作田さんは創業一族ではないということで、ドラスティックな変革が難しかった側面はありましたか。
 それはいっさいないです。立石家からそういう束縛はまったくありませんでした。私は鈍い人間ですから、気づかなかっただけかもしれませんが(笑)。
 ちなみに立石家の次男で相談役であった信雄さんや三男で会長であった義雄さんに、いろんなアドバイスをもらいました。その時によく言われたのは、「作田なぁ、俺たちはお前に気を遣ってるんやぞ。ありがたく思えとまでは言わんけどな、気を遣っていることぐらいは知ってほしいんやけどなぁ(笑)」と。私は「あぁ、すんません」と答えていました。いつもそういう感じでしたので、創業家に対しての不満は何も思い浮かびません。

価値観のプラットフォームを
共有し、行動を変える

 作田さんがオムロンで成し遂げた仕事の2つ目は、2006年の「企業理念の改訂」です。社長に就任されて3年後のことでした。この時、作田さんは企業理念のことを「価値観のプラットフォーム」だと、うまい表現をされています。
 社長になって3年目が一つの契機でした。新人社長として、一通り仕事を覚えた時期です。そこであらためて、自分はこれから何をすべきかと考え、足下を見直しました。
 ちなみに当時の社員は3万6000人。その3分の2が外国人でした。この人たちのモチベーションを引き出し、次の成長につなげたいと思いました。そこで思い立ったのが、「企業理念の改訂」です。
 オムロンの企業理念(注1)の根幹を成す社憲は、創業者の思いや会社の歴史を表していましたが、日本人には理解できても、外国人には複雑で理解しにくい内容でした。社員だけでなく、株主も半数近くが外国人でしたし、売上げも6割がグローバルとなっていて、今後もそれらの比率が高まっていくのは見えていました。
注1)
オムロンの企業理念は現在、「社憲」(われわれの働きで、われわれの生活を向上し、よりより社会をつくりましょう)と、「3つの価値観」(①ソーシャルニーズの創造、②絶えざるチャレンジ、③人間性の尊重)で構成。「企業は社会の公器である」ことを、さらに具体化した内容となっている。

 そうなると問われてくるのは、「Who Is OMRON?」です。オムロンとはいったい何者なのか──その原点に立ち返って、外国人や若い人にも納得できるように表現を変えなければいけない、と思ったのです。
 そこで社憲の精神を踏襲しつつ、「企業は社会の公器である」という基本理念をシンプルな言葉で企業理念の中核に据え、社会と共生する企業であり続けることを宣言しました。日本人だけでなく、世界の誰もがわかる「価値観のプラットフォーム」が共有できれば、行動が変わる。それを企業理念の改訂で成し遂げたいと思ったのです。
 そして、「公器とは何か。何をしたらいいのか」と聞かれたら、私はこう答えました。「まずは、いますぐ動け」と。動くことはChangeの第一歩だからです。変化しようと動いた瞬間にChallengeが生まれ、そのもがきの中で人はCreateする。つまり、ここでも「Change, Challenge, Create」につながります。ですから、私は何よりも、その前提となる「行動」を重視しています。
 ちなみにオムロンには、私が社長時代の2008年から始まり、会長時代の2012年に正式スタートした「TOGA」(注2)という、企業理念を実践した社員を毎年1回、創業記念日に表彰する制度があります。これは、勇気を持って行動した社員やチームを評価するだけでなく、「Change, Challenge, Create」というプロセスを全社で共有する仕組みでもあります。強制参加ではありませんが、いまでは数万人もの社員が参加していると聞いています。
 頭だけではなく体で理解し、行動する。そういう学生っぽいことを平気でやるオムロンが、私は好きなのです(笑)。

注2)
The OMRON Global Awardの略。複数エントリーが可能で、2018年は、社員数3万6000人を超える6万2400人が6900テーマで参加。社員が現場で企業理念の実践にチャレンジしている。

 価値を実現する際には、「点→線→面→立体」が重要だとおっしゃっています。具体的に教えてください。
 オムロン時代だけでなく、どの会社にいても私が唱えているのは、価値実現における「点→線→面→立体」というプロセスです。
「点」は、存在はあっても面積はない。しかし、点と点をつなげば「線」になる。そして、線と線を結べば「面」になる。さらに、面と面を組み合わせれば「立体」になる。顧客から見れば、線は方向感を示すものとなり、面や立体になれば、目指す形がより明確になってくる。
 このように「点→線→面→立体」の順で価値実現のプロセスをとらえることで、自分たちも前へ進んでいけるわけです。
 日本の会社は点だけで勝負しがちですが、どんなによいものでも点だけを一生懸命つくっていてはダメ。「点→線→面→立体」へと、視点と発想をダイナミックに変えていく必要があると思います。

*つづき(後篇)はこちらです