競争力の向上において
標準化は必要条件にすぎない

 欧米が目指している無人の工場にはできないこと、言い方を変えれば、人が介在することによってできることとは、たとえばどういうことがあるのでしょうか。

 非常にアナログ的な話になってしまうのですが、リズム感って、すごく大事なんです。

 リズム感ですか。

 どんな行動にもリズム感ってあると思うんです。卑近な例ですが、ゴルフでもリズム感が悪くなると、とたんにボールが変な方向に飛んでいってしまうじゃないですか。特に繊細な結果が求められる場合、リズム感を維持するということがとても重要になってきます。

 機械も人と似ていて、どんなに完璧な生産ラインをつくっても、毎日、見えないところでいろいろなことが変動するし、必ず不具合が生じます。大量生産や多品種少量などが増えれば増えるほど、さまざまな段取りが必要となり、その結果、生産のプロセスが変わりますから、その際にごく小さな変化が生じます。一定の状況を維持するためには、その微妙な変化を修正し続けなければなりません。

 リズム感のズレを把握するのにセンサーをつけて「見える化」することは有効ですが、やみくもにセンサーをつけて取得データを増やしても仕方がありません。「どこにセンサーをつけるべきか」と同時に、それらのデータと生産現場の現象を見て、「どう改善するか」を同時に考えられる経験を積んだ人の勘やコツといった感性が重要なんです。

 リズム感って、現場の技能者たちはわかるんですか。

 わかります。リズムが悪いと、やっぱり流れが悪くて、無駄が多いんです。こうしたことを改善するために「標準化」という言葉があるわけです。多品種あるとつくりにくい製品や部品は標準化しよう、あるいは、生産設備もさまざまな専用機ではなく画一的に標準モジュール化しましょうと。最近ではIoTの導入に伴って、あらためて標準化の重要性が語られたりしています。

 もちろん、標準化がモノづくりにおいて大事であることは否定しません。しかし、生産設備などをモジュール化したり、作業標準化を徹底的に行った生産ラインが本当に競争力があるのか、魅力があるのかというと、私はそうは思いません。標準化は必要条件ではあるものの、けっして十分条件ではないのです。ここを勘違いすると、おそらく面白くないラインになるでしょうね。人が知恵を絞り出し、切磋琢磨し、その成果に達成感や喜びを感じることで、さらに上を目指す。その結果としてモノづくりの力が上がっていく。当社はこういう工場を目指したいと思っています。

 AIが技術の進化によって、いずれ人の勘やコツを上回るとは思いませんか。

 AIがどんなに進化しても、研ぎ澄まされた訓練を受けた人間には勝てないと断言できます。そもそもAIは、人間にはできない計算処理や複雑な事象などから一定の傾向を導くことなどはできますが、新たな改善策を着想することは困難です。人は改善しながら、次なる改善を考え準備し行動することができます。先ほどお伝えしたように、競争力向上には、完成度100の工場を、日々の改善でさらに110、120へと高めていかねばなりません。最高のリズム感を創り出すのはAIではなく人だと思っています。

*つづき(第3回)はこちらです


●聞き手|松本裕樹(ダイヤモンドクォータリー編集部)●構成・まとめ|松本裕樹 ●撮影|中川道夫