新中計では、国内7つの製油所は統廃合せずにリニアプログラミングで全体最適を図るということですが、既存事業の強靱化にどうつながりますか。

 いま日本国内には、製油所が22カ所あります。当社グループの7カ所はいずれも付加価値が高く、いろいろな調査データでも上位にランクされる競争力のある製油所です。何が一番の付加価値なのかといえば、それは海外製油所に比肩できる分解能力(重質油を分解して軽質油に変える力)の高さです。今回の経営統合によって、重油留分の交換や特色ある装置をさらに活用することができます。ですから、今中計期間は製油所の統廃合を急ぐ必要はないと考えています。

 もちろん、未来永劫そうではありません。需要動向を踏まえ、次の中計期間では、この7カ所をいかに活かすかを見極める必要が出てくると思いますが、足元では競争力を強化するためにできることがまだまだあると見ています。

 さらに環太平洋・アジアでの石油需要は、人口と所得の増加により、まだ伸びていきます。先ほどの『虹』シナリオでは、2030年にピークを迎えますが、それまではこのエリアへの輸出も十分考えられるわけです。

 海外展開においては、日本企業初の大規模製油所としてベトナム・ニソン製油所を5年がかりで建設(資本は中東・ベトナム企業などと合弁)し、2018年11月に商業運転を開始しましたが、課題は残っているようですね。海外、しかも大規模なだけに苦労があるということですか。

 正直申し上げて、いま生みの苦しみを味わっております。ベトナムに本格的な製油所をつくったことは、今後相当伸びることが予想される同国の石油需要に応えるという意味でも、非常に意義のあるプロジェクトだと思っています。商業運転の初年度ですから、設備上のトラブルも含めて、ある程度の不具合は想定していました。現地で操業を担っているベトナム人1200人の育成を含めて、もう少し時間が必要だと感じています。

 また、昨年はシンガポールのガソリン市況が年初から歴史的な低水準となったほか、期の後半からは石油化学のベンゼンやパラキシレンといった誘導品の市況も落ち込んだことも、ニソン製油所の収益の足を引っぱりました。こうしたマーケット要因は別としても、我々の手の内にある設備上のトラブルはなくさねばなりません。同年11月には、初めてのシャットダウンメンテナンスで製油所の運転を止めて徹底的に補修し、フル再稼働に向けた準備を完了しました。

 出光は100年以上前から中国など海外展開を行い、支店売上高総額の83%が海外という時期(1938年度)もあり、元来、海外展開に積極的でした。これから、そのDNAはどのような形で表に出てくるのでしょうか。

 新設したベトナム・ニソン製油所もそうですが、石油業界における海外展開としては、当社は先行していると思います。潤滑油の海外展開においても、日本の自動車メーカーが海外生産や販売を増やしていく中で、ブレンド工場を現地につくって安定した高品質の潤滑油を提供するということは早い時期からやっていました。また、シンガポールや北米、豪州など環太平洋エリアでの燃料油事業は、かなりの規模になってきています。

 新事業創出という面でも出光は、創業時の漁船用燃料油の直売や、南満州鉄道の凍らない潤滑油など、石油製品の開発やユーザー直結の取り組みに最初から熱心でした。現在でも、世界有数の特許を持つ有機EL材料や、高度な耐熱・耐薬品性能でEVの車載用電子部品の材料として注目を浴びているSPS(シンジオタクチック・ポリスチレン)など、世界で出光だけが生産するオンリーワン製品を擁し、オリジナルな高機能材事業という可能性を秘めています。出光のコア技術は、石油化学で培った「分子設計技術」といえるでしょうか。

 その通りです。いまやっている研究分野から派生した技術は、ほとんどが石油化学に由来するものです。たとえば高画質ディスプレイなどの有機EL材料は、有機合成の技術から派生したものです。こうした石油化学から生まれた有機技術は、微生物を応用したアグリバイオ事業にも展開しています。またSPSという高機能材は、強靱でありながら、軽量・耐熱で電波も通すといった金属にない特徴を持った樹脂であるため、EVも含めた車の軽量化や電子部品用途と、市場拡大の可能性が広がっています。今後マレーシアに、千葉工場に続く大規模なSPSの第2工場も新設予定です。

 創業者の出光佐三は、「たまたまいまは石油という商材を扱っているだけ」だとして、「我々(の真の目的)は人の力を通じて、真に働く姿を顕現し、国家社会に示唆を与える」と述べています。ただし、示唆を与えると言うとちょっと偉そうに聞こえる気がするので、私は「人の力を通じて社会に貢献する」と言い換えています。「人は、無限のエネルギー。」という当社のスローガンの通り、人の力を信じて活かすことが我々の原動力であり、コアコンピタンスなのです。

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