イノベーションが生まれる組織をつくるためにリーダーは何を重視し、どんな役割を果たせばいいのか──。「必要なのは、長い時間軸で将来を見通し、突然変異によって組織を飛躍的に進化させるDNAを組み込むこと」と熱く語るのは、デザイン思考のトップランナーである佐宗邦威氏と、デジタルテクノロジーの技術経営に長年携わってきた茶谷公之氏だ。時代が産業革命モデルから情報革命モデルへとシフトするいま、イノベーション欠乏症を乗り越えるべく日本のリーダーたちが果たすべき役割と、見つめ直すべき原点とは。

組織DNAの中に
あえて異常値を組み込む

MASAYUKI CHATANI
世界的なエレクトロニクス・エンタテインメント企業やEC・金融などを有する成長著しいインターネット企業において、ゲームプラットフォームのCTO/EVP、対話型エージェントをはじめとするAI技術担当の執行役員として、デジタル・AI・データ分野における技術経営の経験が豊富。2019年7月より、KPMG Ignition TokyoのCEOに就任し、クライアント企業のイノベーションとデジタル・トランスフォーメーション、AI化を支援する。

茶谷:佐宗さんは日頃から、「得体の知れない“妄想”こそ、イノベーションの原動力である」とおっしゃっていますね。妄想とは「みんなが理解できない、わけのわからないもの」と思われがちですが、実はある種の視力を持つ人にだけ見える明確なビジョンなのではないかと私は考えています。いまはまだそこに存在していなくても、その人にはきちんと見えている。でも周りの人はまだ見ることができない。そのギャップこそが、実現した時に大きなインパクトを生むのです。

佐宗:イノベーションとは、「常識をひっくり返してやろう」という、あまのじゃくな発想だけから生まれるものではありません。一人の妄想家が現状に違和感を抱き、目に見えていない新しい世の中を想像し、描く。そして、いままで当たり前だと思われていたことが実はそうでないと気づかせ、社会に浸透させていく。そうした長い時間軸の営みの結果を、イノベーションと呼ぶのだと思います。

茶谷:特殊な視力を持った人、つまり“ビジョンドリブン”な人は、突然「1+1=3かもしれない」などと言い出したりします。でも従来型の組織人は「1+1=2」が当たり前。常にロジカルに考える“戦略ドリブン”な人が主流です。

 また、日本の組織では何をやるにも説明責任が問われますし、PDCAで物事を回していくという改善志向が強いため、現状のレールから大きく外れることができません。よって、ビジョンドリブンな人間は次第に組織から淘汰され、妄想つまり常識を超えたビジョンが生まれにくいという現実があります。

KUNITAKE SASO
東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修了。プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品のマーケティングを担当。その後、ソニー クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラムの立ち上げなどに携わる。2015年、共創型戦略デザインファーム「BIOTOPE」を設立。商品/サービスのブランドデザインやコンセプトデザインなどを得意とし、さまざまな企業・組織のイノベーション支援を行っている。最新刊『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』(日経BP社、2019年)ほか、著書多数。

佐宗:日本はまだまだ村社会的な組織が多く、何をやるにも全員の合意形成が必要になりがちです。合意形成コストが非常に高いからこそ、「新しいことはやらない」という選択が合理的とされてきました。これを覆すには、戦略や日常のオペレーションを見直すだけではなく、もっと上層レベルでの抜本的なルール変更が必要となります。つまり、リーダーみずからが「レールの外に出よう」というメッセージを打ち出す必要があるのです。

茶谷:またイノベーティブな組織は、必ずそのDNAの中に“異常値”を抱えています。同質なものだけからは、けっしてイノベーションは生まれません。組織の中にあえて異常値を組み込ませる。妄想力のある人間を意識的に組織に投入していくことも重要です。

 そのためにもリーダーは、日頃からメンバー個々の能力に目を配っておく必要があります。いまや職制や年齢だけで能力を判断することはできません。たとえば、あるデジタルトピックについて一番詳しいのは、今年入社したばかりの新人かもしれない。たとえ一見突飛に見えるアイデアだとしても、その声にしっかり耳を傾け、正しいと思ったら、それをきちんとすくい上げていく。そうしたリーダーが求められているのです。