物事を突き詰め、本質をつかむ
技術イノベーション

 ESGについては、後でもう一度伺います。まずは技術イノベーションについて教えてください。澤田さんは「一般の人がイメージできるものはイノベーションとは呼ばない。生活者に驚きと気づき、感動を与えるものでなければならない」と指摘されています。バイオIOSやファインファイバー(注4)​以外にも、これから驚くようなイノベーションが次々と出てくるのですか。とすれば、それを可能にしているのは何ですか。

注4)ファインファイバーは、小型の専用器具にセットした特定のポリマー溶液をノズルから肌に噴射することで、超極細繊維が積層した滑らかな超極薄膜が肌に密着。優れた毛管力で化粧品などを保持しながら、汗や水蒸気を通す透湿性も保つ。化粧品や医療領域への応用も視野に入っている。

 はい、これから次々と出てきます。これは研究開発の努力の賜物です。ちなみに私が花王に入社した頃の社長は丸田芳郎さんで、丸田さんは本質研究を非常に大事にされた方でした。よく言われたのは、「化学を研究していても、見えることだけをやっていては駄目だ。見えない分子、原子の世界まで考えなさい」と。これはすなわち、見えている部分だけではなく、見えていない部分まで考えて研究や仕事をするということで、物事を深く突き詰めて本質をつかむことの大切さを教えられました。

 その後の歴代社長も、研究開発には特別の思い入れがあって大事にしてきました。私も2006年に研究を率いる立場(研究開発部門の副統括)になってからは、製品開発という出口ばかりを意識するのではなく、基礎研究にウエイトを置いて、皮膚の本質、髪の毛の本質、泡の本質といった具合に、物事を深く突き詰めることの重要性を訴え続けてきました。

 昨年(2018年)11月には、その成果を世の中に伝えようと技術イノベーション発表会を行いましたが、公にしたのはバイオIOS、ファインファイバーなど5つだけです。実はほかにも、イノベーションと呼べる画期的な技術は50近くあります。ただ、あくまで基礎研究の段階なので、これらを最後の出口まで持っていくにはもう少し時間がかかると思います。

 ちなみにバイオIOSは、我々が花王史上最高の液体洗剤と謳うアタックZEROという出口へとたどり着くまで、10年以上かかりました。またファインファイバーは、2006年頃から始めたので15年近くかかっています。これは、おむつや生理用品で使う不織布をつくる時の1本の糸をサブミクロン(1万分の1ミリ)単位の超極細にすれば何ができるか、というところから入りました。基礎研究はすぐには出口にたどり着かないけれど、進めていけばおぼろげながら姿が見え、技術レベルが上がるとともに、応用の可能性、つまり出口の幅が広がるのです。

 実は、去年の初め頃にハタと立ち止まり、思い至ったことがありました。それは「基礎技術がここまで高まってくれば、我々だけで出口を考えるのではなく、技術発表を行って、社外のいろいろな企業や大学、研究機関、そして生活者と一緒に出口を考えてもらったほうが、せっかくの技術が活きるのではないか」ということ。そこで技術段階で公表し、外部の方々に一緒に考えてもらうことを社内に提案し、それが昨年の技術イノベーション発表会につながったのです(図表1「花王が発表した5つの技術イノベーション」を参照)。