「勝者のゲーム」と資産運用入門

ロシア政府による、外資系企業の資産差し押さえなど
常軌を逸した制裁報復の内容。
実行すれば信用は地に堕ち、投資家から見放される太田忠の勝者のポートフォリオ 第23回

2022年3月16日公開(2022年3月16日更新)
太田 忠
facebook-share
twitter-icon
このエントリーをはてなブックマークに追加
RSS最新記事

日本政府はロシアとの融和路線と決別し、徹底して経済制裁を科すべき

 今回もロシアのウクライナ侵略をテーマに取り上げる。前回のコラムを読んでいない人はあわせて読んでほしい(詳細は第22回コラム「経済制裁でロシア国債のデフォルト確率は80%に上昇! ただ、もしロシアがデフォルトしても金融システムや米国経済に及ぼすリスクは限定的だ!」)。

 今やウクライナからの難民は300万人を超えていると報じられており、侵略国家ロシアへの憤りを抑えられない。ロシアが日本を非友好国と指定したことに対し、日本政府は「遺憾である」と抗議したそうだが、間抜けな話だと思う。日本は危険極まるロシアと友好関係を続けたいのだろうか? ロシアが明白に侵略国になった以上、日本は従来の融和路線とは敢然と決別し、欧米諸国と組んで徹底して制裁側に回るのが筋ではないのか? 皆さんはどう思われるだろうか。

Photo :ri3photo / PIXTA(ピクスタ)

出資比率25%超の外資系企業が事業の停止や撤退で差し押さえ可能に?

   さて、驚きの戦術をバンバン繰り出すロシア政府。ウクライナへの軍事侵攻を受けて、ロシアでの事業の停止や撤退を判断した外資系企業の資産を差し押さえる検討に入った、と欧米のメディアが先週木曜日に一斉報道。外資の出資比率が25%を超える企業がロシアで事業を止めた場合、その企業の設備や資産を押収して、ロシア側の経営者に事業継続を委ねる枠組みだと報じられている。

  実際、ロシアのウクライナ侵攻以降、国際社会の批判の高まりや日米欧が科した金融制裁の影響を受けて、米アップルや米ゴールドマン・サックス、英シェル、独フォルクスワーゲンなど幅広い業種で欧米の大企業が事業の停止や撤退を決定。もし、今回のロシアの方針が具体的に動き出せば、欧米諸国や外資系企業の反発は必至で、経済面においてもロシアとの対立が深まり、亀裂が走ることになる。

   プーチン大統領の考えはこうだ。「働く意欲のある人の職場を奪ってはならない」「撤退するのならロシアに企業を渡すことが必要だ」「その法的手段は十分にあるため問題ない」。ロシア政府にはこの計画で外資の大量撤退によるロシア経済の損失や混乱を抑え、国内の雇用保護につなげる狙いがあると思われる。しかしながら、我々からすれば、自分たちが仕掛人となって引き起こした侵略戦争の渦中、自らが火事場泥棒をしようという魂胆としか思えない。

ロシア国民の生活に根付いたグローバル企業の事業停止表明が相次ぐ

  「国際社会の批判の高まり」と述べたが、特に米国においては、ロシアでビジネスを続ける企業への風当たりが日に日に強まっている。ニューヨーク州年金基金などの大手年金基金はマクドナルドやコカ・コーラ、ペプシコなどの投資先企業にロシア事業の停止を求める書簡を送付。これはかなり重い投資判断に基づく措置である。食品メーカーや外食チェーンはロシアで地域密着型のビジネスを展開しており、当然ロシア国民のことも念頭に置いて「できれば事業継続を」という考えがあるためその態度を明らかにしない企業が多かったが、先週に入ってこうした企業群の事業停止表明が相次いだ。

   日本企業においても動きが出てきている。ファーストリテイリングはロシア国内のカジュアル衣料店「ユニクロ」全50店の営業を停止すると発表。またソニーはテレビ、オーディオ機器などエレキ事業においてロシアへの製品出荷を停止、グループ傘下のソニー・ミュージックエンタテインメントもロシアでの事業活動を停止すると発表した。要するに映画、ゲームを含めてグループ全体でロシア事業を停止する形だ。またロシア市場で4割近いシェアを持つJT(日本たばこ産業)は新規投資とマーケティング活動の停止を発表し、ロシア4工場での生産や販売は継続方針と述べていたが、事業環境が大幅に改善しなければ生産を停止する可能性がある、と方針を転換しつつある。

   近年、投資の世界では「ESG(環境・社会・企業統治)投資」の重要性が叫ばれている。企業にとっては、ロシアで事業を続ければ「非人道的」との非難を浴び、撤退してもビジネス全体への悪影響を考えないといけない苦しい状況だ。

米国は北朝鮮、キューバに続いてロシアを最恵国待遇から除外

  国境を越えて経済的に大きな役割を果たしている大企業が、戦争という地政学リスクで次々に撤退する姿。20世紀には数多くの不幸な戦争でそうせざるを得ないケースは多々見られたが、まさか21世紀においてこのような事例が出てくるとは正直驚きである。それだけ、この問題は深刻であり、憂慮すべきものだと思う。ロシア側は「ウクライナを傘下に収めればよい」「短期間で終結する」「西側諸国にはノーを突き付ける」という想定でウクライナに侵攻したが、あらゆる面でノーを突き付けられたのは他ならぬロシアである。その代償は大きすぎる。

  バイデン米大統領はロシアを最恵国待遇から除外すると発表した。北朝鮮、キューバに続く3つ目の国となり、ロシアからの輸入品に対する米国の関税率は現在の3%程度から32%前後に一気に高まる。石油、天然ガス、ウォッカ、ダイヤモンドなどの輸入も次々と停止されている。

   2000年代前半、BRICsの一角として投資家にもてはやされた時代もあったロシアだが、今やその面影は消え失せ、信用は地に堕ちた。今回の一件で、ロシアが今後、欧米諸国などから投資を呼び込むことはまず難しいだろう。信用を失うのは一瞬、それを取り戻すには並々ならぬ時間と努力が必要である。

●太田 忠

DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。プロが評価したトップオブトップのアナリスト&ファンドマネジャー。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。

 この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。

 

国内外で6年連続アナリストランキング1位を獲得した、
トップアナリスト&ファンドマネジャーが
個人投資家だからこそ勝てる

「勝者のポートフォリオ」を提示する、
資産運用メルマガ&サロンが登場!

老後を不安なく過ごすための資産を自助努力で作らざるを得ない時代には資産運用の知識は不可欠。「勝者のポートフォリオ」は、投資の考え方とポートフォリオの提案を行なうメルマガ&会員サービス週1回程度のメルマガ配信+ポートフォリオ提案とQ&Aも。登録後10日間は無料!

太田忠の勝者のポートフォリオ

10日間無料 詳細はこちら※外部サイトに移動します


ダイヤモンドZAi 2024年6月号
【クレジットカード・オブ・ザ・イヤー 2023年版】2人の専門家がおすすめの「最優秀カード」が決定!2021年の最強クレジットカード(全8部門)を公開! 最短翌日!口座開設が早い証券会社は? おすすめ!ネット証券を徹底比較!おすすめネット証券のポイント付き
ZAiオンライン アクセスランキング
1カ月
1週間
24時間
ダイヤモンド・ザイ最新号のご案内
ダイヤモンド・ザイ最新号好評発売中!

配当&株価が10倍株!
NISA投信グランプリ
ふるさと納税

6月号4月19日発売
定価780円(税込)
◆購入はコチラ!

楽天で「ダイヤモンド・ザイ」最新号をご購入の場合はコチラ!Amazonで購入される方はこちら!

[配当&株価が10倍になる株!]
◎第1特集
配当&株価が10倍になる株!
10年持ちっぱなしで「配当が10倍」になる株や「株価10倍」になる大型優良株を発掘
・誰もが知ってる大型株・優良株で実現
・新興国に進出/AI・半導体/
高齢化・人手不足/環境・EV
・番外編:1年で株価2倍になる株


◎第2特集
ダイヤモンド・ザイ
NISA投信グランプリ2024

2回を迎える、投資信託のアワードを発表!
NISAの投信選びや保有投信のチェックに最適

・NISAで運用できる投資信託のみが対象
・個人投資家が選びやすいよう、本数は30本のみ!
・個人投資家がわかりやすい部門で表彰


◎第3特集
ふるさと納税 日本3大グルメ&生産地
返礼品60 

日本3大和牛、3大地鶏、といったブランド食品や、日本3景、3名泉のベストグルメ、大注目の魚介、フルーツの3大産地の返礼品などを紹介

◎第4特集
FXで1億円!
年億稼ぐトレーダーの「神トレ」大公開!

ドル/円が34年ぶりの安値更新など、活況の為替市場。
FX界隈では、1年で「億」を稼ぐ「年億」の個人投資家が続々誕生しています。その手法を、わかりやすくお届け


◎【別冊付録】

いつまでたっても始められない人に贈る
新NISA「超ラク」スタートBOOK
完ペキさを求めてなかなか始められないより、「ラク」に「早く」始めたほうが、結果的にオトク
なかなか始められない人向け、ぐうたら指南書


◆出遅れJリートに投資チャンス! 利回り4~5%台投資判断&オススメJリート 
◆おカネの本音:渋澤 健さん
◆10倍株を探せ! IPO株研究所
◆マンガ恋する株式相場「コンビニがGAFAの一角に!?」
◆マンガ「昭和のボロ空き家はそのまま貸せばいい!?」
◆人気毎月分配型投信100本の「分配金」速報データ!


>>「最新号蔵出し記事」はこちら!



「ダイヤモンド・ザイ」の定期購読をされる方はコチラ!


>>【お詫びと訂正】ダイヤモンド・ザイはコチラ

【法人カード・オブ・ザ・イヤー2023】 クレジットカードの専門家が選んだ 2023年おすすめ「法人カード」を発表! 「キャッシュレス決済」おすすめ比較 太田忠の日本株「中・小型株」アナリスト&ファンドマネジャーとして活躍。「勝つ」ための日本株ポートフォリオの作り方を提案する株式メルマガ&サロン

ダイヤモンド不動産研究所のお役立ち情報

ザイFX!のお役立ち情報

ダイヤモンドZAiオンラインαのお役立ち情報