人生の目的を見つけ
情熱に火をつけよ

 人間が存在している意味、生きている意味とは何か、いまこそ突っ込んで議論すべき時です。
 「最も素晴らしい時代を生きている」、と私は思っています。だからこそ、20年後あるいは30年後のために、人間の存在理由について向き合い、あらためて考えてみる必要があるのです。

 私たちの知るところの過去は、私たちの人生にとって無縁なものになっていくでしょう。なぜなら、あらゆる課題を解決できる時代が訪れているからです。

 ですから、皆さん、このシンギュラリティ大学では、これまで一度も挑戦したことのない課題にもれなく挑戦していただきたい。その際、いつも申し上げていることですが、私から2つアドバイスがあります。

ピーター H. ディアマンディス     PETER H. DIAMANDIS
シンギュラリティ大学共同設立者。マサチューセッツ工科大学(MIT)在学中に、いまでは国際的な学生組織として知られる宇宙探査・開発学生連盟(SEDS)を設立。卒業後、ハーバード大学医学部に入学し、また在学中に国際宇宙大学を設立し、CEO兼マネージングディレクターを務める。卒業後、MITで航空学と宇宙航行法を学び、修士号を取得。その後ハーバードに戻り医学博士を取得。Xプライズ財団、ゼロ・グラビティ、スペース・アドベンチャーズ、ロケット・レーシング・リーグなど、宇宙関連の組織を次々に立ち上げる。主な著書に Abundance: The Future Is Better Than You Think, Free Press, 2012.(邦訳『楽観主義者の未来予測(上・下)』早川書房、2014年)、Bold: How to Go Big, Create Wealth and Impact the World, Simon & Schuster, 2015.(邦訳『ボールド 突き抜ける力』日経BP社、2015年)がある。

 ここでは、成績の良し悪しはまったく意味がありません。何しろ、皆さんを評価する人などおりませんから。皆さんの職業が何であれ、人生において目指すべき道を見つけ、突き進み、これまでの経験を思う存分活用していただきたい。

 その一方で、まったく違う自分を発見してください。そのためにも、これまでやったことのないことに挑戦してほしい。

 このキャンパスは、いままで経験したことのない会話やチャンスにあふれています。実際、シンギュラリティ大学は、まったくの別人になれる場所です。きっと、ここでの会話や体験がそうしてくれることでしょう。イノベーティブな思考、驚くような洞察力というものは、人生における真実を見つけようと、もがいている人に宿るものです。

 さて、包み隠さず正直に答えていただきたい。自分の人生のミッションや目的がまだはっきりしていない人、手を挙げてみてください(教室内の大多数が挙手)。答えるのがためらわれる質問にもかかわらず、正直に答えてくれてありがとう。

 この夏、皆さんの目標はそれを見つけ出すことです。そう、人生における目的を明らかにするのです。目的(パーパス)と情熱(パッション)があれば、今後の長い人生で迷うことはありません。

 これこそ、親や会社に言われたことだけをやっている人たちとの決定的な違いなのです。なお、目的は必ずしも一つでなければいけないということはなく、たくさんあっていいんです。もちろん、正解などありません。

 皆さんが人生の本当の目的を見つけ、「これが自分の人生の目的だ」「この目的のために自分はこの地球に存在している」「この目的のために毎朝起きている」と思えるようになれば、シンギュラリティ大学に来た意味を実感できるでしょうし、私も嬉しいです。ただし、何事も「お金のため」というのは面白くありませんし、空しいだけです。

 皆さんは、エネルギー、材料科学、AI、3Dプリンター、ブロックチェーン、バーチャルリアリティなど、さまざまな領域の最先端技術に触れることで、きっと情熱に火がつくことでしょう。そして、皆さんのもう一つの目標こそ、情熱を抱くことです。ここで火のついた情熱を、できれば5年、10年と燃やし続けることを願っています。すなわち、人生は、喜怒哀楽、熱い思い、好奇心など、感情が原動力なのです。

エクスポネンシャル技術の
衝撃

 その一方、私たちは、これまでに得た知識や経験、生まれ育った環境に基づいて思考します。当然、知っていること以上のことはわかりません。つまり、私たちの思考は線形で、飛躍することはないのです。ですから、人知を超えて非線形に進歩するエクスポネンシャル技術とは相性が極めて悪い、と言わざるをえません。

 イーストマン・コダックの破綻は、これが原因です。2000年前後、デジタル技術はまだ黎明期にあり、その影響も限定的でした。ところが、どうでしょう。その後は、人々の予想を超えて、爆発的に普及していきます。そして2012年、コダックはチャプターイレブン(連邦破産法11条)の適用を受け、事実上破綻します。

 この年、フェイスブックは、ケビン・シストロムとマイク・クリーガーという若い2人が設立した画像共有アプリのインスタグラムを買収しています。あまり知られていませんが、コダックは2001年、このインスタグラムの原型ともいえるオンライン写真サービスを提供するオーフォトという会社を買収しています。そう、デジタル技術のみならず、この技術も活かせなかったのです。

 コダックに限らず、デジタル技術のエクスポネンシャルな成長によって、こうした淘汰が繰り返し起こっています。次の10年間で、「フォーチュン500」の4割がこのランキングから姿を消してしまうかもしれません。

 こうした背景から、エクスポネンシャル技術とは何か、今後何が起こるのかを知ろうと、多数の企業や人々がここシンギュラリティ大学を訪れているわけです。この技術は脅威をもたらすものでもあり、だからこそエキサイティングでもあります。

 シンギュラリティ大学は、ご存じのように学位を授与する学術機関ではありません。我々が目指しているのは、たくさんの人たちに新しい現実を体感・共有してもらい、新時代の本質、すなわち、多種多様の要素が融合する中で「予想できない収れん」「予想できない結果」が生まれてくることを理解してもらいたいのです。

エクスポネンシャル技術と
ビジネスモデルが融合すると

 以前、クリントン・グローバル・イニシアティブでビル・クリントン元大統領と話す機会がありました。その時、「ピーター、なぜ君は将来について、そんなに楽観的でいられるんだ。ニュースを見ていないのかい」と聞かれました。「ニュース番組を見ないからです」と答えました(笑)。ですから、いまも楽観的です。

 閑話休題。この9週間を意義あるものにするために、3つのポイントについてお話ししたいと思います。

 全世界の平均所得は3倍、平均寿命は2倍、食糧は13倍、エネルギーは30倍、交通は数百倍に増えました。加えて、コミュニケーションは何千分の1の価格に下がっています。

 それもこれも、技術のおかげです。その結果、かつての稀少経済から潤沢経済、潤沢社会へと転換しつつあります。これが第1のポイントです。

 ほとんどの経営者が、従来の稀少経済を前提に考えていますが、それは現実を正しく理解していない証拠です。実際、本当に稀少なもの、言い換えれば、本当に不足しているものとは、いったい何なのでしょうか。

 局所的に見れば、持てる者と持たざる者が存在していますが、全世界的に見れば、お金も、水も、食糧も、エネルギーも潤沢にあります。私たちは、知らぬ間に潤沢経済を享受し、潤沢社会に生きているのです。

 今後、誰でも、水、食糧、エネルギー、情報など、生活に必要なものを手に入れられるようになります。おそらく20年以内には、貧困も解決されることでしょう。誰でも、月や火星に行けるようになります。誰でも、教育を受けられるようになります。誰でも、健康と安心を手に入れられるようになります。事実、1820年から平均寿命は延伸を続けています。

 そういう時代では、人口過剰を心配するのではなく、人口減少の可能性を考えるべきです。人口減少の主な理由として考えられているのは、女性の社会的地位の向上、医療と教育水準の向上だからです。

 ここ2世紀の間で、世界における民主化が格段に進みました。200年前は、数える程度でしたが、いまでは100カ国以上が民主国家です。

 ハーバード大学心理学部のスティーブン・ピンカー教授によれば、1946年以降、暴力行為は500分の1以下に減少しているそうです。60年前まで、地球上では、どれほどの暴力にあふれていたか、私たちはすっかり忘れてしまっています。

 年間労働時間は、半分以下に減少しています。飛行機での死亡率は格段に低下しており、飛行機での移動が一番安全であることが証明されています。自然災害での死亡率も低下しています。また、母親の出産死亡率も下がっています。

 これらは、センサーや画像解析技術など、さまざまな技術進歩によって予測と予防が大きく改善されたからにほかなりません。デジタル技術のインパクトはまさしく革命的であり、稀少経済から潤沢経済への架け橋になりました。
 起業のコストも減少しています。一昔前ならば、500万ドルの資金を集めなければなりませんでしたが、いまや5000ドルあれば起業できます。ひるがえせば、スタートアップ爆発期が到来しているのです。

 シリコンバレーの起業家たちは、面白賢い人ばかりです。なので、バカみたいなアイデアに挑戦しては、皆“爆発”しています(笑)。ですが、ブレークスルーを起こすには、バカみたいなアイデアが不可欠なのです。

 第2のポイントは、3つのD、すなわち「非物質化」(dematerialize)、「非収益化」(demonetize)、そして「民主化」(democra­tize)です。

 家電小売りのラジオシャックは2015年に破綻しましたが、その理由は何でしょうか。経営が下手だったからでしょうか。核心は、彼らの売っていたもののほとんどがいまや無料で入手できるものばかりだったことです。要するに、ソフトウェアに非物質化されてしまったのです。その結果、ラジオシャックだけでなく、家電メーカーも非収益化に追い込まれました。また、ソフトウェアの複製も配信もほぼコストゼロですから、だれもが利用できます。すなわち民主化です。

 ウーバーは、タクシーを非物質化し、タクシー会社を非収益化しました。車を自分で所有・維持するよりも、ウーバーを利用したほうが5倍も安いのですから。その結果、タクシーサービスは民主化されました。

 半世紀くらい前までは、社会に変革を起こすなど、普通の人にはとてもできない芸当でした。しかし、いまは違います。ですから、ここにいる皆さん全員が、「社会を変えられる」という信念を持ってほしいと思います。国境を超えた変革は、政府には無理ですが、皆さんには可能なのです。

 そのための資金はあり余っています。ベンチャーキャピタル(VC)は星の数ほどありますし、中には150億ドル規模のVCすらあります。専門家も山のようにいます。また、クラウドソーシングを使うという手もあるでしょう。

 最後のポイントは、先ほど申し上げた「予想できない結果」です。これは、エクスポネンシャル技術の民主化による副産物でもあります。

 2010年のインターネット利用者は18億人、現在は29億人、2020年には最低でも50億人になると推定されています。想像してみてください、20億人以上もの新しい消費者がオンライン上に登場する未来を。

 フェイスブックは、フランスのユーテルサット・コミュニケーションズの力を借りて、サブサハラ(サハラ砂漠以南)のインターネット環境を整えるために人工衛星を打ち上げる予定です(注)。また近々、太陽光で飛行するネット中継用ドローン「アキラ」をテスト飛行すると聞いています。

注)2016年9月1日、イーロン・マスクが所有するロケット会社スペースXの「ファルコン9」が爆発し、このロケットで打ち上げられるはずのフェイスブックのネット通信用人工衛星「AMOS-6」が巻き添えを食らった。

 グーグルは2013年、気球を使ったインターネット接続「プロジェクト・ルーン」を発表し、すでに実行に移しています。翌年には、大気圏ドローンを開発するタイタン・エアロスペース、人工衛星を製造し打ち上げるスカイボックス・イメージング(現テラ・ベラ)を買収しました。

 昨年、イーロン・マスクのスペースXは、4000基規模の衛星コンステレーション(複数から成る人工衛星システム)の打ち上げを発表しました。バージン・グループのリチャード・ブランソンとクアルコムのポール・ジェイコブは、ワンウェブの衛星コンステレーションに出資しました。こちらは数年以内に打ち上げられるでしょう。

 これらはすべて、この惑星すべての人たちにメガビット/秒のインターネット接続を提供するためです。いずれにしても、向こう5年間で、50億もの人たちのコネクションとコラボレーションが実現します。

 世界の中には、起業家にならなければ生きていけない国があります。たいていは新興国です。そこに住む人たちは、日々イノベーティブでなければなりません。そんな人たちがオンライン上に参加してくるのです。間違いなくアフリカからすごい会社が登場することでしょう。また、聞いたことのないアジアの地域でもユニークな起業家が現れてくるでしょう。

 大きな社会問題は、言わば「鉱脈」です。それを解決すれば、ビッグビジネスになる。言うまでもありませんが、世界的な社会問題には、さまざまなビジネスチャンスが眠っています。

 億単位の人々によって、億単位の人々が救われる――。これは間違いありません。近い将来、オンラインショッピングをしたこともなければ、データをアップロードしたこともない20億人が登場し、出会うのですから。

 この世の中には、素晴らしい頭脳の持ち主たちがたくさんいます。今後、世界のあちこちから登場してくるでしょう。いままではつながっていませんでした。ですが、これからは違います。コラボレーションが始まります。

 次に、IoT(モノのインターネット)、いやむしろIoE(Internet of Everything)と言うべきでしょう。すべてがインターネット化されます。2020年には、500億もの機器がインターネットと接続するといわれています。しかも、これらの機器には、20~30ものセンサーがついている、と。1兆以上のセンサーによって、この惑星は網羅されるのです。それだけではありません。衛星やドローンが写真や動画を常時撮影しています。

 私たちはまさしく、何でも知ることができる時代、そして誰でも変革の旗手になれる時代に生きているのです。

 


●構成・まとめ|岩崎卓也(ダイヤモンドクォータリー編集部) ●イラスト|モトムラタツヒコ


 

*シンギュラリティ大学CEOロブ・ネイルの記事はこちらです。