ブルーオーシャン戦略も、既存の戦略論と大きく違うわけではなく、他の戦略論との関係の中で理解すべきではないでしょうか。

 既存の評価軸の中で優劣を競うのではなく、既存の評価軸とは別の新たな評価軸を設定し、その軸で勝負していくという分析手法を示したのがブルーオーシャン戦略です。そう見れば、クレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」と非常に類似の議論であり、それとの関連性の中で体系的に理解していくほうがよいとわかるはずです。

 既存の評価軸では先行技術よりもスコアが低い後発技術は、当初は取るに足らないものと扱われるけれども、時とともに後発技術のスコアでも十分満足できる水準に到達すると、これまでの評価軸とは異なる側面で後発技術が優れている点が評価されるようになり、先行技術と後発技術の逆転が起こる、というのがクリステンセンの主張ですから。

 戦略論は、重複したり、補完し合ったりしているわけですね。

 ポーターといえば、経営戦略論におけるポジショニングビューを代表する戦略論研究者です。ポジショニングビューは、経営環境における機会と脅威という観点から、市場におけるポジショニングが戦略の核心であると考える思考法です。

 その対極にあるのが「リソースベーストビュー」で、こちらは自社の強みと弱み(経営資源)を中心に経営戦略を考える思考法です。これら2つは水と油のように思えるかもしれませんが、実はそうでもないのです。

 たとえば、ポーターが1996年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に発表した“What Is Strategy?”(邦訳「戦略の本質」)という論文では、ターゲット市場へのポジショニングに組織プロセスが含意されていることを示唆する例が出てきます。

 その具体例として紹介したのが、大富豪を対象にしたベッセマー・トラスト・カンパニーとシティバンクのプライベートバンク部門の比較です。前者は1人の社員が14人の富豪を担当し、相手のヨットや牧場といった場所で資産運用の相談に応じるというスタイルであるのに対し、後者は25万ドル以上の資産を保有している中産階級を対象として、社員1人当たり125人の顧客を相手に、自社オフィスまで足を運んでもらってサービスを提供していました。

 同じプライベートバンクでも、超富裕層を相手にするのか、多少経済的余裕のある層を相手にするのかで、仕事のやり方はもとより、要求される知識やスキルもまったく異なるのは、容易に想像がつくでしょう。つまり、ポジショニングによって人材や組織プロセスなどが異なるように発達し、簡単にポジションを変更することはできないのです。

 ポーターが説くポジショニングビューでは、何より自分たちの市場ポジションが大切で、同じポジションにいる企業とはライバル関係にあるというのが当初の議論の特徴でした。しかしその後、市場の選択とその市場に対応するための活動も視野に入れた戦略論を考えるようになったのです。つまり、ポジショニングビューとリソースベーストビューが全面的に相対立するというのは言いすぎで、同じ経営現象をどちらの側面から観察するかという、程度の問題なのです。

 このことを踏まえて、先の問題についていま一度考えてみると、コストダウンを徹底的に追求する組織と、もっぱら付加価値の向上に取り組む組織とでは、業務プロセス、要求される知識や能力、経営資源がまったく異なりますから、必然的に両立は難しいということになる。

 これに対して、ブルーオーシャン戦略のように、「いや違う、同時追求は可能である」という反論が出されたわけですが、「ある程度の同時追求」ならば可能かもしれない、というくらいにしか主張できないと思います。