パソコン製品に強い家電量販店というイメージをもつ株式会社ソフマップ。2017年2月、渡辺武志が代表取締役社長に就任して以来、これまでのイメージを一新するような大胆なチャレンジを重ねてきました。新たな歴史を築き始めた“新生ソフマップ”。果たして社内では、何が起こっているのでしょうか。裏側に迫ります。

業績悪化、会社の危機を徹底的な効率化で乗り越える

▲新設したトレーニングセンターでメッセージを送る代表取締役社長の渡辺武志

「ソフマップを立て直してくれ」――。

現代表取締役社長を務める渡辺武志に辞令がおりたのは、就任の2週間前でした。当時、渡辺はビックカメラグループの別会社を任されていました。

渡辺 「ソフマップは、2015年頃から業績の低迷が続き、非常に厳しい状態でした」

渡辺はビックカメラに入社して副店長・店長を経験した後、いくつかの店舗の立て直しやビックカメラとコジマ資本業務提携時の業務統合プロジェクトで成果を上げ、さらには新規事業の立ち上げでも成功するなど多くの実績がありました。

渡辺 「私自身が外からきた人間なので、まず“ソフマップって、そもそもどういう会社なのか”に立ち返って、社員と一緒に考えました。

ソフマップの事業は主に3つ。いわゆる秋葉原が中心のサブカル的な事業、中古パソコンのリユース事業、パソコンサポートのサービス事業。その中で、新作タイトル頼みのソフト販売事業にしがみついていても意味がない。新しい道を切り拓こうと。

さらに、親会社であるビックカメラになろうとしているという印象もありました。でもソフマップは、人も文化も、会社の規模だって違います。そう考えるとさまざまな課題が見えてきました。

そこで、まずはソフマップが何をすべきかを明確にして、人の配置をどんどん変えていきました」

いまのソフマップに必要なものを洗い出すと、業務内容を徹底して見直し、新たな施策をいくつも打ち出しました。たとえば、バックヤードの大部分の人員を売り場へと異動させたこともそのひとつ。接客経験のない社員のために、トレーニングセンターも新たに設置しました。

渡辺は「小売にとって“店”と“販売員”は一番大事」だと言います。お客様に気持ち良く買ってもらうために、シンプルに必要な場所に必要な人員を置く。ただし、この配置転換に社内では「バックヤードを軽んじている」という空気も流れました。しかし、決して軽んじているのではなく、自分自身も店長として現場を経験してきたからこそできる判断でした。

業績悪化を早急に立て直すためには次々と対策を講じなければならない。しかし、そのスピード感の中で、想いや意図が伝わりきらず、反発を感じる社員がいても当然だと渡辺は言います。

そのギャップを埋めるために、渡辺が1年間ずっと続けたことがありました。

1年間で300人の社員と懇親会。とことん対話する

▲店頭にもよく足を運び、社員に声をかける

毎週1回の、社員との懇親会でした。開始したのは就任から2カ月後の4月。参加者は6名程度で毎回変わります。1年間で現場の社員300名と毎週対話をし続けたのです。

渡辺 「いきなりきた社長がどういう人間か、どんな考えをもっているかを伝えるための懇親会です。社長が変わり、会社が変わり、こんな方針でやっていくんだと。フランクにそんなことを話しました。理由をすべて説明すると納得するかどうか別として、理解はしてもらえたと思います」

お酒を交えた懇親会では自由に意見が言えるように、“あえて”中間管理職は参加メンバーから外しました。渡辺のオープンな雰囲気との相乗効果で、参加者もおおいに語れる場になりました。

渡辺 「それぞれが思っていることを話してくれました。もちろん愚痴のような話もありました。でも愚痴で終わってしまわないように、“これはこうだよ”とどうすればいいかといった話もしました。結果的に楽しかったと思ってくれた人も多かったようです」

「伝える」という視点で、もうひとつ意識したのはメディアでの発信。これまでソフマップの事業戦略や考えなどがメディアの記事になることは、あまりありませんでした。

渡辺 「社員に対して話しきれていないことは、率先してメディアに発信しました。どんどん発信して、会社が何をやろうとしているか、社員に理解してもらおうと思ったんです。実際に賛同してくれる店長もたくさん出てきました」

渡辺の打ち出した施策は多岐に渡ります。先に挙げた人員の配置換え、トレーニングセンター設置、店頭・バックヤードのオペレーションの見直しに加え、店舗の大幅改装やeスポーツ事業の立ち上げ、ライブコマースへの参入、買取アプリ「ラクウル」の開発、リユース事業の構造改革に新たな中古販売チャネル「リコレ!」の立ち上げと、これまでのソフマップにはない新たな施策を矢継ぎ早に実行しました。そして業績回復への兆しがあらわれ始めます。

そこで、渡辺はさらに大胆な施策に乗り出します。創業からパソコン中心で客層の9割が男性だったソフマップに、若手女性社員による「女性集客プロジェクト」を発表したのです。

社員一人ひとりがプロジェクトに集中できる環境づくり

▲「説得で人は動かない、腹落ちして行動してほしい」と、自席で議論を交わすことも多い

女性層をターゲットにした店づくりというプロジェクトがスタートしたのは2018年8月。渡辺の社長就任から1年半が過ぎた頃でした。

渡辺 「秋葉原の街には女性がたくさんいるのに、ソフマップには入ってこない。チャンスを逃してますよね。それなら女性が入りたい店をつくろうと、プロジェクトメンバーをグループ全体から公募したんです」

メンバーは全5名、若手の女性社員です。社外のサポートも得ながら、1からほぼすべてを自分たちで立ち上げました。渡辺は「予算には口出しをしても、企画内容はすべて任せた」と言います。

渡辺 「経験上、女性が元気な会社はだいたい業績がいい。女性のお客様が多い会社もそう。だから彼女たちの活躍に期待しています。たとえばメンバーから女性管理職が誕生してくれたりすると嬉しいですよね」

このプロジェクトはスタートからわずか4カ月後の12月22日に女性向けフロアのオープンを迎えました。渡辺が心がけているのは、「プロジェクトを立ち上げたらその案件に集中できる環境を会社がつくること」です。さまざまな業務の無駄を見直し、時には容赦なく取り除きますが、それも社員がやるべきことに集中できる環境をつくるため。それが渡辺の組織づくりのスタイルなのです。

そして、人を育てるという視点で、渡辺が口ぐせのようにいう言葉があります。それは「どんどん失敗しろ」。実は一見、順風満帆にも思われそうな渡辺ですが、若い頃、店長の職を5カ月でクビになったという経験があるのです。

失敗して怒られても、その後“よく失敗した”と評価もされる

▲「失敗を恐れずチャレンジしてほしい」

「5カ月でクビはたぶん最速でしょう(笑)。私だって失敗しています」という渡辺。失敗を決して恐れる必要はないと言います。しかし、なぜ、失敗をすすめるのでしょうか。

渡辺 「失敗したということは、何かを“やろうとした”証しだと思うからです。失敗はしてしまったけれど、チャレンジしたんでしょうと。一番やっかいなのは、何もチャレンジしないから失敗もないけれど、もちろん成功もない状態。これは評価のしようがないんです」

若い世代に「失敗を恐れないためにはどうすればよいか」と質問されることもあります。渡辺は、若いほど失敗を恐れる傾向にあるとみています。しかし、成功しなければ会社の存続にかかわるような重要な責務を背負っている若い社員はどれだけいるでしょうか。

渡辺 「会社を潰すような失敗は、社長でないとできないと思うんです。ひとりの社員の失敗で会社は潰れません。だから恐れることはない。どんどんやればいいんです。だから私は、失敗しまくった社員をこっぴどく怒るんだけれど、でもよく失敗したなと最後は評価する、そんな組織にしていきたいんです。そうすれば、みんなが自由にチャレンジして、どんどん伸びていくと思います」

すでに、いくつかの事業は成果を出し始めています。これからも、まだまだ新たなチャレンジは続きます。ソフマップの大変革は、始まったばかりなのです。