「至誠にして動かざる者は、
 未だこれ有らざるなり」

 謙虚であることを心掛けておられるそうですが、そのような心境になったのは何かきっかけがあったのですか。

 謙虚でありたいと思うのは、たとえば業界再編で機能を発揮したいとか、経営人材を育成したいと言っていますが、それだけをとらえると、まったく謙虚ではないと思うからです。リーダーシップを執るということは、期せずして不遜なこと、偉そうなことを考えているともいえるわけです。

「事業経営」に関する部分だけ聞くと、どうしても誤解が生じます。覇権主義だとか、三菱商事だけがよくなればいいと考えていると受け取られかねないので、みずから戒めることが大事です。経営するということは、最終的にはみんながついてきてくれるかどうかです。謙虚であることは私だけでなく、会社としても必要だと考えています。

 孟子の「至誠にして動かざる者は、未だこれ有らざるなり」を座右の銘にされているとお聞きしましたが、この言葉は吉田松陰も好んで使ったようですね。至誠は個人としても、組織人としても求められていることですね。

 上司との関係、取引先との関係、友人や家族との関係でも同じですが、誠意を尽くしてお話ししても、理解してもらえないことは多々あるものです。だからといって、諦めてしまっては何にもなりません。その場は、いったんは引き下がりますが、繰り返し説明し、真意や心を伝える誠意が大切なのです。ノーと言われて諦めてしまえば、何事も進みません。正しいと信じ、よかれと思っているなら、何度でも話をすることで、相手を動かせるのではないでしょうか。

 休日はどのように過ごされているのですか。

 社長就任初年度ということもあり、実はあまり時間がありませんが、時間がある時には、健康のためにもよいので散歩をします。

 人生やビジネスは思い通りにならないものですが、逆境に直面した時のアドバイスをいただけないでしょうか。

 平たく言えば、苦労を楽しむ発想でしょうか。つらく厳しい環境を楽しもうと、ちょっとした気持ちの切り替えが大切です。苦しいことを苦しいと思わず、それを乗り越える喜びを優先すると、景色が変わってきます。

 2017年の世界経済、景気がどうなるのか、見通しをお聞かせください。

 短期的には、アメリカの経済も日本の景気も結構よいと見ています。トランプ大統領の政策を見届けなければいけませんが、大型減税や規制緩和を実施し、インフラ投資を中心に財政支出も行い、エネルギー生産を拡大する大胆な政策が実行されると、アメリカ経済にとって好影響をもたらすと思います。

 安全保障などの問題はありますが、日本も、アメリカの好景気に引っ張られて、同じような経済効果を生み出すと見ています。問題は、一本調子ではいかず、いつ潮目が変わるかという点です。これは神様が与えてくれたしばしの経済的安寧と考えています。根本的な構造は変わっていませんので、この間に、構造改革すべきところをきちんとして、次の苦難に備えなければいけません。

 中期経営戦略では初年度2016年度の純利益目標を2500億円とし、最終年度2018年度は3000億円と予想されています。高い目標とは思えませんね。すでに2016年11月の中間決算発表時に、初年度の純利益予想を3300億円に上方修正しました。中期経営戦略の目標数字には資源部門の純利益がほとんど加味されておらず、三菱商事はもっと大きな利益を出せるのではないですか。

 資源価格の上昇に浮かれていてはいけません。生産性の向上やコスト削減などの自助努力を重ね、資源価格に左右されない体制を構築するとともに、非資源分野に経営資源を投入して、安定した収益源を確保したい。ボラティリティの高い分野での利益を堅く見積もり、資源価格が少しでも上向いてプラスになればいいというスタンスで、中期経営戦略の着実な実行が最優先課題です。結果はおのずとついてくると考えています。【完】


●聞き手|前原利行、松本裕樹(ダイヤモンドクォータリー編集部)
●構成・まとめ|前原利行 ●撮影|中川道夫