ビジョン以上に大切な
実践する力

 そのお話があった後ではちょっと聞きにくいのですが、木藤さんが出光佐三さんの経営から一番学ばれたことは何ですか。

 直接お目にかかったことはないのですが、彼は思想家ではなく実業家だと私は理解しています。事業をやっていく中で困難にぶつかったり逆境に遭ったとしても、彼は現実に真っ正面から向き合い、知恵と行動力で難局を乗り越えてきました。その実践力が、私はすごいと思っています。初めに実践があって、後からその意味を言葉や理念にしている。やっている最中は実践に集中しているのです。

 これはつまり、どんなに素晴らしいビジョンがあったとしても、実践しなければ意味がないということ。いくら念仏を唱えても、行動しなければ難局を乗り越えることはできません。だから私も、そこにこだわっていきたいと思います。

 また、今回の経営統合のパートナーである昭和シェルから学ばれたことはありますか。

 それはやはり、極めて効率的な経営です。効率よく事業を運用し、ライトアセットを維持している。また、目標必達という社内風土も見習うべき点です。環境が変わったから仕方がないといった妥協がなく、立てた計画は必達する。それが人事評価につながるようになっており、出光にはなかった強みだと思っています。

 もう一点、学んだことというより印象的な点として、社員のレベルの高さが挙げられます。外資系ということで英語力はもちろんのこと、世界のメジャーカンパニーの日本法人へ入ろうと志してきた人たちですから、モチベーションも非常に高い。

 ただし、これまでは外資系といっても日本国内が主戦場だったため、社員が海外赴任する機会はほとんどありませんでした。厚木にある研究所の研究員も非常にレベルが高いのですが、これまでは研究の出口となる事業がソーラーと潤滑油に限られていました。今回の経営統合により、活躍の場が一挙に広がります。先日、研究発表会を合同でやったのですが、コラボレーションの可能性をいくつも見出すことができましたし、昭和シェルの社員たちと世界を見据えてともに働くことができるのは、大変心強いです。

 ちなみに私は、1+1=2となる経営統合ではダメだと思っています。シナジー効果で答えが3になり、さらなる化学反応によって5にもなる。それこそが真の融合であり、互いが持つリソースを最大限に活かしながら、ベストプラクティスを目指していきます。

 最後の質問です。先般のCOP25では日本を見る世界の目は厳しいものがありましたが、日本が温暖化対策の先進国としてリスペクトされる日が来ると思われますか。

 欧米の投資家とミーティングをすると、「いつまで石炭事業を続けるのか」「いま売却して、次の事業を始めれば株価も上がるのではないか」と言われたりします。たしかに石炭事業の売却も戦略の一つかもしれません。しかしそれが、はたして世界の人々の幸せにつながるのでしょうか。私は違うと考えています。

 世界にはまだ電気のない生活をしている人も多くいます。発展途上の国はエネルギーにかけるコストにも限界があります。必要とされるエネルギーを安定的に届けるという使命を果たし続けるためには、新しいポートフォリオへ簡単に乗り換えるわけにはいきません。時間がかかりすぎると言われるかもしれませんが、我々はエネルギーの安定供給とCO2の高度なコントロールや代替エネルギーの開発、それらを両立させながら新しい事業の芽を探索し、着実に根付かせていきます。そのために、外部のさまざまな仲間たちとともに未来の事業を創り出す。それが我々の新たなミッションです。

 そして何より、それを支えるのはやはり「人の力」だといえます。人がレジリエントであれば、企業もレジリエントになり、サステナブルになることができる。「人は、無限のエネルギー。」なのですから。【完】


  1. ●聞き手|森 健二  ●構成・まとめ|森 健二、宮田 和美(ダイヤモンドクォータリー編集部) 
  2. ●撮影|住友一俊