金融業界を皮切りに、小売業や製造業など幅広い業界で「ロボティック・プロセス・オートメーション」(RPA)の導入が広がっている。ただし、RPAをコストや労働時間を削減するツールとして導入すると、そのベネフィットは限定的なものに終わってしまう。業務プロセス改革の端緒とし、デジタル・トランスフォーメーション(DX)へと発展させて、初めて大きな効果が得られる。

RPAの成功には
業務プロセス改革が不可欠

編集部(以下太文字):RPAを新しい労働力として活用し、その能力を十二分に引き出すための必要条件とは何でしょう。

YOICHIRO TAKAMI
EY Japanのパートナー。公認会計士。早稲田大学商学部卒業後、大手監査法人に入所。その後、シリコンバレーのベンチャーキャピタルにてファイナンシャル・コントローラーおよびCFOを務める。帰国後、外資系コンサルティングファームを経て、2010年に新日本有限責任監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)に入所。EYアドバイザリー(現EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング)の立ち上げに参画し、現在は同社にてファイナンス(財務・経理関連アドバイザリー)サービス、ならびにRPAアドバイザリーサービスのリーダーを兼ねる。『デジタルCFO』(東洋経済新報社、2017年)の監修を担当。

髙見(以下略):2つあります。第1に、組織横断的な自動化オペレーションを可能にする「オペレーションモデルの構築」。第2に、RPAだけでなく他のデジタル技術を組み合わせた「自動化領域の拡張」です。

 それぞれについてお尋ねします。まず、オペレーションモデルの構築について教えてください。

 デスクトップPCに自動化ロボットをインストールする「ロボティック・デスクトップ・オートメーション」(RDA)の導入をもって、RPAプロジェクトとする誤解があります。RDAでも自動化は可能で、基本的には特定の個人の作業を自動化するツールでありますが、対象業務や導入効果は非常に限定的です。
 RPAとは、その名の通り、より広い意味での業務プロセスの自動化を目指すものです。それは、かつてのビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)同様、組織横断的な取り組みです。したがって、複数の部門や組織をグリップする「センター・オブ・エクセレンス」(CoE)の設置が不可欠です。
 オペレーションモデルの構築とは、このCoEを含め、業務のフォーマットや手順の共通化、関係者のベクトル合わせなど、RPAの効果を最大化するために、組織、プロセス、ルール、人材等の包括的な仕組みをつくり上げることであって、そのモデルの設計と構築を導入計画に早い段階から組み込んでおくことが肝要です。

 RDAとRPAを同じものと理解している向きも、少なくないのではないでしょうか。

 実際そのように説明されることもあります。しかし、やはり似て非なるものです。RDAだけでは、経営陣が期待するレベルの効果には届かないかもしれません。また、RDAの導入を野放図に広げていくと、統制不能、業務のブラックボックス化といった問題が生じかねません。
 RPAソフトウェアを開発したある大手ベンダーは、当初RDAで業務プロセスの自動化を実現しようとしたのですが、やがてRDAの限界を知り、これを捨て去り、サーバー型のRPAに転換したというエピソードもあるくらいです。
 ただし、申し添えておきますと、これは「製品としての優劣」ということではなく、「製品特性の相違」としてとらえるべきであって、「どちらがマーケットの主導を握るのか」といった観点ではなく、「どのような目的、どのような組織、どのような業務に、どちらが向いているのか」といった観点からお考えいただくべき論点だと考えます。

 日本企業では、先ほどのBPRしかり、IT化やデジタル化しかり、全体最適を志向しながらも、結局は部分最適に陥ってきました。RPAにも同様の懸念があります。

 RPAが登場した時、我々も、カスタマイズされた環境でこそ機能すると考えていました。つまり、個々の業務の自動化を支援するツールである、と。ところが、実際に自分たちに導入してみると、BPR同様、業務プロセス全体の視点から取り組むことが不可欠であることにすぐに気づきました。
 RPAが担うのは、主に人間が手を動かす業務と基幹システムが担う業務の間にある領域です。それは、システム化するには一定水準のROIが見込めないので、システム化を諦めていた領域ともいえます。
 RDA的な使い方からRPAとしての活用へと拡張していくには、業務や手順、プロセスの標準化はもとより、やはり全体最適の視点を忘れてはなりません。もちろん、一筋縄ではいきませんが、ここに挑戦しなければ意味がありません。
 また、RPAプロジェクトというと、小さな話にまとまってしまいそうですが、RPAから始めてデジタル・トランスフォーメーション(DX)へと発展させるべきです。DXにはいろいろな進め方が考えられますが、小さく始めて早くに成功させ、さらにその先により大きな効果を実現していくのがプロジェクトの王道であるとすると、RPAはまさしく打ってつけです。

「インテリジェント・
 オートメーション」を目指す

 RPAは、他のデジタル技術と組み合わせた「自動化領域の拡張」では、どのような取り組みが必要になりますか。

 RPAは、あらかじめ定義された作業を、定義したようにセットアップすると、その通りに動くだけです。したがって、RPA単体でできることは限られており、他の技術と組み合わせることで自動化領域は広がります。たとえば、ユーザーインターフェースの質を向上させるために、RPAとチャットボット(テキストや音声を通じて会話を自動化するプログラム)を組み合わせるといったケースが考えられますが、このような方向性を模索すべきでしょう。
 さらに、RPAというソリューションに限定せず、さらなる業務自動化の発展段階として、「インテリジェント・オートメーション」(IA)ということを考えてみてはどうでしょう。我々は、IAを単なる自動化ソリューションの総称としてではなく、自動化の戦略立案から実行までの包括的なアプローチと定義しています。
 まず重要なのは、何を目的あるいはゴールとして、業務にIAをどのように導入していくのか、またテクノロジー主導ではなくビジネス主導で戦略的に検討することだと考えています。次に実際の導入に当たっては、そのゴールを達成するために必要となる改革をどのように進めていくのか、どう実現していくのかについて、中長期的なプランが重要です。
 IAを自社のモデルチェンジにどう活用していくかを考えることは、単に業務ツールを置き換えることではなく、そのためにプロセスはどうあるべきか、目的を達成する仕組みを支えるデータをいかに保持すべきで、そのためには何が必要か、そうした変化後の業務に対応する組織モデルはどうあるべきで、人材としてはどのようなスキルセットへの移行が必要なのか、そしてテクノロジーとしては何を使うべきか、組み合わせるべきか、といった非常に多面的かつ包括的なアプローチが必要です。我々はこれらの変革を総称して、IAと考えています。
 RPAを導入し、そこからDXへと発展させるには、やはりCoEの力量が問われることになります。
 繰り返しになりますが、オペレーションモデルの構築は、言うまでもなくCoEの仕事です。プロジェクト推進という側面ではプロジェクトの旗振り役でもあるCoEは、情報の集約と発信・共有を担う一方、プロセスと組織の設計を行います。加えて、現場へのトレーニングの提供、自動化への現場の要求に関する優先順位付けといった仕事もあります。一方、CoEとは別に、導入/開発チームを立ち上げ、対象業務の選定、要件定義・開発・導入を任せます。
 RPAプロジェクトといっても、けっして特別なものではなく、求められるスキルやリーダーシップも、通常のプロジェクトマネジメントと本質的には変わりません。ただし、組織横断的な取り組みになりますから、CoEは、複数部門のニーズや利害を調整したり、部分と全体の整合性を図ったりする必要があります。
  強いCoEの下、中央集権的に推進するのか、あるいはCoEは方針の策定とプロジェクトの進捗管理だけを担当し、それ以外は各部門に任せる分権化がよいのか、さらには両者のハイブリッドがいいのか、進め方はさまざまです。

RPAプロジェクトは
業務の見直しにつながれば成功

 かつてのBPRの轍を踏むことなく、RPAをDXへ発展させるには、どのようなことに注意すればよいでしょう。

 RPAプロジェクトを始めたことで、「個々の業務を見直すきっかけになった」という例が少なくありません。実は、それこそがRPA導入の大きな副産物なのです。
 ある企業のケースでは、業務プロセスの組織横断的な分析と可視化、自動化ロボットの開発を同時並行で進めていましたが、なかには改善すればRPAに置き換える必要はないという結論に至った業務もありました。
 RPAの目的は、必ずしも自動化ではなく、業務の効率化と生産性の向上です。しかし、こうした改善努力は日常的に行われることはありません。プロジェクトを立ち上げたからこそ、知ることができたのです。
極端な話、「RPAの導入そのものは失敗してもいいから、業務を見直す機会になれば成功といえる」と話していたプロジェクトリーダーもいるくらいです。

 RPAによって定型業務や単純作業を極限まで減らし、人々を新たな価値創造に向かわせることが可能になるといわれますが、どのような価値が期待されますか。

 付加価値とは何か、価値創造とはどのような活動かについて、あらためて考えてみるべきです。個人的には、社員のキャリアパスという観点も加味して、2つの方向性があると考えています。
 一つは、データアナリティクスやAIの活用といったアウトプットの高度化です。最近、「データ・イズ・ザ・ニュー・オイル」(データは新しい石油)といわれていますが、「自分たちしか知りえないデータ」を収集・蓄積・活用することが価値創造の源泉となり、実際に差別化にもつながっています。つまり、RPA導入を契機に、デジタル化されたデータを別の付加価値を創造するソリューションへ活用するということです。
 もう一つは、業務プロセスの高度化とその確実な運用サポートです。これについて説明は不要でしょう。
 RPAプロジェクトに限らず、多くの業務改革では、コストや工程、労働時間の削減といったことに目が行きがちですが、こうした効率化ばかりを追求すると、目的を見誤る危険性があります。だからこそ、経営者は、RPA、さらにはDXのビジョンを組織メンバーに具体的に示す必要があります。
 そして、その自動化の旅では、RPAはDXのドアオープナーとして利用できる自動化手段の一つといえるでしょう。


  1. ●企画・制作:ダイヤモンド クォータリー編集部

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