同時に、日本的経営や商慣行への懐疑や批判が始まり、やがては悪玉論が支配的となると同時に、アメリカ型の株主主義経営が礼賛されるようになりました。
 ご指摘の通りです。こうした言説が繰り返された結果――いまなお続いています――「日本人は集団主義である」というステレオタイプがすっかり定着しています。
しかし、日本人論に関する文献をつぶさに見直してみると、実は科学的根拠に乏しく、日本人が集団主義的であるとする記述や伝聞、あるいは個人的な経験を恣意的に選んで、このように結論しているのです。いくつかご紹介しましょう。
 たとえば、英語にもなった系列については、東京大学の三輪芳朗氏とハーバード・ロースクールのマーク・ラムザイヤー氏の共同研究によれば、そのような実態はなかったそうです。そして、日本株式会社についても、政府が産業政策によって日本企業を選別・育成してきたとはいわれるものの、実際にはそれほど大きな効果はなかった、というのが彼らの調査結果です。(注1)
 先ほど市場の閉鎖性が非難されたことに触れましたが、日本とアメリカの関税を比較してみると、日本の関税が最も高かった時ですらアメリカよりも低かった。非難を受けた当時もそうでした。実際、日本の関税がアメリカより高かったのは、世界的に関税が大きく引き下げられた1964~67年のGATT(関税および貿易に関する一般協定)、いわゆる「ケネディ・ラウンド」の時くらいです。
 日本的経営といえば、「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」という三種の神器がよく引き合いに出されます。これを唱えたジェームズ・アベグレンの『日本の経営』(ダイヤモンド社)はもとより、ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(TBSブリタニカ)などは、集団主義こそ日本企業の強みであり、彼らに学ぶべきだと訴えました。
 ほめてくれているとはいえ、彼らの主張にも科学的な反証が出されています。たとえば経済学者の小池和男氏は、日本もアメリカも、賃金は年齢とともに上昇し続け、50代から60代にかけて減少に転じており、この傾向は1970年代からあまり変わっていないことを明らかにしています。
 また、日本、アメリカ、ドイツについて、年齢と勤続年数との関係に関する調査データを調べ、どの国でも年齢が高くなるにつれて勤続年数は長くなっているという事実も発見しています。(注2)要するに、年功賃金と終身雇用は、日本独自の労働慣行というわけではないのです。
 こうした年功序列や終身雇用に加えて、労使協調型の企業別組合の存在が、従業員の忠誠心を後押ししているといわれましたが、これもどうやら怪しいようです。
 電機労連が、日米の電機メーカー従業員を対象に1988年に実施した調査では、「会社の発展のために最善を尽くしたい」と答えた人は、アメリカでは64%だったのに対して、日本では29%でした。
以上のように、三種の神器は、日本的経営の特徴といえないばかりか、日本企業の成功要因といわれた集団主義を支えるものでもなかったのです。

注1)三輪芳朗、マーク・ラムザイヤー『日本経済論の誤解』(東洋経済新報社、2001年)、ならびに『産業政策論の誤解』(東洋経済新報社、2002年)を参照。
注2)小池和男『仕事の経済学(第3版)』(東洋経済新報社、2005年) を参照。

 三種の神器以外にも日本的経営の特徴はいろいろあります。経済同友会が1991年に発表した報告書を見ると、日本的経営の特徴を一覧できます(図表「日本的経営の特徴」を参照)。
 これが、一般的に信じられてきた日本的経営の特徴なのですね。しかし、そう断定するには実証された根拠が必要ですが、それが示されていません。
 統計学や実験に基づく調査や分析が導き出した客観的な結果よりも、おしなべて「みんなが言っている」「みんなが知っている」ことを主観的に選択していることが、日本人論の大半に共通する問題です。
通説とされてきたことがきちんと検証されないまま、あるいは検証されたとしてもその結果がほとんど無視されたまま、あたかも事実として定着してしまった。拝見した日本的経営の特徴についても、その根拠を一度疑ってみるべきでしょう。