では、カテゴリー適用法についてお願いします。

 一般的に「半導体チップは儲かるけれど、PCは儲からない」といわれています。そこで、たとえば「インテルやサムスンの収益性は高いが、PCメーカーのそれが低いのはなぜか」と問われて、「半導体チップはデバイスだから利益率が高いけれど、PCは組み立てなので利益率が低い」と答える人がいます。いわゆる「スマイルカーブ」の理論は、このような主張になります。

 要するに、「デバイス」(=利益率が高い)というカテゴリーにインテルやサムスンを分類し、「組み立て」(=利益率が低い)というカテゴリーにPCメーカーを分類して、それぞれが儲かる、儲からないの理由を説明しているわけです。これがカテゴリー適用法です。

 たしかにデバイス事業と組み立て事業を比較すれば、前者の利益率が高いかもしれないですが、例外も少なくありません。事実、利益率の低いデバイス事業はけっこうあるのです。ですが、カテゴリー適用法による説明は、シンプルでわかりやすく、必ずしも常に間違っているわけでもないので、日常的に多用されています。

 しかし、カテゴリー適用法に頼ってしまうと、「自分の頭でしっかり考える」という大切な仕事を放棄し、社会通念や常識、みずからの成功体験などに執着したり、流行りの経営手法や単なる思い付きに流されてしまったりしかねません。何らかのカテゴリーを持ち出すとは、固定観念や他人の貼ったラベルを鵜呑みにすることであり、言わば「考えたつもり」のようなものです。

 ただし、カテゴリー適用法にもよい点があって、たとえば「そもそもの原因は何だろうか」と考える時、「これはあれに似ている」とか「これはあの仲間ではないか」と発想することで原因に思い当たることが少なからずあります。また、コミュニケーションの方法としても優れており、大勢に向けてメッセージを伝える際には便利です。つまるところ、カテゴリー適用法は、思考を始める出発点として有用であっても、そこで終わりにしてはいけないアプローチなのです。

 続いて要因列挙法ですが、文字通りですから詳しい説明は不要でしょう。実は、日本の有名企業のエリートたちと話していると、一番多く登場するのがこの思考法です。さまざまな要因をもれなくカバーし、個々の要因について、たとえば競合他社と緻密に比較検討する作業を日常的にやっているからでしょう。
 このように複数の要因を洗い出し、列挙することで、「単純な思考ではない。広く、まんべんなく考えたのだ」という安心感も得られます。とりわけ伝統的で育ちのいい企業で働いている人たちほど、「多数の要因をチェックした」ことを重要視しがちです。

 しかし、単に要因を並べているだけでは、「重要さの違い」のみならず、「時間的な順序関係」や「要因間の因果関係」がなおざりにされてしまいます。つまり、要因列挙法では、要因と結果の間、要因と要因の間の相関性を読み解いていないばかりか、行為者たちの相互作用が時の経過とともに、どのように展開されていくのか、という背後のメカニズムを理解するまでには至らないのです。

 チェックボックス症候群(シンドローム)に警鐘が鳴らされたことがありますが、いま指摘されたのと同じような理由でした。

 その通りです。多様な要因についてチェックリストをつくって、それを一点ずつ確認するのはまさに要因列挙法の典型です。それもまた、思考の出発点であって、到達点ではありません。チェックボックスを使うだけでは、あの会社の競争優位はどのようなメカニズムによって成り立っているのか、その経営はどのようなメカニズムになっているのか、その秘密を理解することができません。

 そこで必要になるのが、メカニズム解明法です。経営戦略論の領域では、「時間展開」「相互作用」「ダイナミクス」(力学)を読み解く必要性が以前から主張されているのですが、このメカニズム解明法こそ、そのための思考法なのです。

*つづき(後編)はこちらです