近藤さんは、「未来イノベーションセンター」を新設され、2030年を見据えた未来技術の探索組織をつくられた。この激変の時代に超長期を見据えることは可能ですか。

 次世代パワー半導体のSiCも20年前からやっていて、いまようやく刈り取れるわけですからね。もちろん、R&Dの大きな比重を占めるわけではないけれど、基本となる技術開発は絶やしてはならない。2020年を一つの目標にしていても、その後もずっと続いていくわけですから、そのためのメシの種を仕込まなければならないのです。

 既存の技術という山を登るばかりでは、新しい地平は拓けないということですね。

 そうです。たとえば、2030年の世の中の生活を想像して、それを実現するためには、いま何をしなければならないか、というバックキャストの視点が必要だと思います。現在の延長線上だけで考えるのではなくて、新しい地平を拓くためにも、未来から現在を考えることが大事です。

 近藤さんは、技術を卵の黄身、運用・保守などアフターサービスを白身に例え、白身の部分も大きくしようと提案されています。白身にはマーケティングの強化も入っているわけですね。

 「白身」の部分というのは、要はお客様がどういうことを求めていて、それにいくら払ってくださるか、ということです。そういうビジネスモデルをつくり実現するような開発体制を構築する。そういう取り組みをマーケティングと言うのであれば、そうです。

 最近は、「白身を大きくするだけではなくて、黄身の数も増やそう」という私の意見も汲んで(笑)、発破をかけてくれているようです。一つの殻に黄身をいくつも入れて、先ほどのZEBのように、事業のシナジーを生み出すということです。ダチョウの卵のように殻自体を大きくして、黄身をたくさん入れると価値が上がるようにするということです。

 CEOとCTOの視点が交差して新たな価値を発見する様子をうかがい知ることができるエピソードですね。柵山さんはエンジニア出身ですが、そうしたマネジメントに開眼したのは、ウェスティングハウス(WH)との契約解除の交渉ですか。

 WHがシーメンスに発電事業を売却した時はまだエンジニアで、部長になる前でしたね。発電機のライセンス契約を解除すれば使用権も消滅するわけですが、WHに帰属する技術と当社のそれが複雑に入り組んで区別が困難な状態でしたので、契約解除によって当社は従来の事業を継続できなくなる。一瞬青ざめたものです。

 ところが、最後の契約更改の際、そうした事態を想定して、「事業売却をした側は、すべての権利を放棄する(相手にすべての権利を許諾する)」という条項を入れてあったのです。当時のWHは売却されるなど夢にも思っていなかったので抵抗もあったそうですが、認めさせた。こうして発電に関する技術の使用権はすべて我々に許諾されたのです。さらに、「事業売却した側は、相手の技術を使用する権利がなくなる」という条項もあったのですが、それを厳密に適用したらWHは困難な状況に陥ったでしょう。結局、この条項は除外して契約解除に漕ぎ付けました。

 WHとの契約交渉をした先輩社員があらゆる状況を想定して、後輩たちが技術の使用権を逸することのないように、「終結事項」を整備していた。知財契約は当社のビジネスの命運を握る。契約の際はバラ色のことばかりを想定しがちですが、それは違うということをこの時胸に刻みました。これがマネジメントの修業かもしれませんね。

 三菱電機は、21世紀以降、谷口一郎さん、野間口有さん、下村節宏さん、山西健一郎さんとトップが4年交代で「バランス経営」を深めてきました。しかも出身部門は、電子システム、R&D、自動車機器、生産技術、柵山さんも電力システムと、必ずしもドル箱部門ではありません。それは「稼ぐ人が一番エライわけではない」というメッセージですか。

 私がどういう基準で選ばれたかはわかりませんが、「稼いだ実績」だけではないでしょう。その人が儲けてきたかどうかは別の問題です。自分たちの会社の哲学を引き継いでいく人が大事なのです。三菱電機が構築してきた「バランス経営」という理念をきちんと継承して、さらに成長させていける人。私もそういう人を選びたいと考えています。【完】


●聞き手|森 健二
●構成・まとめ|森 健二 ●撮影|中川道夫