「SINET」という
共考共創プラットフォーム

 そのためには、オープンで民主的なプラットフォームが必要です。

 国立情報学研究所(NII)が運用するSINET(学術情報ネットワーク)をご存じですか。これは、日本全国の大学や研究機関のための情報プラットフォームに必須な超高速通信バックボーンネットワークです。2019年2月現在で、906の学術機関が加入しています。

 少々手前味噌になりますが、民間を含めて、100ギガビット毎秒という高速接続ネットワークを全都道府県で展開しているのは、このSINETしかありません。また、ヨーロッパ、南北アメリカ、アジアなど、海外の研究ネットワークとも高速でつながっています。

 加入機関が900強あって、個別のプロジェクトも数え切れないほどあり、SINETはフル活用されています。高エネルギー、スーパーコンピュータ、核融合、天文、地震や津波などの大規模自然災害といった研究活動のほか、医療データの収集・解析においてCTのような巨大画像の転送にフルに活用され、大学や学会の枠を超えた共同研究が進んでいます。また3・11以降、大学病院間の相互バックアップでも大活躍しています。

 我々は「共考共創」と言っているのですが、大学とNIIが一緒に考えて、一緒に新しいサービスを機動的につくってゆこう! みんなを友だちに! もちろん、産学連携に企業の人たちも大歓迎です。そうすると、単独では解決できなかった問題を参加者の間で一緒に考え、その解決策を生み出したり、イノベーションが創発されたりします。要するに、SINETは、共考共創のプラットフォームでもあるわけです。

 従来の産学連携を大きく超えるコラボレーションの可能性がありますね。

 その通りです。Society5・0の根幹ともいえましょう。実際、ご承知かと思いますが、Society5・0のイラストを見ると、データが新しい未来を支える基盤になっており、ここがアメリカの当初のサイバーフィジカルシステムとの大きな違いで、日本の特徴でもあります。

 さて、最近、SINETは固定網だけではなく、「モバイルSINET」というサービスを開始しました。IoTにモバイルで接続するネットワークとして、スポーツ、農業、畜産、ヘルスケアなど、多種多様なデータの収集が可能となります。

 このモバイルSINETは、5Gになれば、理論上ありとあらゆるところから画像や映像などのデータも利活用できるようになります。その結果、AIの燃料であるデータはさらに増えていくわけです。そうなれば、画期的なソリューションやイノベーションがもっと生まれてくる確率が高まります。

 しかし、デジタル化が及んでいない分野もあることも認識すべきでしょう。

 本年1月下旬、日本学術会議で私が取りまとめている分科会で「AIによる法学へのアプローチ」というシンポジウムを開催したのですが、その場で法学者が指摘したことは、日本の裁判所では裁判に関する記録や情報はデジタル化されていないものが多いということでした。紙で保存されているものは写真を撮ることができず、手で写し書きをしなくてはならないという実態でした。

 アメリカでは、当然のことながらデジタル化されており、判例がAIの燃料となっているのに対し、そもそも日本では、最初の一歩も踏み出せない状況にあり、法学者もこの状況を何とか変えてほしいと訴えていました。おそらく、ほかにもこのような分野は多々残っていると類推されます。

 デジタル化は、AIのためだけではありません。ITの変革を長いスパンで見て、この流れがいかに大きな価値を生み出してきたかを理解し、その方向性を受け止めることが必須ではないかと感じる次第です。


  1. ●聞き手・構成・まとめ|岩崎卓也(ダイヤモンドクォータリー編集部)
  2. ●写真提供|国立情報学研究所 ●イラスト|磯 良一