同時に、「稼ぐ力」にも着目しました。花王という会社には、この稼ぐ力が本当に身についているかどうかを確認したかったのです。当時はまだ「ESG」という言葉自体がなかったと思いますが、社会にもっと関与し、地球と共生する企業にならなければならない、むしろそれが強みとなる時代がやってくると考えていました。ただ、そのためにはそれなりのコストがかかるし、それを先行投資と見なしても、回収するにはある程度の時間もかかる。会社が稼ぐ力を持っていなければ、数年で挫折してしまうのです。

 だからこそ、花王はいまその力を持っているのか、まだだとしたら持てる方向に導いていけるのか。こうした思いで打ち出した経営基盤構築の第1弾が、積極的な投資をベースにした「脱デフレ型成長モデル」でした。

 当時は世の中全体がデフレ・スタンスに留まっていましたし、それは花王グループも例外ではなく、設備投資も年に400億~500億円と抑制気味でした。私には「これからは積極的に投資をし、早期にリターンを得るという好循環の仕組みをつくらないと世界から取り残される」という強い危機感がありました。同時に、花王グループが持っている資産の最大化なくして、この好循環の仕組みはつくれないと考えていました。

 そこで、資産の最大活用をベースとして積極投資をどんどん行い、できるだけ早く回収し、また次の大きな投資に振り向ける。この脱デフレ型成長モデルを実現させれば、稼ぐ力は確実に高まる。さらには地球や社会のよりよい未来のために、花王が変化を先導できる企業となれる。それはつまり、我々の企業理念である「花王ウェイ」(注3)​を具現化することにつながる。そう考えたのです。

 実際、この脱デフレ型成長モデルを2016~2018年で着実に実践した結果、設備投資はどんどん増えて、現状では1000億円規模と、社長就任当初の約2倍になりました。それに伴う固定費増をカバーして、営業利益は2倍に増えたのです(営業利益率も2012年度の9・2%から2018年度は13・8%へ上昇)。

注3)「花王ウェイ」は、使命/ビジョン/基本となる価値観/行動原則で構成。「よきモノづくり」「絶えざる革新」「正道を歩む」という基本となる価値観を軸に、「豊かな生活文化の実現」という使命を目指している、創業以来の基本理念。

 第1弾の「脱デフレ型成長モデル」を実践した後、第2弾では何をされたのですか。
 脱デフレ型成長モデルの手応えは十分に得られました。ですがここで大事なことは、成長優先で無理をする会社に陥ってはいけないということです。我々の企業理念「花王ウェイ」のど真ん中には、「正道を歩む」という基本精神があります。ですから、インテグリティ(誠実さ)をけっして忘れてはならないのです。

 そこで次に行った施策が、「ガバナンス改革」でした。つまり取締役会の改革です。コンパクトな取締役会を目指して、2014年に取締役の人数を6人に絞りました。そうすれば大きな役員会議室も要りません。取締役同士の距離も摩擦熱が出るくらい近くなるので、コミュニケーションが活発化する――そう見込んで人数を一気に減らし、多様な人材を入れて、ガバナンスの組み立てを変えたのです。現在は社内4、社外4の計8人で取締役会を構成していますが、朝9時から15時頃まで、熱くディスカッションをしています。決議事項というより、将来に向けて我々はどうすべきかの議論が中心で、いつも時間が足りないほどです。

 こうして、第1弾の「脱デフレ型成長モデル」で稼ぐ力を身につけ、第2弾の「ガバナンス改革」で意思決定の仕組みを変えたことで、会社としてのインテグリティをきちんと担保できる体制が整いました。

 そして第3弾、経営基盤構築の最終段階といえるのが、今年宣言した「ESG経営」です。複雑性が増す社会と地球環境のサステナビリティをモノづくりで実現する――これがES(環境・社会)、それがきちんと実践できているかをウォッチする――これがG(ガバナンス)の役割です。