オープン・グローバル・イノベーションですね。では、イノベーションをどう実現していくか。それには、アポロ計画のような組織的な革新に代表される「中心で起こすイノベーション」と、ソニーの「ウォークマン」や「プレイステーション」のように個人のクリエイティビティが発揮される「周縁で起きるイノベーション」の2つがあると思います。三菱電機はどう取り組んでいるのでしょう。

 イノベーションという言葉には、いろいろな定義があると思います。近年の当社のイノベーションは上海中心大厦(シャンハイタワー)(上海市の地上119階の中国最高層ビル)に納めたエレベーターでしょう。単デッキとダブルデッキでそれぞれ世界最高速、加えて世界最長昇降行程距離を実現したことで、2016年12月にギネス記録の認定書を3つもらいました。1件で3つも世界記録を達成したのは、希有の例ということでした。

 「強い事業をより強く」というのは、それぞれの強い事業でイノベーションを起こしていくことで、ご質問にあった2つの例で言えば、「中心で起こすイノベーション」になるでしょう。たとえば、2016年に発明協会会長賞を受賞した発電機は、世界最大級の発電容量とコンパクト化を両立させた画期的製品です。発電機は枯れた技術といわれていますが、これはコツコツと開発努力を重ねて生み出された非常にシンプルなタービン発電機で、当社らしいイノベーションです。

 当社の「事業のシナジー」は、ソニーの「ウォークマン」のような周縁で起きる個人の創意型と違って、「組み合わせのイノベーション」です。エレベーターとエアコンと何かを組み合わせてZEBをつくるような、そうしたイノベーションを志向しています。

 そこで重要なのがR&Dですが、炊飯器から人工衛星までカバー領域が広いのに、R&D費は2130億円(2016年3月期)とそれほど多くない。なぜ少ないのでしょうか。

 総花的ではないからです。自分たちが強みを発揮できる技術やこういう領域で強くなっていこうという領域に絞っているからです。

 次世代のパワー半導体のSiC(炭化ケイ素)も20年越しで開発されています。SiCに絞っているのですか。

 ほかにも注目される素材はありますが、SiCは長い期間をかけて育てています。たとえば、電車のモーターはSiCを使うことで従来のシリコンに比べ消費電力を40%削減を実現して、優秀省エネルギー機器表彰で経済産業大臣賞を受賞しました。大きな効果が出る部分はSiCに切り換え、シリコンで十分ならそのままでよい。高いコストをかけて不要な価値を投入しても意味はないので、棲み分けを的確に判断しています。

 ドグマ志向じゃなくて、現実をよく見て適材を適所に、というわけですね。

 そうです。お客様が求めるバリューをいかに安く提供するかが、社会に必要とされる会社の条件だと思うのです。

自分たちの常識に「動揺」を与えて
組織の新陳代謝を誘導する

 イノベーションを統括するのは2012年に招聘された経済産業省出身の近藤賢二氏ですね。現在は、専務執行役開発本部長です。東大法学部卒の文科系人材に、実質CTO(最高技術責任者)を託されているのはなぜですか。

 技術開発や知財などに関して、また技術政策でも腕を振るってきた近藤さんのキャリアからして、私は適材だと思っています。「異種の知」として、すでに開発本部に新風を吹き込まれています。

 自分たちだけの言葉では通じない人が来た当時の開発本部は、さぞ動転したことでしょう。私にも同じ経験があります。ずっと重電の世界にいて、社長になる前の2年間は半導体・デバイスの本部長を任されました。当時の私も「異種の知」でした。専門外の私には、半導体の「当たり前」が謎だらけで、しょっちゅう「なんでこんなことをしているのか」と聞いたものです。専門家には「そういうもの」という刷り込みがあるのですね。

 たとえば、夏に雷が落ちるとよくプラントが止まるのですが、半導体の人たちは「落雷があったから仕方ない」と言う。でも私は電力の人間なので、「そんなもん、止まらんようにしたらええやん」と思うわけです。

 調べてみると、回路の組み方や部品の選び方で改善できることがわかりました。そんなに難しい話ではないのに、半導体開発の専門家たちは設備に関する知識が乏しくて、そういうものだと思い込んでいたわけです。プラントの稼働率はコストに直結しているので、私は至急に対策を講じて、ほとんどお金をかけずに、停止率を改善しました。それができたのは、「違う目線の発想」があったからです。高度な専門家集団の中には、「異種の知」を混ぜたほうがよいのです。