さまざまな業界で導入が進むロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)。日本企業の現場にいまだ多く残る、複雑・少量・多様な手作業の自動化を進める「日本型RPA」が注目を集めている。日本型RPAは日本企業をどのように変えるのだろうか。

社員の働きがいと
会社の成長戦略をリンクさせる

編集部(以下青文字):社員の生産性向上やコスト削減のツールとして、多くの企業でRPAの導入が進んできました。しかし最近、少し様子が変わってきたと感じているとか。具体的にはどういうことですか。

KOICHI HASEGAWA
アーサーアンダーセン(現アクセンチュア)、ゴールドマン・サックス、ドイツ銀行、バークレイズ銀行などで、アジア地域CIO、COOなどの要職を経て、2017年にUiPath日本法人の代表取締役CEOに就任。「日本型RPA」による日本企業の変革を積極的に支援している。

長谷川(以下略):最近、経営者と話をしていると、こういった意見を多くいただきます。
 「自分には苦難をともにしてきた同志がいる。この現有戦力を事務作業などのルーチンワークから解き放ち、お客様との関係を深めたり、創造性のある仕事に向き合ったりする時間を増やしてあげたい。それが成長戦略の要となる。そのためにRPAを全社で活用できないか」
 「働き方改革ではなく、働きがい改革が必要だ。社員が自分の仕事に誇りを持ち、仕事を通じて成長を感じられることができなければ、お客様に認められるよい仕事をすることなんてできないし、会社も成長できるわけがない。だからこそ我々経営者は、仕事の無駄をなくし、一人ひとりの生産性を高めるための支援をしなければ。RPAがその一助になるのではないか」
 このように会社の将来に対する健全なリスク意識と成長戦略を持った経営者は、「社員の働きがい」と「会社の成長戦略」をリンクさせるための環境づくりとして、RPAの全社導入を考え始めています。私たちもこの想いにしっかり耳を傾け、そのお手伝いをしていきたいと思っています。

 RPAのリーディングカンパニーである御社は、日本を最優先市場と定義しているそうですね。
 私は日本の強さは現場にあり、その現場をRPAでさらに強くすることが私たちの新たな挑戦であると思っています。
 よく「現場に神宿る」といわれますが、日本企業の特徴であるおもてなしの精神と品質へのこだわりを支えてきたのは、まさに現場です。ただしそれが行きすぎると、現場に雑多な仕事を増やす一因にもなってきました。しかも顧客とのチャネルが多様化したいま、社員の負荷は増え続け、現場は疲弊をしています。このように「複雑・少量・多様な」手作業が現場に数多く残っているのが、日本企業のもう一つの特徴でもあるのです。
 ただし、それをRPAで自動化できれば状況は一変します。現場の作業負担を大幅に軽減しながら、多様化したチャネルの中で世界トップクラスのサービスを提供する。そうすれば、日本企業の現場は再び強さを取り戻すことができるはずです。
 それゆえ私たちも、従来の欧米型RPA(コスト削減を主目的とした「簡単・大量・繰り返し」な業務の自動化)ではなく、日本企業の状況に合わせた「日本型RPA」を提供しなければなりません。日本企業の現場に残る複雑・少量・多様な手作業をいかに自動化するかが問われている以上、それに対応できる柔軟な条件設定が可能な、きめ細かいRPAが求められているのです。
 当社は日本に進出して約2年の間に、800社のお客様に支持されてきました。それは現場の皆様からさまざまなリクエストを受け、製品の仕様に反映し続けることで、日本型RPAをともにつくり上げてきたからです。この日本型RPAこそ、社員の働きがいと会社の成長戦略をリンクさせたいという日本の経営者の強い想いに応えるために、私たちが出した答えだと思っています。
 先日、東京で開かれた主催イベント「UiPath Forward Japan」で当社のファウンダー兼CEOのダニエル・ディネスが述べたように、開発投資の40%以上を日本に振り向けており、日本型RPAを世界の標準仕様に反映させています。複雑・少量・多様な手作業の自動化というニーズを満足させる日本型RPAは、世界中で通用すると考えており、その意味でも日本市場は当社にとって最も重要な戦略的市場と位置付けています。

 とはいえ、RPAを導入したものの現場で塩漬けになっている場合も多く、成功するには超えなければならないハードルがあると思いますが。
 よくいわれるハードルが、「魔法の杖問題」と「過去の悲劇問題」の2つです。
 まず魔法の杖問題とは、他社の成功事例の結果だけを見て、「RPAさえ導入すればすぐ効果が上がる」と経営者が過信してしまうこと。これはRPAに限らず、AIにおいても同様ですが、安易な導入はかえって混乱を招きます。それをどう使いこなすかが重要であり、何でもかなえてくれる魔法の杖などどこにも存在しないのです。
 次に過去の悲劇問題とは、かつて起こったエクセルのマクロをめぐるトラブルが発端となり、RPAへの誤解が生まれること。エクセルが得意な一部のユーザー部門の人間によって集計や分析ツールとしてつくられたマクロが、人事異動や退職などで管理者不在となり、ブラックボックス化。何とかしてくれとユーザー部門に泣き付かれたシステム部門がその解決に苦労した経験から来ています。エクセルのマクロと同様、RPAプロジェクトがユーザー主体で進むことで再び現場が混乱し、自分たちがその収拾に追われる事態にならないかとシステム部門が警戒。RPA導入に懐疑的になってしまうのです。
 こうした問題がRPAの真価を見極める目を曇らせ、導入成功を阻んでいるといえます。