それは、自分の中にある何かと、一真さんの言葉がビビッと共振したということですか。

 そうです。学生の頃から自分の中で大事にしていた言葉に「Change, Challenge, Create」という3つのフレーズがあります。
 人間の最大の特徴は創造性(Create)があることですが、その創造性は変化(Change)からスタートすると思っています。ただし自分も含めて、多くの人間は変わることが怖かったりする。恐怖心から、いままでと同じことを明日もやるほうが安心です。しかし、それでは明日は今日と何も変わらない。前に進むにはChangeが大事で、そのためにはChallengeが必要になります。そして、そのChallengeする〝もがき〟の中から、Createが生まれるのです。
 学生時代にそこまできちんと整理していたわけではありませんが、なんとなく「Change, Challenge, Create」の重要性をわかっていました。ちなみに私は高校・大学と柔道をやっていたのですが、小柄なほうだったので、自分より体格のよい相手にどうやって勝つかをいつも考えていました。技を仕掛ける時に柔道では「崩す」と言いますが、押したり引いたりしながら、相手の防御態勢を崩す(Change)わけです。そして、その試行錯誤(Challenge)から、技を決めるという創造(Create)が生まれる――柔道を通じて、そんな感覚を持っていました。
 ですから、一真さんが言った「適者生存の法則」がすぐに心に響きました。つまり、「変え、挑み、創造する」=「変化に対応できた者だけが生き残る」だと思ったのです。生意気ながら、まさに「この経営者に興味あり」でしたね。

 オムロン(当時は立石電機)に入られて、「チャレンジし、創造につながった体験」はありましたか。
 私が入社する前年の1967年の売上げは130億円程度でしたが、毎年20~30%という、ものすごい勢いで伸びていました。ですから、会社の成長と自分の成長のリンケージを取るだけで精一杯、という感じでした。
 アイデアはすぐに商品化され、とにかく売れる。創業者も新入社員も、全員が一心不乱で一生懸命でした。世の中が期待するものに応えようという挑戦と創造力が、会社を成長させる原動力だったのです。
 それを体感したエピソードはいくつもありますが、あくまでも断片にすぎません。ダイナミズムにあふれた会社で必死にもがいているうちに私も成長した、というのが偽らざる実感です。

「リーダーとしての自覚」や「経営のツボ」を実感できたのは、いつ頃ですか。
 43歳頃でしたか、温調機器の事業部長の時です。開発、生産、販売のすべての機能を持って、小さいながらも事業経営を託されていました。いまでは、3C(Customer, Competitor, Company:顧客、競争相手、自社)という言葉が当たり前になりましたが、当時も常に、QCD(Quality, Cost, Delivery:品質、コスト、納期)という生産管理の3要素で、競争相手と比較されました。
 そこでは自社製品のよさを主張するのですが、認められる場合も認められない場合もあるし、認められても、儲からないケースも儲かるケースもあります。つまり、メーカーと顧客が「価値」をめぐって綱引きをしているわけです。
 そして、その綱引きの中で、顧客による我々への評価は「粗利率」に表れるのだと気づきました。たとえ同じ製品であってもメーカーが違えば、粗利率が30%、50%と違いが出ることがあります。言わば粗利率は、顧客から我々に対する「評価のバロメーター」だといえるのです。
 ちなみに粗利から販管費やR&D費を差し引いた営業利益は、間に入る経費をどう使うかによってどうにでもなります。でも粗利そのものは、そう簡単に上げ下げの操作はできず、自分たちの実力が端的に表れるものです。では粗利率を上げるにはどうしたらいいか。それは次の2つしかありません。

 ①売価を上げる、もしくは原価を下げる。
 ②粗利率の低いものは売らない。

 ①は競合に勝る機能、性能、品質で売価を上げるか、それが難しければ、原価を下げる必要がある。大幅に下げるには生産の抜本的な見直しが必要になります。
 また、さまざまな製品がある中で平均の粗利率を上げるには、②のように粗利率の低い商売をできるだけ少なくする必要がある。
 事業部長になって経営の一部を任されたという変化点が、私に粗利率の重要性を教えてくれました。顧客の信頼と期待は粗利率に表れている、それを痛感したのです。