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達成感を経験できる場を設け
モノづくりの志を育てる

編集部(以下青文字):「モノづくりは人づくり」ともいいます。生産効率の向上で従来の単純作業などが減る一方で、いかにして創造的な人材を生み出すかが課題となります。デンソー流の人づくりについてどう考えていますか。

有馬(以下略):おっしゃる通り、当社のモノづくりの根幹は人です。つまり、現場で働く人の知恵をいかに引き出して、現場で改善をし続けられるかが大事です。特に自動車のモノづくりにおいては、2つの理由から人が重要だと考えています。

 1つ目は、車が人の命を預かる製品だということ。人の命を預かるモノづくりには一切の妥協があってはいけません。単にモノをつくればいいというものではなく、創意工夫でとことんモノづくりを追求する人が求められます。

 2つ目は、車が数万点の部品の集合体であり、一つの企業だけのモノづくりでは形にならないということです。車の部品はさまざまな材料から成り立ち、大小数万点に及ぶ部品から成り立っています。そして、それを部品として形にするラインや設備も均一ではなく、さまざまな生産設備が必要です。同じように見える部品や材料でも日々まったく同じモノが入ってくるとは限りません。「現場は生き物」ともいわれますが、その日、その部品、その材料に応じて、絶対に不良を出さないモノづくりをしなくてはならず、そのためには、現場を知って、正しく判断できる人の存在は欠かせません。

 デンソーが求める人を育てるために、どのような仕組みづくりや取り組みをしているのですか。

 多くの会社と同様、当社でも職種やレベル別にさまざまな研修プログラムがありますが、そうした制度を設けるのは必要条件にすぎません。当社が求めているのは、優れたモノづくりを目指そうという志を持った人です。

 そうした志を育むためには、モノづくりの楽しさ、苦しさ、そして凄みを実感することが必要なんです。そのためにはベテラン社員から話を聞くだけでは駄目で、とにかく現場で手を汚し、汗を流すんです。議論してぶつかったり、うまくいかず苦労をしたり、あるいは失敗して痛い目に遭うこともあるでしょう。個々人は解決策が見えずに悶々としたり、不安だったりするのですが、同じテーマで苦しんでいる人たちが増えてくると、彼ら彼女たちの会話の中から、点と点が突然つながって思わぬ出口が見えてくる。何かを生み出すにはこうしたプロセスがあるのだろうと思います。そうして目標を達成し、モノづくりというものを体で知ることで一人前になる。こうした経験が土壌となり、初めて志が育つんです。

 もう一つ、当社には組織の壁を超えクロスオーバーでチームを結成し協業し合う風土があります。製品や技術を議論する時には、組織や役職も関係なく、全員がプロ意識を持って問題や課題に取り組んでいます。このような風土をこれからも大切にしていきたいと思います。

 デンソーでは生産設備を内製化していますね。あえて内製化にこだわるのは、人を育てるためという理由もあるのでしょうか。

 ええ。当社では、たとえば一人の製品技術者が「こんな製品をつくりたい」といってポンチ絵を描くと、加工に精通した腕利きたちが集まり、生産技術屋や設備設計屋なども集まって議論になります。さらに生産設備を実験的につくることになると、現場の技能者たちも加わり、ワイワイやり始めます。製品開発から生産設備づくりまでを一気通貫に保有しているので、分野の異なるスキルがどんどん身につくわけです。

 内製化のもう一つのメリットは、現場での日々の気づきや革新事例などのベストプラクティスを即座に稼働中の生産設備に取り込むことができることにあります。今後、IoTの導入でさまざまな「見える化」が進むことで、生産設備の内製化のメリットはさらに高まるでしょう。

海外拠点の幹部社員は
半数をローカル人材に

 今後、グローバル展開を推し進めていくうえで、デンソーが行ってきた人づくりの手法やモノづくりの志が、はたして文化や国民性などが異なる海外で受け入れられると思いますか。

 私はかつて当社が買収したイタリア子会社の社長となり再建を任されたことがあります。大赤字なうえに経営体質が旧く、継続が危ぶまれるほどの厳しい経営状況でした。再建のために行ったことの一つは、問題に徹底的に向き合ったことです。経営の情報を開示し、職位にこだわらず、多くの社員と徹底的に話し合いました。会社の外での“飲みニケーション”も多く、ワインは浴びるほど飲みました(笑)。

 そして、方向性を決めたら、後は社員たちを信用し尽くし、任せ切りました。時にはトラブルが起きて胃が痛むようなこともありましたが、どんなに気になっても口を出さず、見守り続けました。頻繁に現場へ行き、社員を鼓舞し続けました。すると、任せられた社員は奮起し、次第に社内の雰囲気が変わり始めました。

 こうした経験を通じて、経営者の大きな役割の一つは、社員たちの秘めた情熱に火をつけることなんだと学びました。ご質問に答えるならば、国や文化が違えども、人の情熱は変わりません。そこに火をつけるプロセスが違うだけだと思います。

 国内外の技術者や技能者たちに「君たちは何をやりたいか」と聞くと、「こんなロボットをつくりたい」とか「こんな認識技術を開発したい」とか言ってきます。実際、多少の予算と小さなラボを与えて、「それじゃあ自分たちでやってみろ」と挑戦させているのですが、彼らは本当に目を輝かせて開発に取り組んでいます。任せる勇気、育てる愛情、見守るゆとりが重要だと思っています。

 制度面ではどのように人づくりを後押ししていくのでしょうか。

 当社では2016年1月にグローバル共通人事制度を導入しました。国内外社員を同じ等級制度の下、同じ基準で公正に育成・評価します。これにより海外拠点の幹部の外国人比率をいまの25%から50%に引き上げる予定です。幹部人材を育成すると同時に権限委譲も進め、各地の顧客の声をしっかりと吸い上げるとともに、経営の意思決定のスピードを上げる体制を構築したいと考えています。

 幹部の外国人比率をいつ頃までに5割へ引き上げる予定ですか。

 地域によって一気に変える拠点もあれば、育成までまだ時間を要する拠点もありますが、2025年までに達成したいと考えています。

愚直と誠実な風土で
新たな製品を創り出す

 お話を伺っていて、デンソーが人づくりを大事にする会社だというのが非常によくわかりました。そうしたことも含めて、デンソーという会社は一言で言うとどういう会社だと思いますか。
 難しいですね……。愚直。

「愚直」ですか。

 はい。愚直に、誠実に、モノづくりを粛々と続ける会社だと思います。そして、「やり切る」「考え抜く」といった、何事にも「トコトンまでやり切る」という風土があります。当社は自動車の部品メーカーという“黒子”であり、なおかつ、非常に信頼性が求められるモノづくりが求められています。こうした歴史が、愚直で誠実な体質をつくり上げてきたのだと思います。

 とはいえ、いまや従業員約15万人、売上高4.5兆円という規模に成長したので、今後は社会に対し、デンソーとはどういう会社なのかをもっと情報発信したいと考えています。

 具体的にはどのようなことを考えているのですか。

 当社はこれまで(日立製作所の「Inspire the Next」のような、企業の理念や目指す方向性などを示す)タグラインがありませんでした。まずは世の中に「デンソーはどういう会社なのか」を知ってもらおうと思い、2017年1月に、「クラフティング・ザ・コアC」(Crafting the Core)というタグラインを発表しました。「コア」はそれぞれの人にとって大切なものということです。自動車関連の製品のみならず、社会に役立つ大切なものを創り出す企業でありたいとの思いを込めました。

 最後の質問です。有馬社長が考えるデンソーのコアとは何でしょうか。

 2つあります。一つはさまざまな技術や技能をとことん磨き上げ、新しい価値を世の中に生み出し続けるということです。技術やモノづくりの進化によって成長してきた会社ですから。もう一つは、企業理念にあるように人の幸せに貢献する志を大切にしているということですね。これからもモノづくりを通じて世の中の人を幸せにしたい、社会で役に立つものを創り続けていきたいと思っています。【完】


●聞き手|松本裕樹(ダイヤモンドクォータリー編集部)●構成・まとめ|松本裕樹 ●撮影|中川道夫