どういう点が違うんですか。

 挑戦している人材を称賛して社員個々人のモチベーション向上を図るだけではなく、そこで表彰されたナレッジを全社的に汎用、啓発可能なレベルに昇華する仕組みがあり、それを徹底的に実践している点です。仕組みには2つ大きな特徴があります。

 1つ目は選考のプロセスです。各事業会社で予備選を行った後、各事業会社の役員クラスが集まり、予備選を勝ち上がってきたものをすべて熟読し、明確に定められた評価基準に基づいて一日かけて徹底的に話し合い、各審査員がジャッジします。

 2つ目は選考された後のプロセスです。選出されたチームは当日までの間、予選会で行ったプレゼンをさらにブラッシュアップしていきます。プレゼンする内容だけではなく、プレゼンでの立ち居振る舞いも含めて徹底的に磨き上げていくんです。

 そして東京国際フォーラムなどの大会場で数千人の社員たちを前に、まるで(アメリカの有名なプレゼンテーションイベントである)TEDトークのような素晴らしいプレゼンをします。これは受賞者たちの自信を高めるだけでなく、他の社員のナレッジ共有への意識を高めることにもつながります。

 いままでバランスシートに載らない“資産”について伺ってきましたが、一方で“負債”についてはどうお考えでしょうか。かつてのリクルート事件、バブル崩壊による約1兆4000億円の有利子負債という文字通りの“負債”、そして1992年のダイエー傘下入りした後、有利子負債を完済するために資産売却や事業のスリム化などを行ってきました。これらの経験はいまのリクルートを築き上げるうえで何らかの影響をもたらしたと思いますか。

 正直に言えば影響はあったと思います。そもそも企業の経営戦略や事業方針といったものは、PCに例えるとアプリケーションのようなものだと考えています。ではOS(基本ソフト)は何かと言えば、企業文化がそれに当たるわけです。アプリケーションはニーズに対応するために常に変化し続ける必要がある一方、OSはそれ自体を変えるわけにはいきません。

 したがって、OSが弱ければ、アプリを入れ替えても会社を成長させることは難しいし、逆に強いOSを持った企業は、歴史を積み重ねて厚みを増していけばいくほど、他社による模倣困難性が高まり、競争優位性が高まるのだと思います。当社のOS、つまり企業文化は、創業時からの人材に対する考え方、リクルート事件、(ダイエーという)他社に資本参加いただいたこと、という3つの事柄を背景に、より強く醸成された部分があるのだと思っています。

 もしもリクルート事件が起きていなかったら、いまのような成長はなかったということでしょうか。

 歴史に「もし」はありませんから何とも言えません。しかし、厳しい状況に直面したことで、危機感と圧倒的な当事者意識が高まり、もともと「社員個々人がやりたいようにやらせる」という当社で育った社員たちの気持ちに火がついた。そして、長年で積み重ねてきた企業文化をさらに確固たるものにしたとは思います。