トーヨーホールディングスでは、2019年1月にR&D(研究開発)センターを設立。全社横断的にAI開発や設備開発、業務効率化などの技術開発を推進しています。このセンターの設立の裏側には、ひとりの社員の原体験と、“足で集めた情報”が大きく関わっています。

高校時代に抱いた疑問が、トーヨーホールディングスへの架け橋になった

▲R&Dセンター センター長の髙橋 優太

──これまでに存在しない、“世界初”のものをつくりたい。

これは、高橋が子どものころに抱いていた夢。高橋は昔から、コンピューターやものづくりに興味があったと振り返ります。

高橋 「小学生のころから自分の進むべき方向はエンジニアだと思っていました。そんな中、はじめて具体的になりたいと思った職種は、ホワイトハッカーでした。当時は、ブラックハッカーがもてはやされていたんですが、僕は自分の持つ技術を良い方向に生かしていきたいなと思っていたんですよね。それから勉学やアルバイトで工学の知識を深めるにつれ、自分で新しいモノをつくるエンジニアになりたいと考えるようになりました。

こうした思いをずっと抱いていたので、大学卒業後にファーストキャリアとして選んだのは、総合電機メーカーのエンジニアでした」

入社後、高橋は台湾や中国に出向し、基幹工場の設備開発の経験を経て、製品開発などに従事。夢をかなえるべく、メーカーでエンジニアとしてのスキルを向上させていきます。しかし、関わっていた事業がストップしてしまう憂き目にあいます。

高橋 「その時、自分のビジネス面での無力さを痛感しました。エンジニアとしての、ものづくりの技術はある程度身につけたけど、そもそも何を目的に、何をどこで誰がつくるべきなのかという、戦略的な思考が全然できなかったんです。単純な設計などはアウトソーシングや自動化されていく。これから先の時代はエンジニアでもビジネス感を養い、あるべき姿を定め、それを実現できる具体的な技術的解決手段を選択できる能力が極めて重要と考えるようになりました。

そこで、ビジネススキルを身につけるため、働きながら大学に通い、経営の学位を取得しました」

さらに、現場で戦略的な思考やコンサルティングのノウハウを学びたいという思いから、コンサルティングファームに入社します。

そして、コンサルタントとしてビジネススキルが身についてくると、改めて「ものづくりの現場で仕事がしたい」という思いが湧きあがり、さらに経験を生かして戦略的に製品開発に取り組んでいきたいと高橋は考え始めました。

高橋 「その中で、特に挑戦してみたい分野として “農業 ”が頭の中にありました。祖父が畑を持っていて、小さい頃からよく手伝っていたのですが、作業者の勘に依存していて、昔ながらの手法を今も引き継いでいました。もっと技術を活用すれば楽になるし、生産性も上がるのになと感じていたことを思い出したんです。

知人にも多くの農業経験者がいるので、そういった方に色々聞いてみたのですが、やはり AIなどの応用開発や生産プロセスの改革が遅れているなと感じました。そんな中、先進的な技術を展開しようとしているトーヨーホールディングスに出会ったんです」

もちろん、そのような先進的な技術を取り入れようとしている企業は、トーヨーホールディングス以外にも多数存在します。そうした中で、高橋がトーヨーを選んだ理由。それは「チャレンジできる環境」にありました。

高橋 「他の大手企業などからも良いオファーをいただきましたが、分業制が進んでいる分、個人が持てる裁量が小さいように感じられてしまいました。

トーヨーの場合、エネルギーやアグリ事業などここ数年で力を入れ始めた事業が多く、ベンチャー気質の強さが特徴でした。まだ整備されていない部分が多い分、新しい意見を取り入れる土壌があり、チャレンジの幅が大きそうだと感じたんです。

ちなみに、初回面接時は面接というより、ほとんど事業のディスカッションでしたね(笑)。私からも多くの質問をしたので、かなり具体的な事業内容に踏み込んだ話ができました。そこで自分が働くイメージが湧いたのもあり、入社を決めましたね」

「AIよりも設備開発を」現場の課題から生まれた提案

▲入社後、水耕栽培の植物工場現場視察がR&Dセンター設立のきっかけに

こうして高橋は、2018年9月に入社。AI開発をメインに担当することになりました。そこで彼は、埼玉県羽生市にある水耕栽培の植物工場に出向き、どの部分にAIを応用できそうか現場視察を実施します。すると、AI導入より先に着手すべき課題があると気づいたのです。

高橋 「現場の人たちへのヒアリングなどを実施すると、さまざまな意見が出てきました。もちろん AIを応用した画像認識などが欲しいという人もいましたが、収穫機や定植機など自分たちの作業効率や品質を高めるための設備が必要という意見が多く出ました。

そもそも何が課題なのかを自分で確かめるために、 2週間現場に入り込んで、農作業に従事してみました。作業スピードをタイムウォッチで測り、真のボトルネック工程の確認や、品質を確保するための作業が困難である工程などが見つかりました。そこで、そもそもその工程の『あるべき姿』が何かを考え、それを実現できる適切な設備を会社に提案していきました。

そのような『あるべき姿』を実現する設備が市場にないため、設備開発に踏み切りました。当然、開発費はかかるものの、後々の費用対効果を考えると圧倒的に開発した方がメリットがあったんです。 1社目でのエンジニアとしての経験や、 2社目のコンサルティング経験が生きた瞬間ですね。AIはこれからの時代に代表される素晴らしい技術だと思いますが、AIありきではなく、あくまで目的を果たす技術的解決手段を総合的に考え、選択する事が重要と改めて思いました」

もちろんハード主体の設備開発だけでなく、AI開発なども並行して実施しましたが、やはり必要なのは「あるべき姿」を見極め、技術的解決手段を創出・導入する部門だと代表に提言しました。高橋からのプレゼンを受け、経営陣は2019年1月に、その役割を担うR&Dセンターを設立。高橋をセンター長に指名しました。

高橋 「この時に、経営的な意思決定の早さを実感しました。アグリ事業の設備開発しかり、そこから波及した R&Dセンターの設立については、決して小さくない規模の費用や手間が必要でした。

でも、数回の会議で実施が決まったんです。膨大な参考資料を提出して、数回の稟議(りんぎ)を通して……というのは覚悟していたので、すごく衝撃的でした。チャレンジの幅が広そうだとは思っていましたが、予想以上でしたね。もちろん合理性を示す必要はありますが、合理性さえ示せれば、さまざまなことにチャレンジさせてもらえる環境なんだなと実感しました」

作業効率改善システムの開発、ゲノム研究まで、あらゆる領域に挑戦

▲設備開発、AI開発、システム開発、プロセスの再構築などR&Dセンター設立から半年の間で対応の幅も広がる

アグリ事業の設備開発から始まったR&Dセンター。当初はたったひとりでスタートしましたが、2019年7月現在は人員を拡充し、それぞれが得意領域や未経験の分野でも挑戦を続けています。

高橋 「開発に加わるメンバーに関しては、小手先のスキルよりも戦略設計ができるかを重視しています。何が課題で、解決するためには何をつくればいいのかを考えられるか。そのような目的思考があってこそ、課題解決につながる研究開発ができると思っているからです。技術的なスキルは、経験を通して身につけていけば十分だと感じます。

実際、社員のひとりは大学ではマーケティングを専攻していた人材ですが、 R&Dメンバーとして活躍してくれています」

設立から半年の間に、AI開発、設備開発、システム開発、プロセスの再構築など対応の幅も広げてきました。他社差別化を図るべく、さまざまな分野で技術開発を実施し、特許出願など知財化にも力を入れています。

また、筑波大学との共同研究推進など、研究分野にも力を入れています。

高橋 「 AI技術は、農業の脱属人化や判断バラつきをなくすために活用するケースが多くあります。たとえば、野菜の状態判断のために AI開発をするなどですね。場合によってはロジックでシステムを構築すべきものもありますが、 AIを多く応用できる分野のひとつが農業だと思います。

そのような AI含めたシステム構築も必要ですが、同時に『強い製品』をつくることも重要だと思います。共同研究ではそのような点にも力を入れて推し進めています。自社ですべての研究・開発を実施することは現実的ではなく、筑波大学のように最先端の技術を持つパートナーと仕事を進めることもこれから先の時代には極めて重要だと思います」

挑戦の先に描く、自社主体で実現するスマートシティ構想

トーヨーホールディングスに入社して1年弱。高橋は、入社当初に感じた“挑戦させてくれる文化”を肌で感じていると語ります。

高橋 「現状に満足せず、変化を受け入れようとする空気が社長を中心に、社内に根付いているなと感じています。農業の現場でお会いする皆さんも、パートさん含め変化や挑戦に対して積極的。新しい施策をどんどん受け入れてくれる風土があります。社内外のあらゆる人たちの協力があるからこそ、挑戦を続けられる今があるのだと感じています」

そんなR&Dセンターで挑戦を続ける高橋が見据えるのは、トーヨーが主体となって実施する「街づくり」の実現です。

高橋 「今僕が従事している仕事の先には、スマートシティの実現があります。スマートシティというと大企業が連携するなどして進める場合が多いのですが、トーヨーは展開している事業の性質上、自社主体で街づくりが出来るポテンシャルを秘めた可能性がある数少ない企業のひとつだと思います。

市単位など大きな土地ではすぐには難しいかもしれないですが、小規模な街や、団地単位であれば当社だけでも十分実現可能だと考えているんです。しかも、そこに最先端技術を導入し、スマート化された街にする。すごく夢があると思います」

世界にないものをつくりたい──。幼少期から抱く想いを胸に、高橋は今日も挑戦と前進を続けていきます。