばしていくためにソフトウェアの力は外せません。もちろんソフトウェアを売るわけではなく、いかにものづくりの中に組み込んでいくか、それが問われています。
 また、既存事業だけでなく、新規事業をどんどん創出していく必要もあります。しかもそれを自前だけでやるのではなく、外部の多様な人たちと連携することで成し遂げていくことが、より大切になっていくでしょう。

 スピーディにオープンに、フィロソフィを共有しながら取り組めば、可能性があるということでしょうか。
 京セラフィロソフィの特徴でもある利他の心を持って企業同士が協業できれば、挑戦のスピードももっと上がっていくかと思います。
 特に若い人には、このデジタル時代をチャンスととらえ、どんどんチャレンジしてほしい。実際、AIとロボティクスを活用したモデルライン構築は、若い技術者たちに担当してもらいました。先日、その彼らとコンパをしたのですが、「いままでにないほど大変だったけれど、ラインが動いたのを見た時、ものすごい達成感があった」と、涙を流しながら振り返ってくれました。
 苦労しながらも壁を乗り越え、何かを成し遂げた経験こそが成長につながる──そうしたチャレンジできる場を社員に与えることが経営者の仕事なのだと、あらためて身が引き締まる思いでした。

 まさに、谷本さんが30歳の時に体験させてもらったことと同じですね。
 そうです。そうした挑戦をどんどん若い人たちにさせてあげたいと思います。いまのアメーバリーダーは40代が中心かもしれませんが、これからは20代、30代の若いリーダーも増えてほしい。デジタル時代を勝ち抜いていくためには、彼らのスピードとチャレンジが不可欠なのです。
 そしてその歩みとともに、京セラの経営も、アメーバ経営も、さらに進化していくことでしょう。


  1. ●聞き手|森 健二 ●構成・まとめ|森 健二、宮田和美(ダイヤモンドクォータリー編集部)  
  2. ●撮影|住友一俊