デジタル技術にそれほど詳しくなくても、IoTならば、小さく始めて、大きな失敗なく、早くに成果が出せる、またDXに取り組むきっかけにもなる、といわれます。

藤井:その通りです。IoTは、いままでつながっていなかったものをつなげることで、既存事業を比較的容易かつ短期間で変革し、新たな価値を生み出せます。また、クラウドや通信基盤の低コスト化、廉価なIoTデバイスなどのおかげで、リーンスタートアップのようなアプローチも可能です。
 もちろん、ここからDXへと本格的に発展させることもできます。実際、我々も、IoTプラットフォームを通じて、さまざまな企業のDXを支援したり、共創に取り組んだりしています。

森川:IoT活用では、こんなユニークな事例もあります。スペインのお笑い劇場では、入場料を無料にして、笑った回数に対して課金するというシステムに変えたのです。笑った回数のカウントには、前席に埋め込んだタブレット端末のカメラの笑顔認識機能を使いました。その結果、売上げは3割アップし、顧客満足度も向上したそうです。

「アジャイル」が
DXを加速する

 DXを実装する手法として、「アジャイル企画開発」が注目されています。

藤井:DXでは、必然的に既存事業の再構築、時には新規事業の開発を伴います。その際、「アジャイル企画開発」が効果的です。
 そもそもはソフトウェア開発の手法ですが、いまでは製品や事業、業務プロセスなどの見直しや新規開発にも使われています。仕様や設計を途中で変更したり、やり方を見直したりと、まさしく臨機応変に対処しながら進められる機動性に優れたアプローチです。
 またアジャイル企画開発は、ご存じの通り、小さく始めて、早い成功あるいは早い失敗を繰り返しながら、改善を重ねていく現場重視のアプローチです。その中で、時には非連続的な変革やイノベーションが派生する可能性もあります。
 KDDIも以前は、企画、開発、運用の各チームに分かれて、ソリューションサービスの開発・提供を行っていましたが、チーム間で齟齬が生じても、そのまま企画、開発、運営のサイクルを回していくため、お客さまのニーズを反映したサービスの開発には時間がかかっていました。
 これを少人数の合同チームにまとめ、一緒に一つのゴールを目指すのが、アジャイル企画開発です。言うまでもなく、市場はグローバルに変化しており、不確実性がいっそう高まっています。そこで、状況の変化に応じて、しかもスピーディに製品開発に取り組む必要があります。
 アジャイル企画開発は、こうした現実に応えたアプローチで、必要最小限のものから実装し、実際にユーザーの使い勝手を確かめながら、改善を重ねていくことによって、お客さまにとって本当に有益なサービスを提供することが可能になりました。
 大企業であればあるほど、組織を大きく変えることは難しいでしょう。そこで、各チームの担当者を一つの部屋に集めて、自律的な開発を促すのです。組織から切り離された小さなスタートアップを社内につくるといったイメージでしょうか。

森川:アジャイル企画開発に取り組む際、最近はPDCAサイクルではなく、「OODAループ」――Observe(観察)、Orient(状況判断、方向付け)、Decide(意思決定)、Act(行動)――が注目を集めていますね。
 OODAループは、アメリカの軍事戦略家、ジョン・ボイド氏が発明したもので、先の読めない状況で成果を出すためのツールです。もともとは軍事行動における指揮官の意思決定を対象としていましたが、製品やサービス、新規事業の開発スピードを上げるには、PDCAサイクルよりも、とにかくやってみながらOODAループを何度も回し、どんどん改善していく、と。

藤井:そのため、OODAはアジャイル企画開発と非常に相性がいい。ここに、デザインシンキングが加わると、DXのスピードと効果はいっそう高まります。