スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した「DX」(Digital Transformation)はいまや現実のものとなり、最先端のデジタルテクノロジーを取り入れた新たなビジネスモデルが数多く生み出されている。なかでも、ビッグデータ時代のコアテクノロジーであるAIとブロックチェーンが組み合わされることでビジネスも生活も大きく変貌するとされ、監査もその例外ではない。経営管理の高度化を実現するAIと、立場や業態の垣根を超えた多様な連携を可能にするブロックチェーンの融合が、監査と経営に革新を起こす。

AIが駆動する
監査イノベーション

編集部(以下青文字):「AI監査」が監査を激変させるといわれています。従来とは何が違うのか、ポイントをお聞かせください。

KENTARO MARUTA
1996年、センチュリー監査法人入所後、幅広い業種のグローバル企業および政府関係機関の監査業務、アドバイザリー業務に従事。2003年から3年間の米国KPMGコロンバス事務所赴任中には、米国SOX法適用初年度の米国上場企業の監査業務を含むエンゲージマネジメント、コーディネーション業務に携わる。2019年よりDigital Innovation部の部長に就任し、AI、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などのテクノロジーを用いた監査のデジタル・トランスフォーメーションを推進するとともに、KPMGジャパンのデジタル化に取り組んでいる。

丸田:変わることと、変わらないことがあります。変わるのは、全取引を対象とする網羅的監査がAI活用によって実現される点です。従来のサンプリングによる試査では、「木を見て森を見ない」状況がしばしば生じていました。相次いだ会計不正はその表れで、その意味で監査は社会の要請に十分に応えてきたとはいえません。一方、網羅的監査の場合、技術的には巨大企業グループの全取引をリアルタイムでチェックすることも可能で、言わば「木を見て森も見る」監査が実現します。

菅谷:その結果、不正の兆候がいち早く発見できるようになります。期末監査のタイミングを待たずに企業と監査人が情報を共有し、事態の深刻化を回避できるのは、企業にとっても大きなメリットになるはずです。

丸田:これまでの監査は一人ひとりの会計士の判断を積み上げたボトムアップ型だったため、人為的なミスや監査品質のバラツキを完全になくすことは不可能でしたが、AI監査は定型化と自動化によってこの問題を解消します。ただ、最終的な判断を下すのはあくまで会計士で、この点はAI監査でも変わりません。裏返せば、会計士にはこれまで以上に広い視野と深い洞察が求められます。

 AI監査が最も威力を発揮するとされるのが不正検知です。具体的にはどのようなことができるのでしょうか。

丸田:不正発覚後に振り返れば、必ず何らかの兆候が認められます。つまり、過去の不正事案を統計的手法で分析して機械学習すれば、検知のみならず予知までもが可能になります。 

 あずさ監査法人が開発した不正リスク検知モデルは、上場企業の過去15年間の財務・非財務データと、不正の有無をもとに不正発生リスクをスコア化したもので、発生リスクを数値で表すほか、全企業や同業他社との相対的な比較も行うことで、実際の不正検知と予防に活用しやすいようになっています。たとえばグループ会社のデータを分析することで、財務的重要性が低い子会社やノンコア事業の局地的な不正も、いち早く発見できます。