シナジーという言葉もよく使われますが、そのメカニズムを理解して使われていることは少ないのではないでしょうか。

 そうですね。なぜシナジーが生じるのか、なぜ1+1が3にも4にもなるのか、そのメカニズムに関する理解を欠いたまま、言葉だけが普及していった例の一つです。ですから、シナジーは自動的に実現するわけではなく、そのためには大きな労力とコストを要すること、シナジーは組織の変質によって簡単に消失するおそれがあるといった問題などについて、十分意識されているとは言いがたい。実際、シナジーの実現に必要なコストを意識した議論は非常に稀です。

 多角化している企業では事業部制が一般的ですが、事業部の壁を超えて、部品やプロセスなどの共通化を図ったり、共同プロジェクトを実施したりするのは言うほどに簡単ではありません。そのためには、「自分たちの事業部の利益を一部諦めて全社の利益を優先する態度」や「異質な知識を融合できるまで相互理解を高める濃密な人間的相互作用」が求められます。

 とはいえ、この2つを発生させるには、カギとなる当事者たちが自然に互いに知り合いになっていること、すなわちコア人材の社内ネットワークが形成・維持されていること、また組織が重すぎず、コア人材たちの相互作用を阻害しないこと、という2つの条件が不可欠です。

 当初はうまくいっても、やがて組織規模が大きくなっても、一人ひとりの社員が持つ社内ネットワークの規模は大きくなりません。顔と名前の一致するコア人材のネットワークはそれほど大きくはならず、「知らない人」たちが相互に調整しないとならないようになり、組織は重くなっていきます。

 「シナジーなど追求せず、自分たちだけでできることをスピーディに取り組んだほうがよい」と現場が思うほど、社内の根回しが大変になれば、本社スタッフが現場に押し付けてくるシナジー効果なるものは、足かせでしかありません。

 メカニズム解明法で徹底的に考え抜くことを心がけていけば、間違いのない経営が可能になるのでしょうか。

 もちろん、メカニズム解明法は大切です。しかしある意味、これは基礎体力のようなものです。

 経営は時とともに変わっていきます。単に手法が変わるだけではなく、ビジネスの構造をどうつくるかという基本姿勢そのものも大いに変わるものです。ですから、常に最先端の経営の変化を学び続け、その学習結果から自分の事業をとらえ直していかないとなりません。

 たとえば、その典型例はプラットフォーマーでしょう。GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)やFANG(フェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグル)、BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)など、最近のプラットフォーマーに関する情報が豊富に出回っています。

 これらの企業が一番大きなプラットフォームを押さえてしまったので、日本は大きく出遅れて負けてしまった、と嘆く声をしばしば耳にします。いまさらこれらの企業に学んでもどうせ追い付けないのだから、彼らの真似など無意味だと言う人もいます。

 しかし、もう少し考えてみると、世の中でこれほどプラットフォーマーが注目されていれば、多くのビジネスパーソンが自分の事業もプラットフォーマーとしてとらえ直し始める可能性があることに気をつけないといけません。

 つまり、いままでは、ものづくりに努力して他社に真似できない性能で差別化すれば、利益が出せるといった単純な戦略思考だった人たちが、「待てよ、もしかすると、単なるものづくりだととらえてきたけれども、自分たちのつくっているモノを基盤として、プラットフォームがつくれるのではないか」と発想するということです。

 実際、これまでは単なるモノであり、デバイスであり、セットであったものが、いつの間にかプラットフォームとしてとらえられ、自分たちの市場ポジションが劣位に置かれてしまう、ということが起こっています。

 ですから、常に新しいビジネスの構築のやり方を学び、自分でも応用し、少なくとも他社に劣後しないように、たえず発想を新たにする必要があります。そのためには、常に新しい経営を学び、新しい知識を吸収し、それらをメカニズム解明法で思考する際に活用すべきです。

 知識経済といわれて久しいですが、これからの時代は、「社内で一番勉強しているのは経営者である」という企業が強くなっていくのではないでしょうか。【完】


  1. ●聞き手|岩崎卓也(ダイヤモンドクォータリー編集部)  ●構成・まとめ|荻野進介、岩崎卓也 
    ●撮影|朝倉祐三子
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