2015年にアンカージャパンに入社した筒井秀美は、前職から一貫して営業畑を歩んで来ました。そんな彼女が、なぜアンカー・ジャパンの人事担当となったのか。それは、自身のキャリア形成に苦労したからこそ生まれた強い思いがありました。

悩みながらスタートしたキャリア

▲代表の井戸(右)と筒井(左)

大学を卒業後、新卒で化学系専門商社に入社した筒井。学生時代は自分が職業人生を通じて将来どうなりたいのかというビジョンが描けなかった、と振り返ります。

筒井 「大学卒業と、社会に出ることを目の前にしても、具体的にこんな仕事がしたいというイメージが掴めていませんでした。総合職のような働き方ではありたいな、とは考えていたものの、正直なところ、営業として5年後10年後のビジョンが描けてはいなかったように思います」

自分は、実際の経験から学ぶタイプ。その思いがあったからこそ、まずは営業としてキャリアを歩み始めました。そうして外資系クライアントに対する営業を続ける中で、自分の志向するスタイルが徐々に見え始め、3年目に転職を決意します。

筒井 「当時はほぼ毎日クライアント先へ営業に行って過ごしていたので、外資系ならではの社風はかなり身近に感じていました。専門商社での仕事自体は楽しかったのですが、クライアント先の外資系らしい実力主義の世界に興味を引かれ、腕試ししてみたい、自分で課題を見つけて成果をあげたいと考えました」

自社製品を持ちたいという思いもあり、2社目となる外資系医療機器メーカーに移ります。

そこはまさに実力主義。成績次第で給与も大きく変わる、今までとは全く違う世界でした。日系企業のように細やかなトレーニングもないので、空き時間を見つけては勉強し、せわしない毎日を送る中、ビジネスSNSを通じて一本の連絡が入ります。それは、アンカー・ジャパン代表の井戸義経からのスカウトの連絡でした。

筒井 「まだ転職をして一年足らずでしたし、連絡をもらっても最初は転職に対して消極的でした。でも、井戸は『カジュアルにお話をしませんか?』というスタンスだったので、話を聞くだけならと思って会ってみることにしたんです」

当時のアンカー・ジャパンは日本法人を立ち上げてわずか3年目。

化学や医療などの歴史が長く安定したBtoB業界でキャリアを積んで来た筒井にとって、最新のモバイル機器に関連したコンシューマー製品を扱うアンカー・ジャパンの事業領域は未知であり、井戸が語る世界は遠い存在でした。同時に、それまで「営業のトップは、何十年も営業畑を歩いてきた人にしか務まらない」という自らの常識を打ち破り、営業経験なくして数十億の売上規模を立てていた井戸やマーケティング&セールスを率いる猿渡の存在に強い衝撃を受けます。悔しかったし、同時に強い興味を持ったと振り返る筒井。自分が今までとは全く異なる形で成長できるのではないかという半ば確信めいた思いを胸に、2015年に10人目の社員として入社しました。

何もないからこそ、なんでもできる

筒井が入社した当時のアンカー・ジャパンは、まだ日本法人を立ち上げたばかりのまさにスタートアップ。あらゆるシステムも未整備な状態でした。そんな中、筒井は家電量販店やスマホアクセサリの専門店等のリテール営業を任されます。

筒井 「システム面が本当に未整備だったので、まずはGoogleスプレッドシートで、プロダクトマスタから顧客用商品マスタ、製品在庫数、需要予測、受注管理、出荷トラッキングなど、当時の物流担当者と協力しながら非常にアナログな形でデータをまとめていきました」

社内の人的リソースも限られていたことから、EC関連の事務作業や軽作業等もこなしつつ、リテールビジネスの基礎を作っていきました。しかし、入社してしばらくたった頃に妊娠。産休を取ることになります。

筒井 「少人数の組織の中で産休で抜けることの意味の大きさを理解していたので、仲間に対して申し訳ないという気持ちが強くありました。でも妊娠報告をした際、予想に反して皆が心から祝福してくれて、気持ちよく送り出してくれました。このことは本当に嬉しかったし、アンカー・ジャパンに絶対に戻ってこようと思いました」

そして産休に入る直前、子育てをしながらアンカー・ジャパンへ戻ることを想像したとき、リテール営業という立場では会社に対して十分なバリューを出せないように考えていました。

筒井「子どもの保育園の送り迎えを考えると、どうしても営業職の仕事は時間繰りが難しいと思いました。会社にとっての十分なバリューを出すためには、ある程度前もって計画を立てられることが必須だなと。そこで考えたのが人事の仕事だったのです」

人事なら、計画的に業務を進めることで子育てと両立できるかもしれない。前々からの漠然とした人事職への興味と、友人や過去の同僚から「人事に向いていると思うよ」と言われたことも後押しになったと話します。

筒井 「私は昔から、人の言うことをそっくりそのまま信じるのではなく、本当に考えていることは何だろうと考える傾向があって。表現された内容、見えている事象だけではなく、本質を見極めたいという思いが強かったんです。この性格は、人事の仕事で活きるよ、と言われたんです。実際、営業よりも人事の方が自分に向いているなと思います。
また創業初期に入社したので代表取締役の井戸との距離が近く、会社の様々な過去や経緯を知っていることは、人事の仕事する上で大きなアドバンテージになると思いました」

そして、産休中に社会保険労務士資格へ挑戦。労務の基礎を学んだうえで異動を願い出、復帰後、人事としてのキャリアを歩み始めます。

自社に合う仕組みを考え、実行する

2017年に人事担当として戻って来た筒井の目の前にあった会社の姿は、営業として見ていた姿とは全く違っていました。

筒井 「アンカー・ジャパンは急速に成長を続け、復職後は社員数が約2倍に増加していました。事業部門はかなりプロセスが洗練されていて以前よりずっと安定感がある一方、管理部門はまだまだスタートアップらしさを残した状態。人事部門で必須のあらゆるルールや制度が未整備な一方、すでに顕在化した問題もあり、悠長にはやっていられないなと感じました

今の会社に足りないものを、何から手始めに整えるか。そして整備を行う優先順位は果たして正しいのか――?そう自問自答しながら、人事の領域をいくつかの分野に分けて状況整理し、「法対応」「採用」「評価」「教育」の順に手はずを整えます。

企業の管理部門は裏方。でも、裏方がしっかり機能していなければ表舞台にいる社員が活躍できない。トップや部門長との信頼関係を築くことに努めながら、現場にも視線を合わせるよう心掛け、筒井は課題に向き合いました。足りない知識と経験は、書籍や社外のセミナーに参加して吸収し、インプットとアウトプットを続けていきました。

筒井 「例えば新しい社内制度を作って成功している企業や、効果的な採用を行う仕組みを作っている企業の勉強会に参加し、インプットを続けました。でも事例はあくまで事例でしかなく、何かの制度が上手くいっている会社は、その会社だから上手くいっていることが多いんですよね。その企業と同じことをしても、アンカー・ジャパンで上手くいくとは限りません。だから、インプットしたことは、それを自社に置き換えた時にはどんな仕組みにできるかということを強く意識しています

筒井が人事に着任してから、社内の様々な人事制度の構築やプロセスの明確化と同時に、人事のみならず総務や特定の部門に当てはまらない周辺業務も整備した。またダイレクトリクルーティングを活性化させ、コスト、マッチング、効率の面で大きな改善がなされた。

筒井 「振り返ってみると、子育てをしながら人事として新しい仕組みづくりを続けるのは本当に困難の連続で、何度も大きな壁にぶつかりました。その難局を乗り越えられたのは近くに優れたリーダー陣がいて困ったときにはすぐに相談できたこと、そして貢献したいと思う素晴らしいメンバーが社内に揃っていたからだと思います」

周囲のエネルギーを自分の糧に、次のステージへ

▲第二子出産前の筒井(2018年10月)

そんな筒井は第二子出産のため、2019年1月から再度産休を取得し、同年4月に二度目の復帰をしました。

筒井 「『えっ、もう復帰したの?』と社内外の人から驚かれます。エネルギッシュだね、と。でも一つ言いたいのは、決して私だけがエネルギッシュなのではないということ。周りからのエネルギーを与えてもらっているんです。アンカー・ジャパンの経営陣、社内の仲間、そして私の家族もみんな努力家なので、私も頑張れていると思うんです」

会社は創業期から成長期に入った中で、人事総務部門も、部門立ち上げや穴を埋めるフェーズから、より仕組みを洗練させる段階に入っています。しかしその中で、常に筒井が自戒を込めて心に留めている考え方。それは前職の入社直後に先輩社員に言われた一言に凝縮されています。

──君に期待はしているけど、信頼はしていないよ。

「今でも忘れられない」と語る一見辛辣な言葉。
しかし、この言葉を深く考えていけばいくほど、大切にしておきたい言葉だと筒井は話します。 

筒井 「いくら過去に成果を上げていたとしても、最初から周囲の信頼があるわけがないんです。最初から自分を信頼してくれるなら、それは単に幸運な環境に身を置けたということです。信頼は積み重ねていくもの。そして、期待を超えた成果を着実に積み重ねていくからこそ生まれるものです。この信頼をどれだけ高く積めるかが仕事を進めていく上で大事だと思っています。
私は今後、会社に起こりそうな問題が顕在化する前に対処するための手立てを打っていきたいと思っています。会社が成長するにつれて起こる問題はだいたいパターン化されているので、それらの問題に対処できる仕組みを作っておきたいのです

自らのキャリアと向き合い続けた筒井の新たなステージは今、始まったばかりです。